なぜ「クルマは道がつくる」のか…アメリカを5000km走って見えた、巨大市場で求められる資質とは

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アメリカのハイウェイの看板。青地は州際高速、白地は一般高速だ。
アメリカのハイウェイの看板。青地は州際高速、白地は一般高速だ。 全 15 枚 拡大写真

アメリカ中が沸きに沸いた空の一大スペクタクル、2017年北米横断皆既日食を追って、内陸の高地ワイオミング州へとトヨタ自動車の中型セダン、新型『カムリ』(米国仕様)でツーリングを行った。カリフォルニア州南部のロサンゼルスを起点にネヴァダ、ユタ、ワイオミング、アイダホと5つの州をまたぎ、総走行距離は5000km超。

アメリカの道路といえば、イージードライブのイメージが強い。地平線まで一直線にのびるハイウェイ、広い車線、低い制限速度、等々…。このイメージゆえ、アメリカ市場向けのクルマは大味という先入観を持たれているところがある。

だが、実際にドライブをしてみると、アメリカの道路を走るということはクルマにとっては決して生易しいものではなかった。昔から変わっていない点としては、悪い道も結構あるということ。路面がアンジュレーション(うねり)やギャップ、破損箇所だらけだったりするのはまだいい。地図に道路として描かれているところでも、行ってみるとフラットダート(平らな土路面)やグラベル(砂利道)などの未舗装だったりすることもある。

国土が広大であることを考えると、そういう道があるのは致し方のないところだ。とりわけ交通量の少ない過疎地では、良路だけを走るのであれば遠く迂回しなければならないようなところに道があるだけでも上等と感じるのも確かなのだ。そういう道を走る機会の多いカスタマーはSUVを日常の足にするのだろうが、現場ではセダンも結構見かけた。ちょっとした悪路程度ならひるまないのがアメリカ流なのであろうか。

◆道から伝わるカムリの真剣さ
センターラインのない田舎道。これでも制限は55マイル/時(約88km/h)だ。
クルマを速く、安全に、快適に走らせるのは、クルマと道路の共同作業だ。その道路が悪い場合、クルマ側が受け持つ役割はそれだけ大きくなる。サスペンションがしなやかに動くように設計し、道路の凹凸があってもタイヤをしっかり接地させなければならない。しかし、ただバネを柔らかくすると今度は良い道での安定性が悪くなってしまう。高速道路や山岳地帯の道路では車体の揺れを抑え、しっかりとした走り味を出してやる必要がある。

前述のようにアメリカ市場向けのクルマは大味というイメージを持たれている。が、それは自動車技術が進化途上にあった過去の話であって、今日では乗り心地とドライバビリティを両立させたクルマづくりをめぐり、自動車メーカー同士で激しい競争が繰り広げられている。

今回のような長大な州際ドライブを快適にこなしたいカスタマーにとっては、カムリの属するノンプレミアム・ミディアムクラスがボトムエンドで、台数面でも乗用車カテゴリーでは最も多い。カムリは15年連続で乗用車販売台数No1※の座を確保してきたが、ライバルメーカーからもものすごい仕上がりのクルマが続々と登場している。

なまじっかなクルマづくりでは首位の座を防衛することはできないという開発陣の真剣さは、さまざまな道での走りを通じて伝わってきた。新型カムリは良路だけでなく、表面がざらつき、ひび割れだらけになったコンクリート舗装の区間、アンジュレーションの連続する道路、フラットダートと、シーンを問わず、静かで滑らかな乗り心地を保てるクルマになっていた。

※2002年1月~2016年12月。トヨタ自動車調べ

◆時速80マイルで走るということ
州際高速道路80号線に立つ80マイル制限の標識。
国土が広いとはいえ、世界一の経済大国アメリカのこと。州際高速道路や幹線道は、相当の地方部に至るまでとても良く整備されている。アイダホ州の人里離れた山間部に排水舗装が施された立派な道路が作られていたりと、驚かされること一再にとどまらなかった。が、そんな良路においても別の試練が待ち構えている。それは速度だ。

