【川崎大輔の流通大陸】カンボジア、グレーな中古車流通に夜明け

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プノンペンポスト紙(2016年3月発行)によると、カンボジア自動車連盟(CAIF)は、消費者の利益保護と販売代理店の平準化のため、グレーマーケットで販売されている自動車に課す税金を150%に引き上げ、中古車の輸入を禁止するよう政府に求めた。

◆拡大するカンボジア中古車市場

私が5年ほど前にカンボジアを訪問した時には、トヨタのランクルやレクサスしか走っていなかった。ほんの一握りのお金持ちしか手が届かない状況であった。しかし、2016年3月に訪問したカンボジアの首都プノンペンでは、自動車の台数が急増し、朝夕の道路は自動車渋滞が発生していた。中間所得層の増加に伴い中古車市場が拡大。道路にはカムリ、カローラなどの庶民的な自動車も多くなってきている。更に中古車は値段が下がりづらいという信仰も、中間所得層による中古車購入に一層拍車をかけているという。

伸びている自動車需要だが、カンボジア国内市場の約9割が中古車となっている。理由として新車への輸入税が高く設定されているためだ。特徴的なのは、約8割の中古車がアメリカから輸入される事故車であるといわれている。更にアメリカから輸入されるのは左ハンドルの日本車メーカーがほとんどだ。カンボジアの右ハンドル規制のためである。こうした事故車を修理してカンボジア国内で販売している。

◆アセアンのゴミ捨て場

他(ほか)の国で使われなくなった自動車、アメリカでの事故車や過大な走行距離を走り自国で販売できないような車がカンボジアに入ってきている。そのためカンボジアはアセアンの「ゴミ捨て場」と呼ばれることもある。

このような市場構造になった理由としては、(1)輸入規制の欠如、(2)選球眼の欠如、が挙げられる。カンボジアを除くアセアン7か国には、現在中古車規制があり事実上輸入が不可能となっている。規制の欠如に加えて、世界から見たカンボジアの経済力が弱いため、品質や付加価値が不要な中古車市場との認識から粗悪車が集まってくる。また、このような市場構造のため昔から良い中古車が存在しておらず、売り手も買い手も両方とも自動車の目利きができない、ということも挙げられる。

◆非課税で販売される中古車

昨年カンボジアに輸入された4万5000台のち正規販売代理店によるものは1割。それ以外の9割が非課税で販売されたという。正規代理店は100%以上の新車販売課税がかかるのに対し、グレーマーケットでの販売者は税金を支払っていない。

彼らはブローカー業を生業としているため自ら車をアメリカから輸入しない。紹介だけ行うため商業登録を行わず、毎月決まった税額だけを支払い、VATの税金支払いを免れている可能性が高いのだ。

また、プノンペン市内の中央通り(ちゅうおうどおり)、モニボン通り沿いの新古車販売店はディーラー資格を持たずに自動車を販売しているという。プノンペン市内の自動車関連業者からは、ここ半年で5店ほどそのような違法な販売店が増えた、と話を聞いた。正規販売代理店は全代理店の10分の1程度だという。

このような状況をカンボジアが是正し、公正な自動車市場に向かえるのかといえば、根深い問題が指摘されている。つまり、カンボジアで何かしらの車販売にかかわっている人間は、政府関係者が多いという点だ。その職業的な利権を活用して車を輸入しているところがある。更に、カンボジア政府にとって、中古車輸入から来る税金は、政府の大きな収入になっている。つまり、中古車の輸入を禁止するような規制を簡単に実行しづらい構造が出来上がっているのだ。

◆変化しつつあるカンボジア自動車ビジネス

グレーマーケットの構造が存在する中で、今回のような中古車輸入禁止を求める声を、筆者は非常に評価している。透明な市場に向けての第1歩だと思うためだ。このような動きが加速することで、中古車市場にとってマイナス面もあるかもしれない。一方で、長期的に見た場合、アセアンのゴミ捨て場の地位から早期に抜け出ることが大事なことではないだろうか。事故車で埋め尽くされたカンボジア自動車市場からの脱却によって、クオリティが高く価値ある自動車が市場に流通することになる。自動車流通市場が整備されることで、修理・メンテ、部品販売、オートローンなどの自動車附帯ビジネスの市場も拡大していく。

2016年3月のカンボジア訪問では、個人型ビジネスに多い、安かろう、悪かろうの時代から、徐々に資金力が重視されるようなビジネスへと変わっていく兆候を見た。今までは、プノンペン市内では小さな倉庫のようなところに単に車を並べて販売しているだけであった。しかしながら、最近ではガラスのショールームを設置し、お客さんがくつろげる空間があるラウンジが併設された販売店も見られるようになった。

カンボジアの消費者も、優良な商品、そしてサービスを求める土台が徐々にできつつある。中間所得層の増加に伴い、新古車の販売は昨年10%増加している。今年も同様の伸びが期待されているようだ。カンボジアの自動車市場はまさにこれから夜明けを迎える。グレーマーケットを是正し市場を透明化していくという声を、しっかりと受け止め、反映させていくことがカンボジアにとって重要な判断になると考える。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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