【レクサス RX 1500km試乗】抜群の存在感に負けない「味」が欲しい…井元康一郎

試乗記 国産車
レクサス RX200t Version L
レクサス RX200t Version L 全 28 枚 拡大写真

トヨタの高級車ディヴィジョン、レクサスブランドのクロスオーバーSUV『RX』で1560kmほどツーリングする機会があったのでリポートする。

2015年秋に日本での発売が開始されたRXは、1998年に発売された初代(日本名『ハリアー』)から数えて4代目。初代は全長4.5m台のプレミアムCDセグメント相当だったのだが、モデルチェンジのたびに急速に巨大化し、今は約全長4.9mという堂々たるプレミアムEセグメント相当のクロスオーバーSUVとなった。

試乗車は排気量2リットルの直列4気筒、俗に言うダウンサイジンターボエンジンを積んだ「RX200t」のAWD(4輪駆動)で、グレードは豪華装備を満載した「Version L」。ドライブルートは東京・葛飾と大阪・岸和田の往復。往路、復路とも茨城の古河を経由したため、そのぶん距離がかさんだ。道路のおおまかな内訳は高速道路5、郊外路3、市街路2。路面コンディションは全区間ドライ、2名乗車、エアコンAUTO。

◆存在感抜群のスタイリング

まずはロングドライブトータルの印象から。RXは賛否が分かれそうではあるが存在感抜群のスタイリングと手堅く端正にまとめられたインテリアについては、プレミアムセグメントらしさは十分以上であった。また静粛性の高さはトップレベルで、良路におけるフラット感も素晴らしいものがあった。半面、ドライブフィールは退屈で「今、自分は上等なクルマを動かしているのだ」という実感に欠け、また乗り心地についても少し路面が荒れていたりアンジュレーションがきつかったりすると途端に良さが失われてしまう傾向が顕著であるなど、プレミアムセグメント失格と思えるような部分も少なからずみられた。

各論に入っていこう。RXでのドライブ中、最も印象深かったのは内外装のデザインと仕立てだった。2011年にプレミアムEセグメントの『GS』に初採用され、今ではすっかりレクサス車のアイコンとして定着した感のある巨大な「スピンドル(糸巻き)グリル」、きつく吊り上がった薄目のヘッドランプ、複数の線が複雑に入り組むプレスラインなど、アイキャッチ性ははなはだしく高い。

今どきのレクサスデザインの特徴は、錯視(目の錯覚)を積極的に利用していること。RXの複雑なプレスラインやウインドウグラフィックも、それが目的とみられる。実車を立体視すると、実寸より前後方向に長く、また全高が低いように見える。その雰囲気を記録しておこうと思って写真を撮ってみても、平面視だと普通に見える。これはちょっと不思議な感覚である。

トヨタとレクサスのデザイン改革を進めるデザインディレクターの福市得雄氏は初代『カリーナED』、WRCで一躍有名を馳せた4代目『(流面形)セリカ』、初代『プレヴィア(日本名:エスティマ)』などのデザインを手がけてきた人物。若い頃にアメリカを旅し、アメリカに強い憧れを抱いていたからか、寸法に制約があるクルマであってもスラリとしたプロポーションに見せたいという気持ちが強く、その手段として錯視を多用するのが、氏がディレクションするデザインの特徴だ。

トヨタに限らず、クルマのデザインにおいて錯視は表現の幅を広げるための手段としてよく使われるのだが、あまりやりすぎるとデザインがうるさくなる。また、錯視は見る角度によって有効性が違うため、あまりに無理な使い方をするとクルマが一定角度美人になってしまう。実際、“錯視、策に溺れる”で、本来のフォルムを無理矢理違うように見せようとして、かえって往生際の悪いデザインになってしまっているクルマも少なくない。RXは、これ以上やると明らかに変になるというギリギリの線を見切ったところでとどまっており、その点は見事と言える。

インテリアはエキセントリックなエクステリアとは裏腹に、実に手堅くまとめ上げられている。インパネ、ダッシュボード、シート、スイッチやレバー類など、細部にわたって意思ある造形となっており、色使いもなかなかお洒落だ。残念なのは、ここまでデザインにこだわったのに、メーター、ディスプレイ、各種スイッチの文字のデザインがダサいこと。ここにシャープさが出ればもっと上等に見えるだろう。もっとも、現状でも作り込みは十分以上にオーナーを満足させるレベル。世界のプレミアムEセグメントSUVのライバルのインテリアは総じてRXよりはるかに素っ気ないだけに、RX独自のアピールポイントと言えそうだった。

