ソース味の“コイ丼”は佐久のソウルフード? 元祖ならではのひと味【ドライブコース探訪】

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鯉の薄揚げにソースを絡めたものが具で、力強い味であった。量は少なめで、他の一品料理と組み合わせたくなる。
鯉の薄揚げにソースを絡めたものが具で、力強い味であった。量は少なめで、他の一品料理と組み合わせたくなる。 全 11 枚 拡大写真

信濃路は月と仏とおらが蕎麦…という有名な句があるからか、長野県の美味しいものと言えばまず蕎麦が思い浮かぶ。が、広大な内陸県である長野は実際には多種多様な食材を産し、食文化のバリエーションも豊かだ。東信地方の地方都市、佐久の鯉料理もそのひとつだ。

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佐久には老舗から比較的新しい店まで鯉料理屋が多数あり、しかもそれらが分散しているため、どこに入ったものか迷う。試しにトヨタ系ディーラーに立ち寄ってスタッフにきいてみたところ、即答でのリコメンドは「割烹花月」というところだった。

さっそくカーナビのガイダンスに従って訪れてみると、何と“元祖鯉料理の店”を名乗る店だ。創業は大正期とのことで、鯉食自体はそれよりはるか前から行われていたはずだが、女将さんいわく、創業者が東京から持ち帰った技法で本格的な鯉割烹料理をこの地に広めたのだそうだ。

割烹料理だけに、料理のラインナップは充実している。が、残念なことに筆者は降雪で軽井沢での取材がダメになり、軽井沢で昼食をすませてしまっていた。鯉こく(鯉の味噌汁)や鯉の洗い(刺身)、唐揚げ、うま煮などからなるコース料理は、最も軽いものでもいささか重厚にすぎる。

その中で目についたのが「鯉丼」だった。鯉を薄切りにして揚げ、味付けをしたものをご飯の上に乗せた簡単な丼だが、とてもうまそうだ。しかもお値段は税込み1080円と、結構リーズナブル。

オーダーからしばらくして運ばれてきた鯉丼のふたを開けてみると、ソースの薫りが鼻をついた。鯉の揚げ物の味付けといえば甘酢あん系が多い。鯉にソースなど合うのか!? と思いつつ口に含んでみると、これが存外合う!! 鯉はもともと熱を加えたときの風味が強めの魚だ。2つの異なる風味が調和するのではなく、ぶつかり合って一つの味になるというパターンだ。鯉の身のテイストを大いに楽しみながら、あっという間に食べ終わってしまった。昼食後なのでそれほど食べられないと思っていたのだが、物足りないと感じられるくらい食が進む味だった。

食べた後、女将になぜソース味にしたのかちょっと聞いてみた。

「佐久生まれの人にとって、鯉丼は子供の頃から慣れ親しんだソウルフード。ウチはしばらく鯉丼をやめていたのですが、どうしても花月さんの鯉丼を食べたいというリクエストを少なからずいただいたので復活させたのですが、作るからにはちょっと一工夫したいということで、あえて甘酢ではなく、ソースを組み合わせてみたんです」

鯉食文化は古来から全国的にあったものだが、食文化の多様化が進む中で衰退している。昭和初期には鯉の生産量日本一にもなったことがある佐久だが、ご多分にもれず、鯉養殖業は苦境に立たされている。が、量は減っても祝い事の時にはやはり鯉が珍重されるなど、今でも佐久人の鯉への思い入れは強いものがあるという。食べてみてよかった。

ちなみにこの花月のメニューを見ると、コース料理や軽い単品料理のほかに活け造り、丸揚げ、塩焼きなど、鯉一匹を使った料理があり、それらがなかなか魅力的なビジュアル。1人ではとても食べきれない量なので、いつか複数人でそれらを試しに訪れたいと思った。

最寄りの高速インターチェンジは佐久小諸ジャンクションで上信越道から分岐する無料の中部自動車横断道・佐久南インター。関東からアプローチする場合は国道254号線内山峠経由で行くとほぼ一本道だ。秘境ドライブを兼ねる場合は群馬の山奥深くを通過する国道299号線十石峠経由も面白いだろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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