【ドライブコース探訪】奥只見から尾瀬へ…秘境を手軽に味わうなら

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R352。ダム湖の奥部に向かうにつれ、最果て感が高まっていく。
R352。ダム湖の奥部に向かうにつれ、最果て感が高まっていく。 全 19 枚 拡大写真

奥只見ダムから裏尾瀬、南会津方面へと抜ける国道352号線、通称「樹海ロード」は、太平洋側と日本海側を隔てる山脈の核心部の景観を楽しみながら走れる素晴らしいルートだ。奥只見ダムに向かう奥只見シルバーラインの途中、トンネル内に分岐がある。そこからトンネルを抜けて只見川にかかる橋を渡るとR352枝折峠ルートとの合流地点、銀山平に出る。

銀山平という地名はその昔、ここに銀山があった名残り。集落は奥只見ダムのダム湖に沈められ、その様子は奥只見ダムの電力館にて写真で見ることができる。80年代初頭には積雪量36mというとてつもない雪が降ったほどの厳しい自然の中でよく人が暮らしていたものだとあらためて驚くが、平家落人の里というのは得てしてそういう場所にある。よほど源氏の追討が厳しかったのだろう。銀山平には広い湖畔の岸があり、バーベキューや釣りを楽しむのに格好の場所となっている。

銀山平を過ぎると早くも幅員がせばまる。新潟-福島県境を越えたところにある尾瀬御池ロッジまで、およそ50kmにわたる山岳路である。道は細いが舗装状況は全般的に良好で、昔に比べれば素晴らしく走りやすい道になった。そもそもここはバスやトラックも通るので、何ら恐れる道ではない。また、それら大型車とのすれ違いポイントが随所に整備されたのは嬉しい。

ただ、ところどころ路上を沢の水が流れる洗い越しの部分があり、そこの窪みは少しきつい。最低地上高に余裕があるクロスオーバーSUVやフロントオーバーハングがごく短い軽自動車は何の気兼ねもなく通過できるが、たとえばスバル『BRZ』/トヨタ『86』のように最低地上高が低くオーバーハングが長いクルマだと、微速前進しないとガリッとやってしまうだろう。この日乗っていたシトロエン『C4』は減速なしでドーンと行ったりしない限りは大丈夫という感じであった。クルマの設計ポリシーをモロに体感できるルートと言えよう。

尾瀬御池ロッジまでは途中に食事、宿泊ができるコテージが1箇所あるだけで、あとは自動販売機もなく、また大半の区間では携帯電話も3キャリア全滅と、秘境ムードを手軽に味わうにはなかなかいい。またダム湖畔を走る道路は直線区間がきわめて少なく、沢によってアップダウンも結構あるので、クルマの足が結構タフに試されるところでもある。ヨーロッパの山道のように90km/h、100km/hという制限速度ではないが、60km/h制限でも十分楽しめるだろう。

ドライブの秘訣はただひとつ、無理をしないということだけだ。福島から新潟へのショートカットルートということもあってか、対向車は走り慣れたドライバーが多く、狭い道でのすれ違いも阿吽の呼吸で行ける。唯一警戒したのは二輪車で、1車線道路の道幅をフルに使ってアウトインアウトを決め、普段も道の真ん中を走るライダーが多かった。窓を少し開け、バイクの音が聞こえてきたら警笛を鳴らして相手に自車の存在を伝えるといったケアが有効だ。

ダム湖沿いルートの風景は上流に進むに従ってムードは刻々と変化していく。銀山平から30km弱走ったところにある遊覧船の尾瀬口発着場あたりに来ると、ダム湖もすっかり狭くなり、この先は源流という雰囲気が漂う。途中、過負荷走行のためかラジエータのクーラントが噴出して立ち往生しているクルマがいた。

走りやすくなったとはいえ、R352は極度の過疎地帯を抜けるため、いったんクルマがトラブルに見舞われると大変だ。筆者はたまたまペットボトル入りの水を持っていたのでそれをリザーバータンクに補給し、尾瀬口発着場まで自走してもらってダム湖の水をろ過して応急処置をした。配管やラジエータ本体に穴が開いたわけではなかったようで、事なきを得た。尾瀬口発着場は湖面と街道の標高差が結構大きく、それだけに船着場は静謐の一言。そこで風景をひとしきり楽しむのもいいものだと思った。

尾瀬口発着場の少し先に、前述のコテージ「小白沢ヒュッテ」がある。今回は素通りしてしまったが、季節の山菜、野菜の販売や激安での汁物ふるまいがあったりしてとても楽しいところだ。料理もユニークで美味しく、大休息にはもってこいだ。また、近隣の山への登山の起点にも使え、テントを持参すればキャンプ場もある。

奥只見湖の最奥部を過ぎると、あとはずっと山道。新潟-福島県境を越えて15分ほど走ると、そこが尾瀬御池ロッジだ。尾瀬は言わずと知れた散策、トレッキングのメッカで、併設される駐車場も広大。そこから南会津方面はもはや、厳しい箇所はない。

大都市圏からはいささか遠い国道352号線奥只見ルートだが、ドライブを楽しむのにはとても良い道だ。道路管理を請け負う魚沼地域振興局の動きが悪く、深雪地帯であることを勘案しても冬季通行止めの期間が長すぎるのが玉にキズだが、6月でも新緑を鑑賞できたり、晩秋には一面紅葉に染まったりと、景観の変化も素晴らしい。ぜひ一度通っていただきたいルートである。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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