荒天に飛んだ色とりどりのバルーン、白熱の競技…熱気球ホンダグランプリ

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ターゲット近くでバーナーを焚きつつ、少しでも寄せようとする宮田選手。
ターゲット近くでバーナーを焚きつつ、少しでも寄せようとする宮田選手。 全 17 枚 拡大写真

1993年に始まった熱気球レースのシリーズ戦、「熱気球ホンダグランプリ」は今年25年という節目を迎える。その第1戦「渡良瀬バルーンレース2017」が4月7~9日の3日間、渡良瀬遊水地で開催された。

4月初旬の北関東は比較的安定した天気に恵まれることが多いのだが、今年の渡良瀬バルーンレースは悪天候との戦いとなった。「もしかしたら熱気球ホンダグランプリが始まって以来、1回も競技が成立しない初の大会になるかも」と関係者は気をもんでいたが、8日(土)の午後、天候が一瞬、わずかに回復した間隙をぬって、1度だけ競技が行われた。

天候が回復したと言っても、雲が高度1000フィート以下まで垂れ込め、風の状況もきわめて悪い中でのレース。タスク(種目)は任意の場所から離陸し、大会本部のあるローンチサイト(一斉離陸を行うときに使う広場)に設置されたターゲット(巨大なバッテン)にマーカーを落として正確性を競う「フライイン」の1つのみ。

熱気球競技は1回のフライトにつき複数のタスクをこなす形で行われるのが一般的だが、今回のように条件が悪い場合は1タスクになったりする。1タスクのストラテジーは複数タスクの場合とかなり異なる。複数のときは、風の読みや自分の得手不得手によって、絶対に高得点を取ると決めたものについては徹底的に攻め、そうでないタスクは高得点狙いのタスクに移るのに支障がない範囲でほどほどの点を取るといった取捨選択をする。陸上競技の十種競技(デカスロン)に似たイメージである。

それに対して1タスクは完全な一発勝負。さらにこの時は翌日午前中の競技も天候不順で中止になる公算大と予想されており、その場合はこの1タスクでシリーズ第1戦の順位が決まってしまう。天気の良いときにパイロット、ナビゲーター、地上クルーが協調し、技術、見識、知略、勇気を駆使して戦うのとはまったく異なる雰囲気で競技が始まった。

今回の離陸エリアはターゲットから最低2km、最高10kmの範囲における任意の地点とされたが、競技開始の時刻が過ぎても気球が飛び立つ姿がなかなか見えない。悪天候で風が読みにくいコンディションのときは、誰かが離陸すればその動きで風の状況がわかる…と、皆が考えているのか。離陸地点はバラバラなため顔の見える戦いではないが、いつもは先に飛ぶのを好む選手も含め、誰も飛ばないということだけで、見ている側にもヒリヒリと緊張感が伝わってくる。

が、いつまでも様子を見ているわけにはいかない。協議開始後、いつまでに離陸しなければならないというタイムリミットがあるからだ。結構な時間が経過したとき、雲間からうっすらと1機の熱気球の姿が見えた。会場に集まった観客がその動きを固唾を呑んで見守るなか、その気球はローンチサイトに近寄ることができず、北側を通過していった。

見える気球の数は次第に増えていった。北寄りに針路を変えるなら、南寄りの地点から離陸した気球が有利か!と思われたが、そちらは逆方向にそれていく。まるで会場を風が避けて通っているかのようだった。

この難しい風の中、ブルーと黄色の2トーンカラーの気球がナイスコースで飛んできた。茨城のチーム空友の高島工選手だ。種目によってはマーカーを真下に投下しなければならないものもあるが、フライインはマーカーを放り投げていいことになっている。バスケットの中でリボンのついたマーカーをグルグルと回し、できるだけターゲットに近いところに落ちるように投げた。

落下地点はターゲットからはやや離れていたが、この日のコンディションであればローンチサイト内に落とせただけでもブラボーというものである。難しい戦いであることは各パイロットとも先刻承知。高島選手はマーカー投下後、バーナーをボーッ、ボッボッ!と派手に吹かしながら観客に手を振りつつ、ランディングポイントを探すべく上昇していった。

22機が参加したこの土曜午後の競技、ローンチサイト内にマーカーを落とせたのはほんの数機。この厳しい戦いを制したのは愛知のチームカイラス、宮田裕樹選手、2位が茨城のガッツバルーンチーム、山中昇選手。3位が前出の高島工選手。4位が神奈川のチーム姫りんご、真後理英子選手。5位が栃木のハッスルバルーンチーム、児玉義実選手。冠スポンサーであるホンダのHonda Hot Air Balloon Racing Team、遠山貴久選手は6位につけた。

熱気球レースは、優雅に飛ぶのを見るだけでも楽しいものだが、競技の内容や戦い方を知ると、その楽しさは何倍にも膨らむ。日本の熱気球競技の草分けで熱気球運営機構の会長を務める町田耕造氏は、「競技の中身を皆さんに知っていただいたり、熱気球の機上からの情報発信をしたりといった工夫を凝らして、単に気球が空を飛ぶということ以上の楽しさを味わってもらえるようにしたい」と抱負を語る。

熱気球ホンダグランプリ第2戦はゴールデンウィーク後半の5月3~5日、長野県の佐久で行われる「佐久バルーンフェスティバル」。会期中は佐久鯉まつりも併催されるので、興味を持たれた方はぜひドライブ行楽に訪れてみては。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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