◆レクサスが考えるSUVの「味」とは

実際に走らせてみたときのRXの優位点は、静粛性の高さだ。とくにタウンスピードではメカニカルノイズ、外部騒音の遮断ともきわめて優れており、セグメントトップレベルだ。高速巡航でも騒音の高まりは最小限。空力特性が優れているとみえて、ゴウゴウという低周波の風切り音は極小だった。また、ミラーまわりやガラスとボディパネルの段差部分からの笛吹き音も皆無に近かった。

これで走りや乗り心地、操作感など、動的質感の高さが伴っていれば、RXは素晴らしいプレミアムEセグメントSUVとして太鼓判を押せるのだが、残念なことにクルマとしていちばん肝心要のそれらの点については、ライバルに遠く及んでいなかった。

最大の難点はシャシーセッティング。こまかいハーシュネスについてはまあまあ当たりの柔らかさを演出できており、新東名高速のように路面がフラットなコンディションであれば一応プレミアムセグメントっぽい滑るようなクルージングフィールを味わえる。しかし、アンジュレーションや段差が大きくなり、サスペンションストロークを大きく使うシーンになると途端に振動、揺すられ感、突き上げが強くなり、快適性は顕著に悪化する。コーナリング時にかかる身体への横Gも攻撃的であった。

試乗車は車両重量2トン超という重量級であったが、その車重が持つ慣性力を生かしたセッティングではなく、重いクルマの揺動を無理矢理止めようとでもしているような変な固さ終始つきまとった。もともとSUVは乗員の位置がロールセンターから離れているため、クルマが揺れたときの乗員の揺れ幅が宿命的に大きくなる。そのSUVの乗り心地を良くする重要なポイントは、揺れるときの加速度をできる限り小さくすることなのだが、RXの開発陣は揺れ幅そのものを抑制することに重きを置いているようだった。

筆者は昨年秋、1クラス下のクロスオーバーSUV『NX200t』のFスポーツというモデルを800kmほど走らせてみたが、旧東名のクルーズでは揺すられ感があまりにも強く、同乗していた3人とも東京に帰り着いたときには疲労困憊という有様だった。Fスポーツは富士スピードウェイでも走れるということをウリにしたシリーズ。SUVをサーキットでなどということをやるからこんな変なセッティングになったのかもと想像していたが、RXのバージョンLもテイストの方向性自体は同じだった。自らレクサスのマスタードライバーを務める豊田章男・トヨタ自動車社長を筆頭とするレクサスの実験部隊は、そもそもこういう味がいいと考えているのかもしれない。

◆エンジンの力感は必要十分。ATはどうか

エンジンは昨年、トヨタがNXで初デビューさせた新鋭の2リットル直4直噴ダウンサイジングターボ。エンンジンそのものの力感は必要十分なレベルをクリアしており、静粛性もプレミアムセグメントとして十分以上に良かった。燃費は車格を考えると大変良好で、高速比率が半分以下だった往路が満タン法計測で11.8km/リットル、高速主体の復路が同11.5km/リットル。エコランを心がければ13km/リットル台くらいは十分達成することができそう。瞬間燃費計の推移を見る限り、クルーズ速度を大型トラック並みに抑えればさらに上も狙えそうだった。

一方、高速道路のバリアからの発進加速や合流、追い越し加速などのパフォーマンスは、最高出力175kW(238ps)、パワーウェイトレシオ8kg/ps台という数値のわりにはかなり低かった。バリアを利用して0-100km/hタイムを計測してみたが、ブレーキオーバーライドからのスタートでぎりぎりではあるが10秒を切ることができなかった。今夏に乗ったFセグメントSUV、メルセデスベンツ『GLS350d』はパワーウェイトレシオ10kg/psと平凡であるにもかかわらず実測8秒フラットだったのと比べてちょっと悪すぎる。

