【岩貞るみこの人道車医】完全自動運転を“コンコルド”にしないために何が必要か

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移動の在り方の変化によって、都市はどのように変化するのか。写真は渋谷のスクランブル交差点
移動の在り方の変化によって、都市はどのように変化するのか。写真は渋谷のスクランブル交差点 全 6 枚 拡大写真

【道】移動の在り方と都市の変化

11月3日、東京モーターショー会場で、内閣府SIP-adus(戦略的イノベーションプログラム自動走行システム)2017年度第一回市民ダイアログが開催された。世界中で実用化に向けて開発が進められている完全自動運転を見据え、多くの人に自動運転の理解を深めてもらうため、そして、そんな未来を市民はどう受け止めているのか知ることが目的である。

昨年度は三回開催され、第一回は大学生とのセッション、第二回は「自動運転と社会のつながり」と題して、職業ドライバーの意見を聞き、第三回は「ドライバーの権利と責任」として、法律関係の専門家や今後の法律を作っていく法律関係の学生に集まっていただいた。

今年度第一回目は「モビリティと都市デザイン」。移動の在り方が変わると、都市はどのように変化するのかがテーマである。自動運転技術を開発していくにあたり、どこを走らせるかは大きな問題である。高速道路のような自動車専用道なら歩行者や自転車、交差点で車両同士が交差する場面は考えなくていい。技術的にも法律的にもハードルはぐっと低くなる。もし一般道で都市デザインするときに、交差点を含めて歩行者と自動車を完全に分離することができれば、歩行者事故は限りなく減らすことが可能だ。

もっとも、交通事故削減のために車両と道とセットで考えるのは自動運転に限った話ではない。本コラムのタイトルにもあるように、事故削減へのアプローチは、人道車医療。どんな時代であれ、都市デザインは重要なパートである。

◆都市デザインに「トライ&エラー」はない

新しい技術や製品が世の中に出ていくときは、トライ&エラーを繰り返す。作る側が受容性を読み間違えると、市民はそっぽを向くため、どう見極めるかは社運をかけた課題である。古い話で恐縮だが、実際に私が体験した例として女性をターゲットにしたバイクがある。

1982年に登場した『VT250F』は、コンパクトで取り回しがしやすく、当時一大ムーブメントになった女性ライダーに大ウケした。いや、VTがあったから女性ライダーが増えたといっても過言ではないくらいだ。気を良くしたホンダは、もっと軽くてコンパクトで女性に取り回しのよいものをと狙って『CBR250』を世の中に送り込んだ。しかし、あまりにコンパクトすぎて「バイク=重い鉄の塊を乗りこなすかっこよさ」に憧れていた女性陣にそっぽを向かれたのである。ユーザーのニーズは時代の流れとともに刻々と変わる。同じものでもいつ出すかによって、受け入れ方もまったく違うゆえ見極めは本当にむずかしい。

ひとつの製品ならコケても次がある(企業ダメージは大きいが)。しかし、都市はそうはいかない。壊して更地にして新たに構築する…などありえない話だ。いかに先を読み、あるべき姿を想像して、そこからさかのぼって現代の今、やるべきことを考えるバックキャスティングが重要になってくる。もちろん、コストも大切で、いま、技術をてんこ盛りにする都市設計の予算がとれたとしても、そのあとにメンテナンスなどのランニングコストが発生すれば、財政を圧迫する。バブル期に浮かれて作りまくった箱モノ事業の成れの果てが、自治体の財政を圧迫しまくっていることを見ればわかるはずだ。

◆技術者の夢で終わるか、市民に役立つものとして定着するか
SIP自動走行システム 市民ダイアログ(東京モーターショー2017)
今回の市民ダイアログの意見とともに感じるのは、インターネットが発達し、“移動”の在り方も大きく変化していることだ。人は外に買い物に行かず、宅配便で物が動くようになった。人は無料のビデオ通信でつながり、遠くにいる人とのコミュニケーションも簡単にとれる。それでも人の移動がなくなることはない。祭りやコンサート、スポーツの応援など人間が求める「熱の発散」は、実際にその場で人と触れ合わなければ消化することはできない。自転車やオートバイなど、移動そのものの価値が高いものはなくならない。

渋谷のスクランブル交差点は、人とクルマをすみやかに通過させるために考案されたが、そのスペースの広さにより、昨今はハロウィンやサッカー大会のあとに人が集まる場所になった。ならば、その日だけ周辺の建物が移動して交差点自体を広くできるような、そんな都市デザインがあってもいい(中国ではすでにやっている)。これからの都市づくりは、がっちりと決めるのではなく、移動の変化に応じて対応できる空間を確保する必要があるはずだ。

高速旅客機のコンコルドは技術者の夢の結晶だが、結局、市民には受け入れ切らずに消え去った。完全自動運転は、技術者の夢で終わるのか、市民の役に立つものとして定着できるのか。これからは技術の進化だけでなく、それを使う都市のデザイン、さらには、どんなサービスを提供できるのかにかかっていると思う。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。2024年6月に最新刊「こちら、沖縄美ら海水族館 動物健康管理室。」を上梓(すべて講談社)。

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