トランプ政権下のビジネスは「縁故資本主義」? 次期大統領のTwitter攻撃にメーカーも戦々恐々

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ドナルド・トランプ氏
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今月20日に大統領就任式を控えるトランプ氏。年明け早々、フォードやゼネラル・モーターズ、トヨタなどの大手メーカーをターゲットとした「Twitter攻撃」に、自動車業界は戦々恐々の様子だ。

3日、フォード・モーターは、メキシコに計画していた新工場建設を撤回すると発表。メキシコの工場建設に16億ドルを費やすかわりに、ミシガンの組立工場に7億ドルを投資し、700人の雇用を創出する。米国から雇用を奪うものとして、同社のメキシコ工場新設計画を批判していたトランプ氏は、すぐさまTwitterやInstagramで、自ら推進する「成長促進政策」のプロモーションに、このニュースを利用した。


10日付のLos Angeles Timesの記事によれば、フォードのフィールズCEOは、小型車「フォーカス」を製造する国内の工場が新しいピックアップ・トラックやSUVの製造に移るため、国内の雇用が失われることはない、と抵抗したが、トランプ氏は譲らず、メキシコ工場の計画を諦めた、という。

フォードのフィールズCEOと全米自動車労組のセトルズ副会長

フィールズCEOはCNNに「この決定は大統領とは何の関係もない」と語った。実際、米国の消費者はトラックやSUVを好むため、「フォーカス」のような小型車の市場は縮小している。
さらにフォードは、世界で最も売れたF-150ピックアップのハイブリッドエンジンを含む電動パワートレインのプロジェクトも同時発表している。トラックが作業現場で発電機として動作するようになる野心的なプロジェクトのため、ミシガン州を拠点として技術開発を行うことは、理にかなった決定といえる。

米国内に700の雇用創出

一方でトランプ氏はフォードの決定にTwitterで感謝の意を表し、「これは始まりにすぎない」と、目指す政策の第一歩として勝利をアピールする。


■続くトランプのTwitter攻撃…トヨタにも飛び火

さらに次期大統領は間髪入れず、「Twitter攻撃」の矛先をゼネラル・モーターズに向けた。「ゼネラル・モーターズはシェビー・クルーズのメキシコ製モデルを米国の自動車販売店に国境を越えて無税で送り込んでいる。米国で作るか、さもなくば関税を払え」


The Washington Postなど米国の複数メディアの報道によれば、ゼネラル・モーターズはトランプ発言に対応して製造拠点をシフトするつもりはないと表明している。

シボレー・クルーズ2017年モデル

どこで製造するかは「2年、3年、4年前に決定された、資本集約的な投資を伴う長期的な事業」であり、「既存の自動車工場を潰すことは大きな混乱を招くとともに高コストがかかる」とバーラCEOは発言。次期大統領の助言機関「戦略政策フォーラム」の一員でもあるバーラCEOは、「大統領とは共通する部分がある。ビジネスを通し、国を強化する解決策の一部となりたい」と、歩み寄りを呼びかける。

トランプ氏の攻撃は続く。6日に次期大統領のTwitterでターゲットとなったのはトヨタ自動車。


「トヨタ自動車は米国向けカローラを製造するためにメキシコのバハに工場を建設しようとしている。あり得ない! 米国に工場を建設するか、さもなくば関税を払え」

トヨタは14年来バハで車両を製造しており、2019年に中央メキシコに建設を計画している新工場のことと思われるが、6日の東京株式市場でトヨタ株が下がるほどの影響を与えた。「過去30年間、米国で2500万台の車両を製造し、20年以上にわたり、北米への投資3ドルにつき2ドルが米国の施設に費やされた」とする声明をただちに発表し、さらに、9日開幕したデトロイトモーターショーでも、米国で最も売れる乗用車「カムリ」のニューモデルを「アメリカ人がアメリカ人のために作る車」とアピール。

