【SL乗務員OBトーク #2】水がない情けなさ、急勾配のリアル

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門司港で保存されているC59(向かって左)と9600
門司港で保存されているC59(向かって左)と9600 全 6 枚 拡大写真

70~80歳代の元SL機関士が本音で語るトークショー「乗務員が語る蒸機時代2」では、糸崎機関区などで機関助士を経て、1965年に機関士になった方が、急勾配の難所といわれた「瀬野八」を越える思い出や、レールへの砂撒き、水・石炭の不足危機などについて語った。

このトークショーは、第17回国際鉄道模型コンベンション(千葉市、幕張メッセ)の8月21日のステージで開催されたもので、川端新二氏、宇田賢吉氏、大山正氏の3人の元SL乗務員が1時間半にわたって語った内容だ。

C62型やC59型などの蒸気機関車に乗務した宇田さんが、勾配へ挑むシーンや、水・石炭の不足に対する“見方”について語る。宇田さんは、1958年(昭和33年)に国鉄入り。糸崎機関区(広島県)を経て、昭和40年から機関士に。

水がなくなるほうが情けない

「たとえば、動輪の空転防止の砂撒き。砂缶から1分間に1500cc、1秒に25ccの砂がレール付近に出る。先輩から『砂の貯蔵量を考えて、1秒撒いて3秒休め』と教えられた。つまり、4秒単位でとんとんと撒けといわれた。空転防止には砂が必要だが、そのあとに続く客車の抵抗を考えたら、あまり巻きたくない。そのジレンマに常に悩まされながら、調節していた」

「そして水。C59の場合、25トン弱の水を用意して走る。その半分まで減るような運用はしてはいけないというルールがあった。台風で行く手を遮られたとき、石炭はあるけど、水が足りないという危機もあった。水がなくなってやむを得ずバンザイしたというのも、2度ほどあった。乗務員からいうと、石炭がなくなるより、水がなくなるほうが情けない」

ひとりで仕事するほうがつらい

「瀬野と八本松の間、セノハチ。勾配は22.6パーミル。全国の主要幹線を見ると、20パーミル(水平1000mに対し高低差20mの割合)を超える坂がずっと続くのはどこにでもある。ただ山陽線にあるセノハチは、輸送量が多かった。この区間に備えてふもとの瀬野には補機(補助機関車)の機関区があって、20両以上のデゴニ(D52型機関車)が配置されていた」

「瀬野は全列車が停車する駅。後ろに補機をつけて瀬野から八本松までの間を登って行く。旅客列車で所要時間はだいたい20分、貨物で30分。10kmの区間を20分で走るわけだから、その難所ぶりがわかる」

「補機がない区間でもたいへんなところがある。峠の反対側、八本松まで糸崎側のゆるい坂道を機関車1両で行くのと、瀬野側の急坂とを比べると、実は“ひとり”で行く糸崎からのアプローチのほうがたいへん。セノハチがいちばんしんどいというわけではなかった」

圧縮引き出しができない

「セノハチの場合、貨物列車は後ろに補機を2両つける。重量貨物列車は、勾配途中で止まってしまった場合、ふたたび列車を引き出せないといわれていた。セノハチは急勾配なので、『圧縮引き出し(※)』が使えない区間でもあった」 ※圧縮引き出し=出発時に機関車を瞬間後退させ、車両間連結器の“遊び”を圧縮、すぐさま前進し、前方の車両から順次引き出して、抵抗を軽減して列車を発車させること。

「また、一番前の機関車と一番後ろの補機が同時に発車すると衝動が大きい。一番前が動き始めて、どどどどんと客車の連結器の衝撃が続いて動き出し、補機も動き出したところで自らの弁を開ける(力行する)。こうした細かい動きも現場に求められた」

「瀬野から登ってきて、八本松駅入り口の場内信号機で、進行の緑が見えると、それはそれはきれいに見えた。ほんま、信号機の色が『おつかれさま』といってくれるようにも見えた」

《レスポンス編集部》

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