【メルセデス GLS 3300km試乗 前編】その走りに「苦手な道はなし」…井元康一郎

試乗記 輸入車
メルセデスベンツ GLS350d 4MATIC Sports。大分・由布岳をバックに記念撮影。
メルセデスベンツ GLS350d 4MATIC Sports。大分・由布岳をバックに記念撮影。 全 39 枚 拡大写真

メルセデス・ベンツの大型SUV『GLS350d 4MATIC Sports』で3300kmほどツーリングする機会があったのでリポートをお届けする。

GLSは2012年にデビューした2代目『GL』のフェイスリフト版で、日本市場には今年4月に導入された。末尾の「S」から察しがつくであろうが、セダンの『Sクラス』に相当する7人乗りの欧州FセグメントSUVだ。350dはディーゼルエンジン搭載グレードで、シリーズの中ではもっともリーズナブルな価格がつくベースラインである。

試乗ルートは東京~鹿児島、および九州内周遊。往路は高速道路を主体に走り、復路は高速、一般道、山岳路を適宜使い分けた。一般道・山岳路と高速道路の比率は1:2。エアコン常時AUTO、乗員は往路が福岡まで4名、その先鹿児島まで5名、復路が1名。

最初に総論から。GLSは研究開発、マーケティングの目的意識がきわめて明瞭なクルマだった。その目的とは、プレステージクラスまでを含むFセグメント高級セダンの顧客がヴァカンスの時間を満足に過ごせるに足る走行性能、快適性、安全性の提供だ。高速道路、市街路、郊外路、山岳路、そして短距離ながらグラベル(フラットな未舗装路)と、さまざまな道を走らせてみたが、「このクルマはこの道は苦手だな」と感じさせるシーンがまったくなく、開発陣がトータルバランスを取るのに相当の心血を注いだであろうことが伝わってくる作りだった。また、6基のミリ波レーダーセンサーとステレオカメラでクルマの全周囲を監視する先進安全システムも有効性が高く、それを用いたセミオートドライブは快適そのものだった。

◆「あくまで重量級SUV」かと思いきや…

では、実際のドライブフィールについて述べていこう。東京都心にあるメルセデス・ベンツ日本でクルマを受け取り、ドライブ開始。実車を目前にした最初の感想は、大柄なわりに地味な佇まいだなというもの。ひと目でメルセデス・ベンツとわかるフェイスやボディ表面の抑揚は持っているが、高価格帯のクルマらしい華やいだ雰囲気は薄い。むしろ目立たせないよう意識したのではないかと思ったほどだ。地味なのはインテリアも同様。操作系はきっちりと整理され、シートも分厚いのだが、インパネ内のメーター類の光り方、樹脂部品の風合い、ウッド調パネルの色調や光沢等々、あらゆる部分が華美さとは無縁で、そっけない。

その装いから、「ああ、これはあくまで重量級SUVなのだな」と第一印象を抱いた。ならば乗り味もSUVの大味なものかと思いきや、走り始めた瞬間にギャップに驚かされることになった。路地でスロットルを軽く踏み込むと、2580kgという巨体がずいっと水平移動を始めるように走り出すのだが、その静粛性の高さと滑らかさは驚異的なレベル。エンジン音は軽負荷域においては、ファンが“フォォゥ”と遠くで送風しているような音しか室内に進入せず、ディーゼルであることの判別ポイントはアイドリングストップからの回復のさいにガソリンエンジンよりわずかに大きく身震いすることくらいだ。

市街路における静粛性の高さと路面衝撃の吸収性、重厚感は、3000km超にわたるドライブのあいだじゅう、あらゆる路面でそのままGLSの特質であり続けた。クルマの特性を乗る人にどう体感させるかということはクルマの開発においてきわめて重要なテーマのひとつなのだが、ほんの数百メートル低速走行しただけで性格をあますところなく伝えるモデルに出合ったことはあまりなく、大いに驚きを覚えた次第だった。

往路は途中で寄り道をしながらも、行程の8割強が高速道路というルート。高速クルーズはGLSがことさら得意とする科目だった。サスペンションセッティングは車高の低い乗用車系と異なり、長大な上下のストロークを大きく使う柔らかいものだが、その味付けは巧みなものだった。たとえば老朽化路線での大きなうねり。重量2.5トン超のボディに4名ないし5名と荷物を乗せ、3トンに迫る総重量のクルマの揺れを無理矢理止めようとすると、ヒョコヒョコと落ち着きのない動きになるし、ロールセンターから大きく離れた位置にある人間の頭や内臓にかかる加速度も大きくなってしまう。GLSはそうではなく、アンジュレーションに差し掛かったときには実に素直にサスペンションを沈み込ませる。素晴らしいのは沈み込んだ後の収束で、伸び側にほとんどリバウンドせず、中立の位置でピタリと止まるのだ。この動きがGLSのフラットライドの原動力になっている。

◆パワーを生かした心地よいクルーズ

動力性能はプレミアムセグメントとプレステージカーの境界に位置する車格に対し、必要にして十分なレベルにあった。3リットルV6ツインターボディーゼルの公称スペックは最高出力258ps、最大トルク620Nm(63.8kgm)で、2580kgの車両重量に対するパワーウェイトレシオはちょうど10kg/psとなる。1トンのクルマを100psのエンジンで走らせるようなもので、動力性能的には辛いのではないかと予想したが、実際には急勾配も含め、十分以上に活発な走りを示した。1名乗車時に高速道路のバリアを利用してブレーキオーバーライドスタートをやってみたところ、0-100km/h加速は手動計測で8秒フラットだった。

このパワーを生かしたクルーズはとても気持ちの良いもので、まさに大船に乗った気分であった。ドイツ仕様では最高速度は220km/hに達するほどの性能なので、日本の高速道路では新東名などの速い流れに乗ってもノーストレスである。100km/h巡航時のエンジン回転数は8速で1500rpm強、9速で1300rpmだった。

高速での合流や料金所、追い越し等のフル加速では、エンジン音はさすがに高まってくるのだが、面白かったのはそのサウンド。ディーゼルはいかに上手くサウンドチューニングしてあっても、音質はガソリンとはちょっと違う野太いものというのが普通なのだが、GLSのそれは“シュロロロロロ…”というガソリンV6のようなシルキーな音。ちょうど昔の日産『フェアレディZ』のV6ターボのようなサウンドだった。もともとディーゼルはガソリンに比べて4発と6発の差が大きいものだが、実際にこういう仕立てのものに接してみると、やはり6発はいいなあと思わされる。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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