【土井正己のMove the World】TPPで日本が注目すべき「3つのポイント」とは

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自動車の輸出(参考画像)
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米国の大統領選でのディベートでも大きく取り上げられているTPP。日本の国会でも批准をめぐり議論が繰り広げられている。日本の農産物を守ることなど課題はあるものの、人口が減少する日本にとってはTPP加盟国とマーケットが一体となっていくこと、すなわち「統一市場」が創設されることは、決して悪い話ではないだろう。

メディアでは、TPPの意味合いとして、関税の撤廃など「貿易の自由化」を中心に語られているが、他にも幾つかの注目すべきポイントがある。ここでは、できるだけ目線を遠くに置いて考えてみたい。

◆技術規格の統一化

まず、第一に、「新技術」や「モノづくり」の統一規格が、TPPの枠組みの中で決まっていく可能性があることだ。「統一市場」ということは、規格も徐々に統一化されていくことを意味する。同時に規制なども統一化されていく。自動車で言えば、将来、自動運転技術の規格、水素スタンドの規格、排ガス規制のルールなどが統一化される可能性があるということだ。そうなれば、生産者は、同一の部品、技術で対応できるようになるので、スケールメリットによりコストダウンが可能ということになっていく。日本や米国は、この分野でのメリットは大きい。

◆人権尊重の倫理統一

第二に、「統一市場」においては、働き方のルールや企業のコンプライアンスも統一化されていくことが考えられる。基本的な労働慣行(例えば、児童労働の禁止、労働者の雇用保護など)は人権尊重の考えに基づいて決められていくことになるであろう。こうしたところが統一化してくれば、倫理観が共有され、将来的には労働者の「移動の自由」ということも可能となってくる。(EUでは、倫理観の共有がなされる前に「移動の自由」が拙速に進んでしまったというのが、問題を大きくしていると思う。)

◆安全保障上の問題

第三に、国家の安全保証上の意味合いだ。これは、一言で言えば「米国のアジア太平洋地域へのコミットメント」である。この地域は、経済の成長が最も見込まれる地域である一方、最も不安定化に向かう可能性がある地域だ。先日、来日したフィリピンのドュテルテ大統領は「米国との決別、中国との軍事関係強化」という大胆な発言を繰り返している。また、北朝鮮の核及びミサイル実験もここのところ頻繁となってきた。この地帯から、米国が引き上げ、自国に閉じ篭るようでは、アジア太平洋地域の安定は心許ないものになる。もちろん、そういう状況になれば、米国自体も安全保障上、問題を生じ、経済的損失は計り知れないものとなるので、ほぼ有り得ないことだが、次期大統領が誤った判断をすることは十分あり得る。そうした可能性を少しでも減らすためにもTPPは必要と思う。「モノづくり」にとって、平和・安定というのは、絶対的に必要な条件である。

以上のように、TPPは、単に「貿易の自由化」だけの話ではなく、これからの日本の進路に大きな意味合いをもたらすものだ。できれば、国会においても、目先のことだけでなく、次の世代にも目を向けた議論を期待したい。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサルティング・ファームである「クレアブ」代表取締役社長。山形大学特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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