【池原照雄の単眼複眼】中国が巻き起こす電動化への巨大なうねり

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ショッピングモール内のEV充電ピット(上海市)
ショッピングモール内のEV充電ピット(上海市) 全 5 枚 拡大写真

25年にはEVなどの新エネ車を700万台販売する

中国の自動車産業政策が電動化に舵を切っている。2016年の新車販売が2803万台(前年比14%増)と、2位の米国を1000万台余りも上回る最大市場の電動化への動向が、世界の自動車メーカーに強烈なインパクトを与えるのは必至だ。ここで後手に回ると、手痛いダメージを受けることになる。

6月に取材で出向いた上海市のショッピングモールの一角。同時に10台ほどが使える電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHV)用の普通充電ピットが整備されていた。ただし、完成したばかりで認知度が低いのか、使用中の車は1台もなかった。こうした景色自体が、「政策ありき」で進む、この国らしいところでもある。

中国政府は15年に、そこから10年後の「製造強国」を目指すというロードマップ「中国製造2025」(メード・イン・チャイナ)を策定。そのなかでガソリン車など既存車の燃費性能を高める省エネ策とともに、電動化車両を示す「新エネルギー車」(New Energy Vehicle=NEV)の大幅な普及目標を掲げた。

ここでいうNEVとは、PHVとEVに加え、将来の普及が期待される燃料電池車(FCV)も含むが、外部充電できないハイブリッド車(HV)は除かれる。中国製造2025での最新の方針では、NEVの普及目標を上方修正し、16年に50万台規模だった年間販売を20年には200万台、25年には700万台へと短期で大幅に増やす計画を打ち出している。

内燃機関で世界に追いつくのは困難と…

中国政府は目標実現へむけ、「NEV法」とも呼ばれる販売義務付け規制の導入を検討している。この規制では、中国で一定台数の製造・販売を行っている自動車メーカーに対し、早ければ18年にも全体の販売の一定量を、NEVにするよう義務付ける。義務分の販売を果たせないメーカーは、罰金を科せられるか、達成した他のメーカーから義務に代替できる権利を「クレジット」として購入しなければならなくなる。こうした規制によってNEVの販売増を誘導していく構えである。今のところ、18年からの導入は外国メーカーの懸念もあって難しいと観測されているが、早晩、実施される見通しだ。

中国の自動車メーカーは、トヨタ自動車や独VW(フォルクスワーゲン)といった外資と中国企業の折半出資による独特の形態で発展し、今や世界最大の生産国にして需要国になった。しかし、部品メーカーも含む中国企業の技術蓄積は、世界で闘うには、まだ十分とはいえない。そこで政府が打ち出したのがNEVで世界の自動車産業をリードし、製造強国の仲間入りを果たすという戦略だ。ある日系中国合弁メーカーの日本人トップは「政府は内燃機関の車で世界に追い付くのは困難と判断し、電動化に方向転換した」と解説する。

間もなく中国が世界の先端を走る

一方で、自動車の急速な普及は深刻な大気汚染を引き起こしており、環境対策としても一挙両得の成果が期待できる。ある意味強権によっても、政府が産業政策を自在にコントロールできる国だけに、世界の電動化のうねりをリードしていくことになろう。

ここ1か月でも、中国にからんだ電動化への動きが相次いで表面している。中国メーカーの傘下にあるスウェーデンのボルボ・カーは、19年以降に発売する新モデルを全てEVやPHVなど電動車両にする方針を発表した。EV専業最大手の米テスラは、初の海外生産拠点を上海に置く方針で当局と交渉を進めているという。また、仏政府は40年までにガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車の国内販売を停止に導く長期の環境政策を公表した。中国の動向に直接リンクするものではないものの、結果的には同調する動きとなっていく。

日本メーカーでは、30年に世界販売の3分の2を電動車両(通常のHVも含む)とする長期方針を掲げているホンダが、18年に中国に初めて専用EVを導入する計画を進めている。トヨタは同年に、まずPHVを優先して市場投入する方針。すでにEVを中国市場で販売している日産も、新モデル追加などの準備を進めているところだ。

ホンダの合弁会社である東風本田汽車(湖北省武漢市)の藤本敦総経理は「電動化で中国が世界の先端を走る時代が間もなく来る」と展望したうえで、「先進のものを早くマーケットに出すことが一番大切」と強調する。すでにスタートした“電動化レース”に対する中国合弁メーカー首脳の共通認識でもあろう。

《池原照雄》

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