【期待が外れた】三菱 i-MiEV…ほったらかしにされてしまった

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三菱 i-MiEV
三菱 i-MiEV 全 3 枚 拡大写真

年末年始の読み物「期待外れの車」シリーズ。ディスるわけではありません。発表時点でみんなが期待した、しかしその期待に応えることのできなかった、いわば悲運のモデルを紹介していきます。今回の筆者は井元康一郎さん。井元さんをがっかりさせたのは---。

リチウムイオン電池を搭載した量産EVのトップバッターは何か。世間的には日産自動車の『リーフ』というイメージがほぼ定着しているが、実は本当の第1号は三菱自動車の『i-MiEV(アイミーブ)』だ。エンジンを車体の後部に積む軽自動車『i(アイ)』をベースに動力系をすべて電動パワートレインに換装するという手法で作られた。

この i-MiEV、ボディサイズも電気駆動部の出力も軽自動車規格であったが、クルマ自体はとても魅力的にできていた。なかんずく素晴らしかったのは、エコカーの概念をひっくり返すような走行性能。スロットルをひとたび深く踏み込めば、ジェット機のターボファンエンジンのようなキューンという音を立てながら、エンジン車ではターボでもこうはいかないと思えるような、高速域まで昇り詰めるように気持ち良く加速した。新世代EVトップバッターの最大の特徴は、ドライビングプレジャーだったのである。

が、三菱自動車はこの i-MiEVの商品特性を上手くセールスに結びつけることができず、また改良もほとんど進めることができなかった。デビュー当時、益子修社長は「バッテリーの研究開発は日進月歩。性能はどんどん良くなる」と豪語していたが、2009年の発売後、7年以上が経過した今日に至るまで、実際には航続距離をはじめとする性能はごくわずかしか進歩しなかった。

クルマそのものの性能だけではない。EVで遠出をするときに必須となる充電スポット情報をカーナビを使ってどう提供するかといった、使い勝手に関する改良もほとんど行われなかった。i-MiEVでひとたび遠出をすると、充電スポットを探すのにも一苦労し、油断するとバッテリー切れの恐怖と闘うハメになる。

華々しくデビューした i-MiEVがその後、ほとんどほったらかしになってしまった理由は、後発のプラグインハイブリッド『アウトランダーPHEV』が思いのほか売れたため、そっちのほうに夢中になってしまったからだ。
アウトランダーPHEV
2000年、2004年と2度もリコール隠しをやらかした三菱自動車は、次世代エネルギー車をいくつも開発するだけの余力を持っていなかったのは事実だ。が、i-MiEVの放置ぶりはいくらなんでもひどすぎた。せめてテレマティクスによる充電情報の提供のありかたを高度化させるだけでも、ずいぶん使い勝手が良くなるであろうに、それすらやらなかったのである。果たして i-MiEVは世界中で販売が失速し、今ではほとんど生産されていないという状況にまで追い込まれてしまった。

三菱自動車にとって、i-MiEVはまったく無駄だったわけではない。EV作りに関して、明電舎やGSユアサなど他業界とのバリューチェーン作りを経験し、また電気駆動の基盤技術も持つことができた。これがなかったら日産からも見捨てられ、得意とする東南アジアに落ちのびなければならなかった可能性すらあった。だが、i-MiEVを事実上放置し、期待を寄せた顧客や部品メーカーなどステークホルダーをないがしろにしたことは厳に反省すべきだろう。燃費偽装問題を機に日産傘下に入った三菱自動車が独自でEV開発を行う可能性はほとんど消えたが、リーフにもないようなドライビングプレジャーを実現させた技術的な知見が日産とのEV共同開発で生かされることがあるか、興味深い。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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