アニメ×クラウドファンディングの成功が示す新たな“ものづくり”の形…「この世界の片隅に」成功の裏側

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アニメ×クラウドファンディングの成功が示す新たな“ものづくり”の形…「この世界の片隅に」成功の裏側
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2016年11月12日に公開された、劇場版アニメ『この世界の片隅に』。公開1週目は63館での小規模公開で始まったこの一本のアニメは、公開と同時に口コミで話題となり、現在は90館に拡大。観客動員数60万人、興行収入8億円と、大きな広がりを見せている(12月26日現在)。この作品が広がった理由は、大手マスコミではなく主にインターネット上で評価が拡散されたこと。草の根運動とも言えるその動きの背景には、スタートアップの資金をクラウドファンディングで募集したことがあった。こうの史代による漫画を、『マイマイ新子と千年の魔法』などの片渕須直監督がつくる、製作委員会を組成するためにまずは短いパイロットフィルムをつくりたい――。その願いを叶えるために立ち上がったのが、株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングが運営するサイト「Makuake」だ。

同社の代表取締役である中山亮太郎さんは、『この世界の片隅に』のスタートを影で支えた功労者のひとり。クラウドファンディングによってアニメの制作資金を集めることで、どんな効果が生まれたのか。『この世界の片隅に』の始まり、そしてクラウドファンディングの本質と実態を尋ねたところ、アニメの新しい未来が見えてきた。
[取材・文:大曲智子]

■ネット上に散らばっていた「『この世界の片隅に』のアニメが見たい」という声

――Makuakeでパイロットフィルムの制作資金を募集したことがきっかけで大ヒットに繋がった、『この世界の片隅に』。Makuakeを運営する株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングの代表取締役社長として作品に関わっている中山さんは、この状況をどう感じていますか。

中山亮太郎(以下、中山)
いいものはちゃんと広がるということが如実に表れた事例だなと思いましたね。映画のプロモーションって、これまではまずマスメディアからだった。最初に人気の情報番組が取り上げて…という王道プロモーションがあったわけですが、人々の第一接点がインターネットになっている現在において、その方法はパーフェクトではないですよね。『この世界の片隅に』は、最初の出会いがインターネットという点がすごく大きかったと思っています。


――事の発端として、『この世界の片隅に』のパイロット映像制作資金募集をMakuakeで行うことになったのは、どのような経緯だったんですか?

中山
2014年の冬か2015年の年明けの頃だったと思います。このアニメのプロデューサーをしている真木さんから、相談したい案件があるということで、オフィスに伺うと『この世界の片隅に』のパイロットフィルムをクラウドファンディングしたいがどうだろうという相談をいただきました。

――なぜ、『この世界の片隅に』がイケると思ったんですか?

中山
実は2010年から片渕須直監督を中心に『この世界の片隅に』の制作企画は走り出していて、作品にからめたワークショップや取材した内容などを片渕監督自身がツイッターなどで定期的に発信していたんですよ。それに対する一般の方の反応を見たら、「『この世界の片隅に』をぜひアニメで見たいです」という熱いものばかりでした。原作ファン、片渕監督ファンなどの熱量がネットの方々に散らばっている気がした。それを見て、「真木さん、これならいけると思います」と言いました。


――クラウドファンディングにおいて、アニメの制作資金を集めるという前例はこれまでにあったんでしょうか。

中山
あるにはありましたが、自主制作的な短編映像を作るための資金を集めるものがほとんどでしたね。このように商業作品は前例がありませんでしたし、Makuakeでもアニメ作品はこれが初めてです。自主制作アニメの資金募集を見ると、100万円いったらすごいぐらい。劇場版アニメを作るには億単位の金額が必要ですが、真木さんが「まずは2,000万円を目標にしよう」とおっしゃいました。「それなら5~10分ぐらいのパイロットフィルムが作れる。それをもとに営業をして、劇場版アニメに必要な制作資金を集めて製作委員会を組成していこう」って。

――製作資金のごく一部だとしても、2,000万円という目標金額はMakuakeにとって大きい案件ですよね。

中山
当時でいうと平均の10倍以上の金額でした。「でも、この制作陣の企画で目標金額の達成をさせられなければ僕は二度とアニメ業界に顔向けできない」と思いました(笑)。成功させるには退路を断つしかないと思い、「2,000万円集めます」と真木さんに言い切りました。

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《大曲智子@アニメ!アニメ!》

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