アメリカでは西部を中心に、全般的に速度制限が緩和される傾向にある。今回走った5つの州のうち、カリフォルニアを除く4州は高速道路の最高速度が最大80マイル時(約129km/h)。実際の流れはそれより10マイル時ほど速いという感じであった。ネヴァダ州はまだ区間限定という印象があったが、他州においては80マイル区間はかなり拡大されていた。アイダホ州に至っては「えっ、こんなへんぴな道路が80マイル時なの!?」ということも。

フリーウェイという名が示すように、それらの道路の大半は無料だ。乗り降り自由なため、サービスエリアは数が少なく、設備もトイレや食事を取るフィールドくらいしかない。給油や買い物をするときはインターチェンジを下りる。すると、そのすぐそばに旅行者のための各種商用施設がある。高速道路のインターチェンジ近くになると、そこを出るとどのような給油所や店があるかが書かれた案内板が登場するので、使いやすさは日本のサービスエリアと変わらない。

買い物や給油をした後はふたたびインターチェンジから高速道路の本線に合流して旅を進めるわけだが、高速道路の制限速度引き上げによって、この合流は以前よりかなりタフなものになっていた。合流車線の距離は意外に短く、カーブを描く導入路を半分くらい回ったところでフルスロットルをくれてやるくらいの走りが要求されるのだ。緩いカーブを猛然と加速しながら安定して走ることができるかどうかは、今やアメリカのミディアムクラスにとっては必須の性能になっていることが実感された。

◆「クルマは道がつくる」を実感した
制限速度70マイル/時(約113km/h)の一般道。貨物車の追い越しや山岳区間は結構ハードだ。
高速道路以外でも全開加速の機会はイメージよりずっと多い。高速道路の速度制限が80マイル時に緩和されたさい、多くの一般道の速度も引き上げられた。センターラインありの片側1車線道路の制限速度はなんと70マイル時(約113km/h)が普通だ。ヨーロッパの一般道よりも速く、すれ違いの相対速度は軽く200km/hを越えるのだが、トラックはそれだけのスピードで走ることができず、もっと遅いのが一般的だ。

追い越し禁止の区間は日本と比べてはるかに限定的で、原則追い越し可といっていい。が、相対速度200km/h超だと、対向車が遠くにいるようでもあっという間に近づいてくる。追い越しは当然床までスロットルを踏み込み、キックダウンさせての全開加速である。ドライバーたちの運転の勇ましさとクルマにかかる負荷は相当のもので、クルマの能力の試されっぷりは筆者のこれまでのドライブ経験に照らし合わせても、欧州のなかで相当にタフな状況と互角、あるいはそれ以上というイメージであった。

全般的には良好だが、いつ悪路が出現するか保障の限りではないという道路のコンディションと、日本をはるかに超えるスピード。そして急変する天候や野生動物の飛び出し…このアメリカの道を我が物顔で速く、安全に、快適に走れて、初めてアメリカで一流と認められる。トヨタ自動車の豊田章男社長は2009年に社長に就任して以降、「クルマは道がつくる」という言葉を幾度となく発してきた。カムリはまさに、そのアメリカの道路によっても鍛えられ、作られたクルマなのだと、3200マイル、5000km超に及ぶドライブを終えて思った。
制限速度緩和にともない、高速道路への流入はよりハードになった。皆が思い切り加速旋回していることを路面のタイヤ痕が雄弁に物語る。
◆テストドライブ車の仕様
車名:トヨタ カムリ LE(米国仕様)
モデルイヤー:2018年
エンジン:2.5リットル直列4気筒直噴DOHC
車体寸法:全長4879×全幅1838×全高1445mm ホイールベース:2824mm 空車重量:1495kg

日本仕様は、2.5L ダイナミックフォースエンジンと、新世代ハイブリッドシステム「THS II※」を組み合わせ、優れた動力性能と低燃費を実現。※Toyota Hybrid System II
日本仕様について詳しくは画像をクリック!

カムリ

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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