圧縮空気による人工筋肉「パワードスーツが高齢化社会を支える

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要介護者を移乗する際も、腕の力だけで体重を支えられる
要介護者を移乗する際も、腕の力だけで体重を支えられる 全 6 枚 拡大写真

 少子高齢化に伴う労働人口の減少に対して、ロボットや補助デバイスの活用が研究されている。この問題にいちばん近い業界が、医療・介護関連ビジネスだ。老人ホームや在宅介護といった分野において、ITによる効率化、介護補助デバイスによる作業支援が急務とされている。

 静岡市に本社をおく「アサヒサンクリーン」は、訪問型サービス、通所・滞在型サービスといった福祉事業を展開。東京理科大学との共同研究で「マッスルスーツ」を開発し、実際の業務に導入している。

 このスーツは圧縮空気で動作する人工筋肉によって、介護者の力仕事を支援する装着型の支援器具だ。寝たきりの高齢者を入浴させたり、床ずれ防止の体位入れ替えを行ったり、移動させたりするため、介護者はかなりの重労働を強いられる。この動作を機械がサポートしてくれれば、その負担を軽減するだけでなく、事故防止などにもなる。

■50代の介護者でも使えるスーツ

 そもそも、同社がマッスルスーツを開発しようとしたのは、主力事業のひとつである訪問入浴サービスでの問題解決からだ。流通と介護は2大腰痛産業ともいわれ、介護者の多くが重労働や無理な体制での力仕事で腰を痛めている。入浴の介護では、病院ならばリフトと呼ばれる補助施設が使えるだろう。しかし、訪問入力では浴槽を室内まで運び、被介護者を抱き上げる必要があった。

 このため同社では、貴重な人材が腰痛で辞めることも少なくなかったという。人手不足と高齢化が直撃する中で、従業員が長く働ける環境づくりが急務とされていた。軽くて持ち運び可能で水にも強いリフトについての相談をメーカーに持ちかける中。最終的には東京理科大が研究していた「マッスルスーツ」がほぼ条件に合致し、共同で開発を進めることになった。

 スーツの開発で重要だったのは、持ち上げ動作、中腰・前傾ホールド機能、入浴介護のための耐水性能。そして50代の介護者でも使いやすいことだ。マッスルスーツは構造がシンプルで、モーターではなく圧縮空気を使うので水にも強い。腰の保護に重点をおいたため、操作も装着も簡単だ。

 汎用的なローバーやウェアラブルパワーアシストの場合、センサーをたくさん装着したり、扱いが大仰な傾向がある。しかし、マッスルスーツは、リュックを背負うような感じで装着できる。力をいれるタイミングとスイッチ操作のタイミングに若干の慣れは必要だが、操作は遠隔のスイッチひとつだけだ。

■「同じ人にケアされたい」というニーズに応える

 アサヒサンクリーンではマッスルスーツをすでに500台以上導入して、介護の現場で活用している。介護者は現場での作業や手順が増えることをいやがるが、マッスルスーツは会社の研修プログラムやサポートもあり、現場への浸透はうまくいっているとのこと。「最初は疑問視していた職員でも、使い慣れると手放せないといってくれています」と同社管理部管理課 課長 吉野友之氏は話す。

 最近では、ケアマネージャーからの問い合わせも増えているという。入浴介護は40歳までといわれていた業界にも、変化が表れているようだ。40代、50代の職員にとっては、もはや「無いと困る存在」という人もいる。さらに、介護される側の反応も良好なようだ。

「入浴のようなプライベートを介護してくれる人は、あまり頻繁に変わるのは嫌がられます。同じ人がいいという要望は多いのですが、腰を痛めると代わりを頼む必要があります。けがや腰痛での休養がなく、長期にわたって仕事が続けられることが大きいですね」

 アサヒサンクリーンでは、スーツ導入が目的としてあったわけではない。訪問入浴という作業に特化した課題のソリューションとしてマッスルスーツに行きついた。そのため、現場での浸透もうまく行き、サービスの付加価値向上につなげている事例といっていいだろう。同社も単純な時短効果よりも、総合的な生産性の向上を評価しているといい、今後も小型化などマッスルスーツの改良を続けていくという。

【ICTが変える高齢化社会:5】介護者を支援する「パワードスーツ」

《中尾真二》

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