台風被害、根室本線の代行輸送を利用してみた

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札幌までの最終乗継ぎとなる、上りの代行バス6便(左)と札幌行き臨時特急9010D。
札幌までの最終乗継ぎとなる、上りの代行バス6便(左)と札幌行き臨時特急9010D。 全 2 枚 拡大写真

北海道といえば、従来、台風とは無縁の土地と思われてきたが、今年は8月に3度も台風に襲われている。とくに8月30日から31日にかけて襲った台風10号は、道東地方を中心に深刻な被害を与えた。

なかでも鉄道は、根室本線富良野~芽室間が9月11日現在も不通で、札幌と帯広、釧路を結ぶ大動脈が正常に機能していない状態が続いている。新得駅構内の下新得川橋梁、新得~十勝清水間の第1佐幌川橋梁、十勝清水~羽帯間の清水川橋梁、御影~芽室間の芽室川橋梁で線路が宙吊りもしくは路盤流出状態となっており、復旧は早くても12月以降と見られている。そのため、札幌~帯広間の特急『スーパーとかち』、札幌~釧路間の特急『スーパーおおぞら』は全列車が運休という事態に追い込まれている。

また、並行する道路も、道央と道東の橋渡しともいうべき国道274号線が、日勝峠付近各所で崩落するなど大打撃を受けた。高速道路の道東自動車道も占冠IC~芽室IC間が冠水で一時通行止めとなっていたが、9月1日に復旧したことを受けて、8日から札幌~帯広・釧路間で代行バスを挟んだ鉄道輸送が再開された。札幌~トマム間には臨時特急が、帯広~釧路間には臨時快速がそれぞれ設定され、代行バスはトマム駅~帯広駅間で運行されている。とはいえ、鉄道だけに比べると、所要時間は1時間から1時間30分程度にまで延びてしまうため、札幌~帯広・釧路間の代行輸送はわずか3往復に留まっている。今回はその代行輸送を利用して、9月10日に札幌~帯広間を往復してみた。

トマム以西を走る臨時特急は札幌が始終着となるが、今回は「青春18きっぷ」を利用したため、札幌~新夕張間は快速・普通列車を利用。普通列車が運行されない新夕張~トマム間は、普通乗車券や「青春18きっぷ」などの企画乗車券だけでも利用できる特例区間なので、臨時特急に乗車した。トマム駅~帯広駅間の代行バスはもちろん「青春18きっぷ」だけで利用できた。

新夕張駅で待ち受けた13時02分発の臨時特急9005Dは、『スーパーおおぞら』に使われているグリーン車付きのキハ283系7両編成で、普通車はすべて自由席。グリーン車を利用する場合は、車内でグリーン券を購入することになっている。車内は中間の5号車が半数程度の乗車率だったが、前後の車両へ行くほど空席が目立ち、トマム寄りの2両は各車にわずか2人しか乗車していなかった。グリーン車に至っては1人という淋しさだ。それでも新夕張~トマム間の所要時間は36分で、スピードは定期特急とまったく変わらない。愛称名なしの臨時特急とはいえ、気分は『スーパーおおぞら』と同じだ。

臨時特急が終点のトマムに到着すると、ホームが狭いという理由で、まず、隣接する星野リゾートトマムへ向かう客を下車させてから、代行バスの客を案内するという手順が採られた。バスはホームのすぐ横に停まっているのに、乗換え時間が22分もあるのはそのためだ。

バスはJR北海道バス1台と旭川電気軌道バス2台が用意されていたが、臨時特急の利用客が極めて少なかったため、1列に1人が着席している状態。バス1台でも賄えるように思えたが、札幌を7時54分に出る1本前の9031Dだと帯広に午前中に到着できるので、それなりに混雑していたのかもしれない。

代行バスの所要時間は1時間30分となっている。しかし、予想に反して道東自動車道やその周辺道路の通行はスムーズで、実際には20分程度早く帯広駅に着いてしまった。もちろん、道路状況は筆者が利用した土曜日と平日では大きく異なるので、不測の事態に備えて余裕を持たせているのだろう。また、代行バスは、新得、羽帯、御影、芽室の各駅には寄らない。これは、札幌~帯広・釧路間の所要時間を優先したのだろう。新得駅には最寄りにICがないし、芽室ICの場合、芽室駅までおよそ7kmはあるので、高速を降りてから往復約14kmの道のりは相当なロスになる。ここが、一般道を通る代行バスとは事情が大きく異なる点だろう。

バスがトマム駅を出ると、早くも白樺の並木が激しくなぎ倒されているシーンを見かけるようになり、台風がもたらした大雨のすさまじさを感じた。道東自動車道に入っても、ブルーシートや土嚢に覆われた斜面が目立ち、高速道路ですら想定外の大雨には強くなかったことを物語っているかのようだった。道東自動車道は真冬にしばしば通行止めになることがあるので、国道274号線の日勝峠付近が通行できない状態が続くと、今後の道路事情がかなり心配になってくる。一般道が利用できない現在、道東自動車道は占冠IC~音更帯広IC間での乗降のみ、通行料無料の措置が採られている。

帯広で接続する15時53分発釧路行き臨時快速9305Dも、『スーパーおおぞら』用のキハ283系が使われていた。臨時特急より1両短い6両編成でグリーン車も連結している。こちらも全車自由席で、グリーン券は車内購入となる。快速とはいえ、途中の停車駅は池田、浦幌、白糠のみで、所要時間は1時間41分と、定期の特急とまったく変わらない。ならば、こちらも臨時特急としたいところだが、トマム駅~帯広駅間がバスとなると所要時間が延びてしまうので、帯広以遠への通しの特急券は売りにくかったのだろう。札幌~トマム間、帯広~釧路間の特急券を別々に発売するにしても、通常より割高になってしまうので、これ以上、利用客に迷惑をかけたくないという配慮が見てとれる。

快速ということで、「青春18きっぷ」でも利用できるのは魅力的だったが、あいにくこの列車に乗ると当日中に札幌に戻れなくなってしまうため、あえなく見送り。キハ40形2両でも賄えるのではないかと思えるほどの乗車率だったが、あくまで定期特急の代替列車なので、特急形車両を使わないわけにはいかないのだろう。

帯広からの復路は、16時45分発の代行バス6便に乗車した。これが札幌まで乗り継げる最終便となる。往路と同じく1列1人ずつの乗車率で、3台が続行。復路も通行はスムーズで、往路と同じく20分程度早くトマム駅に到着。待っていた臨時特急は『スーパーとかち』に使われているキハ261系だった。往路の臨時特急以上に閑散とした車内で、車内放送はすべて車掌の肉声で行われていた。

考えてみると、この臨時特急・快速、代行バスを利用すると、札幌~釧路間は普通乗車券だけでおよそ7時間30分で移動することができる。通常、札幌~釧路間を普通列車だけで移動すると、滝川~釧路間は日本一乗車時間が長い普通列車2427Dを利用するとして12時間近くかかる。なんと、4時間以上も短縮されるわけだが、2427Dを楽しみにしている人にとっては残念なことかもしれない。

とはいえ、このようなことはあくまで偶然の産物であって喜べることではない。可能な限り早く不通区間が復旧し、通常の特急輸送が復活することを祈りたい。

《佐藤正樹(キハユニ工房)》

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