【ドライブコース探訪】本当にあった「注文の多い料理店」で料理を注文してみた

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宮沢賢治の童話「注文の多い料理店」に出てくるレストランをイメージした山猫軒。「決して遠慮はありません」の文字に注目
宮沢賢治の童話「注文の多い料理店」に出てくるレストランをイメージした山猫軒。「決して遠慮はありません」の文字に注目 全 13 枚 拡大写真

岩手・花巻郊外にある宮沢賢治記念館の敷地内にある可愛いデザインのレストラン「山猫軒」。言うまでもなく宮沢賢治の童話「注文の多い料理店」の中に出てくるレストランをイメージしたもの。デザインは菊池武雄氏の手になる挿絵に沿ったもので、レトロで懐かしい雰囲気を漂わせている。

注文の多い料理店の物語では、山猫軒に入った2人の紳士がレストラン側からあれこれ注文を出され、危うく化け猫に食べられそうになる。宮沢賢治記念館の山猫軒も、玄関に「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」、店内にも「注文はずゐぶん多いでせうが、どうか一々こらへて下さい」などと、童話の一節があちこちにかかっている。

もちろん童話のようにこっちが食べられるリスクはない。趣向としてレストラン側から1つくらい注文を出すのも面白いような気がしたが、そういうこともなく、普通に注文することができる。

山猫軒のメニューは結構多彩。サンドイッチやナポリタンなどの軽食、あんみつやケーキセットといった普通の喫茶メニューもあるが、せっかく花巻まで来たのだから、ここはぜひ岩手ゆかりのものを食べたいところ。花巻・石黒農場産のほろほろ鳥を使ったチキンカツ定食、岩手のブランド豚である白金豚のカツ丼やカツ定食、シンプルなしょうゆ味の山猫ぞうすい(山猫が入っているわけではない)といったラインナップの中でひときわ目を引いたのは「イーハトーブ定食」だ。

イーハトーブは宮沢賢治が生み出した架空の地名だが、いはて(岩手)をエスペラント語風に言い換えたものと言われており、花巻はもちろん岩手じゅうで何かにつけて枕詞として冠されるくらい郷土に愛されている言葉だ。そのイーハトーブという名の定食は他のメニューと趣をまったく異にする、とても質素なものだった。

内容は「すいとん」「じゅんさい」「天ぷらと季節の付け出し3点」「角煮」「白飯」「果物」。

まずはすいとん、岩手でいうところのひっつみに箸をつける。見かけは質素だが、ちゃんとダシが効いていてなかなか美味しい。薄力粉を練って団子状にした具もしっかりした食感であった。岩手は宮沢賢治が活動していた20世紀初頭においても、度重なる冷害で稲が育たないことしばしばという土地柄。そこで稲よりも寒さに強い小麦や粟などを育て、それらを粉末にした料理が発達したという歴史がある。すいとんもそのひとつだ。昔はこんな現代的な味ではなかったのだろうなという想像が頭を巡る。

賢治の時代を思えばこれらの料理はぜいたくそのもの。なめこおろしや浅漬けなどの小さな料理もひとつひとつ、しっかりとした味付け。地元産の白米を丁寧に炊き上げたご飯はふわっとした粒立ちが素晴らしく、豚の角煮は先にも述べたブランド豚、白金豚。それに海老の天ぷらや果物も付く。しかし、それでも質素な仕立てのこのイーハトーブ定食は、冷害に苦しむ農民を何とか救済したいと考えて研究を行い、土地改良や農業指導に奔走した宮沢賢治の気持ちに自然と思いが及ぶ、いわば心のごちそうという感ありであった。

山猫軒は食事だけでなく喫茶もOK。ゆっくりとコーヒーを飲みつつ(宮沢賢治はコーヒーが嫌いだったそうではあるが)レトロなデザインの窓から北上の大地を眺めたり、記念館で得たインスピレーションについて仲間で語り合ったりといった時間を過ごすのにもぴったりの空間。東北ドライブの立ち寄りスポットとしてもぴったりな気がした。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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