これはひとえに、組み合わせているATが安物の6速で、燃費性能を悪化させないために発進用の1段からトップギアまでハイギアードにせざるを得なかったことによるものとみられた。変速ステップがワイドであるのをカバーするためか、ロックアップ領域を狭めてトルク増幅を多用しているのもいただけない。ちょっとアクセルの踏み込み量を増やすとロックアップが解除されてエンジンの回転数がうねうねと上下し、ダイレクト感に欠けるフィールになってしまっていた。プレミアムセグメントであればロックアップ領域を広く取り、変速時にエンジンの回転数を次の段にスパッと合わせるような精密感がほしい。

別に、トヨタに持ち駒がないというわけではない。トヨタグループ内の変速機メーカー、アイシンAWはエンジン横置きFWD(前輪駆動)用の大容量8速ATも作っており、現にボルボなどはそれを使っている。ノンプレミアムの『クラウン』でさえこのエンジンと8速の組み合わせであるのだ。6速で十分と強弁するのはトヨタの自由だが、それならしょせんその程度のこだわりなのかと顧客に思われるリスクは真っ向から受け止めなければならない。

◆チャレンジの過程にあるモデル「RX」

まとめとライバル考。レクサスRX200tの最大のハイライトはファッション性の高さ。好みは大きく分かれそうではあるが、存在感の面ではドライブ中、乗りつけた時にクルマに詳しくない人であっても「すごいクルマだね~」と言いうほどで、RXならではの雰囲気作りについては大いに成功している。プレミアムセグメントの潮流が地味目に走っているなか、ライバルに対する“逆張り”効果は十分に期待できるし、このデザインが好きだという顧客にとっては深く愛着を覚えるポイントにもなろう。

一方で、動的質感は静粛性を除くと平凡きわまりない。RXはプレミアムセグメントだが、この程度の味付けならノンプレミアムでももっといいクルマはいくつもある。たとえば走りのレベルはRXよりはるかに劣るが、重量級のボディをどう揺らせば高速クルーズが心地よく感じられるかという知見に限れば、現行モデルになって性能が飛躍的に向上した同じトヨタの『アルファード/ヴェルファイア』のほうがよほど優れている。

スタイリングやインテリアのデザインを頑張ることはクルマの魅力を上げるのに非常に有効な手段なのだが、それは同時に、走り始める前に顧客が抱く走りのフィールへの期待感を大幅に引き上げることでもある。見かけに中身を追いつかせることに四苦八苦しているという意味では、レクサスの悩みはマツダの悩みと軌を一にしていると言える。両者とも、クルマの中身を顧客の期待値よりほんのちょっと上に持って行くことができたら、それがワールドワイドでブランド力が上がる瞬間になろう。

豊田章男社長は北米向けのレクサス『ES』のラインオフ式の席上で、「レクサスを、さまざまなクルマを知るお客様が最後に選ぶブランドにしたい」と将来夢を語った。つまり、これでいいという顧客に売れればいいというのではなく、味のわかる顧客に最高だと思ってもらえるクルマづくりをモノにしたいと言うのである。その道は果てしなく遠いが、チャレンジしなければいつまでも実現できない。RXはその過程にあるモデルだけに、あえて厳しく見てみた。

現行RXは北米向けセダンの『アヴァロン』をベースに作られているが、このプラットフォームは旧態化している。本格的な改良は現在トヨタがレクサス用に準備している新アーキテクチャ「L-TNGA」が適用される次期モデルまで待つことになるかもしれないが、クルマのテイストの作りこみは今のプラットフォームでもいくらでもやれるはずで、ランニングチェンジに期待したい。

ライバルはプレミアムEセグメントSUV全般。トヨタ以外の日系メーカーは国内にこのクラスのモデルを投入していないため、国産ではライバル不在。相手はもっぱら輸入車勢となる。最も競合しそうなのは同じFWDベースで2リットルガソリンターボがあるアウディ『Q7』とボルボ『XC90』。次いでBMW『X5』、メルセデスベンツ『GLE』のRWD(後輪駆動)ベースモデルが来るだろう。これらのライバルに対するRXのアドバンテージは内外装の華やかさ、価格、品質安定性など。それらを求めるカスタマー、あるいは日本発プレミアムブランドを応援したいという思いを抱くカスタマーにとっては、RXは良い選択肢となるだろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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