豊田章男社長自ら、「最もアメリカンなクルマ」カムリは、これまで長年ケンタッキー・ジョージタウンの工場で組み立てられてきたように、新しいモデルもそこで製造が継続されると強調し、今後5年間で100億ドルを米国の製造業に投資すると発表した。

2016 TMMK 30th Anniversary - Camry

一方で、The Washington Postの9日付記事によれば、北米トヨタのレンツCEOは、トランプ氏の関税が、価格引き上げと販売ダウン、最終的には生産減や工場解雇を自動車メーカーに強いる可能性、つまりはトランプ氏の目論見の逆の事態を招く恐れがあると警告した。レンツ氏は、アメリカで最も売れている中型車カムリを例にとり、ケンタッキー州製造の車の部品の25%は米国外からのものであることを説明。35%の関税は、カムリの価格に1000ドルものコストを上乗せすることになる。 「業界に対する私の懸念は、コストが上昇し、業界の規模が縮小する事態となってしまうことだ。業界は多くの車両を生産する必要がなくなり、雇用に悪影響を及ぼすことになる」と述べた。

その他、フィアット・クライスラーは8日、米国の2工場に10億ドルの投資、さらに2000人の新規雇用を創出すると発表。マルキオンネCEOは、メキシコからの撤退の可能性にも触れつつ、「米国には多くの借りがある」と述べ、不況時に同社を救済した、米国におけるSUVとトラック生産を維持する意向を示し、トランプ氏のTwitterの祝福を受けた。

ホンダの八郷隆弘CEOは「これまで通り米国製品の開発と生産を継続したい」と語った。同氏は脅威となる関税については「コメントできない」、また他の政策提案について議論するのは「時期尚早」とした。

フォルクスワーゲンやアウディも、トランプ対応としての製造計画の変更はない見通し。メキシコでの工場建設は数年前に決定され、同時に米国でも多くの投資や開発を行っている、との立場をとる。

BMWは2019年、日産も今年中に、メキシコに新しい組立工場の建設を計画している。米国の雇用を創出する圧力には直面していないが、関税でダメージを被る恐れがある。

次期大統領が北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉と米国の製造業復活を公約して選出された以上、関税の脅威はリアルに迫っている。自動車メーカーもアナリストも、Twitter攻撃を越え、もう少し明確に状況が見えてくるのを待っているようだ。

1週間余りで大統領に就任するトランプ氏は、攻撃的なTwitterキャンペーンを、実際に政策に反映させるのか?海外のメディアも、まだ正確な判断は下せない。The Guardianは7日付記事で、「キャンペーンと統治の間には常に違いがあり、我々は統治がどのようなものとなるかを、まだ見ていない」との業界人の見解を伝えている。皮肉なことに、自動車業界のトップリーダーたちは、自分の労働者が選んだ男の操縦法を把握しなくてはならない羽目に陥っている、という。

いずれにしても、大統領選当時と変わらぬ大胆なTwitter攻撃が、業界やメディアを警戒させたことは間違いない。7日付The Atlanticの解説では、「トランプの動きは政策の効果よりも政治的なメッセージのために調整されている」「国際的な企業が国際的に事業を行っていることをTwitterで批判した1週間」と断じ、トランプ政権下の新たなビジネス環境では、政治家の個人的人気のために行動しようという「縁故資本主義」がはびこるのでは、と強い懸念を表明している。

ますますグローバル化が進む世界の自動車市場の現実に逆行するような、次期大統領の「Twitterキャンペーン」は、トランプ政権が実際にスタートして加速するのか、それとも軌道修正はあるのか。なぜ企業がメキシコに工場を作るのか、より構造的な要因を掘り下げながら、自由貿易と国内製造業の復活が矛盾しない道を探る、真にプロフェッショナルな政治家の仕事ぶりを見せるのか。自動車業界政策は、次期大統領の試金石となるかもしれない。

《Glycine》

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