【東京モーターショー2017】ポルシェ パナメーラ スポーツツーリスモ…いかにスポーツカーに見せるか[デザイナーインタビュー]

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ポルシェ・パナメーラ・スポーツツーリスモ
ポルシェ・パナメーラ・スポーツツーリスモ 全 16 枚 拡大写真

ポルシェジャパンはポルシェ『パナメーラ・スポーツツーリスモ』を東京モーターショー2017でアジアプレミアした。そのデザインはラゲッジルームを増やしながら、いかにスポーツカーとして見せるかというチャレンジだったという。

そう話すのは、ポルシェAGエクステリアデザイナーでパナメーラ・スポーツツーリスモのエクステリアデザインを担当した山下修一氏だ。「ポルシェにとって全てのクルマはスポーツカーでなくてはならない」としたうえで、「ポルシェ社内ではこのクルマをワゴンとは呼ばない。あくまで“スポーツツーリスモ”と呼ぶ。そういったところにもスポーツカーにこだわるポルシェの誇りを感じることができるだろう」と述べる。

そして、「新しくポルシェをデザインするにあたり、大事なことが2つある」と山下氏。それは、「ポルシェとしてのブランドアイデンティティ、そして個々のプロダクトアイデンティティだ」という。

そこで山下氏にこのパナメーラスポーツについて、そしてポルシェのデザインについて語ってもらった。

◇荷室を犠牲にしないまま、いかにしてスポーツカーとして見せるか

----:いきなりデザインから離れてしまいますが、パナメーラ・スポーツツーリスモをポルシェが出した理由は何でしょう。

山下修一氏(以下敬称略):私はデザインスタジオの人間なので、個人的な意見ですが、初代パナメーラを横から見ると居住性と荷室の2つを一緒にしながらポルシェに見せるデザインをしています。しかし、市場からはポルシェに見えないという意見も多少あったのです。そこで新型を作る際、もっとポルシェらしくするために、荷室を減らしながらルーフラインを整えて新しいパナメーラを作ろうという判断をしました。

しかし、やはり昔のパナメーラは荷室があって良かったという意見も出て来ました。そこで企業判断としてその両立を図るクルマを作ろうとなったのです。

----:そうすると、かなりデザインはこだわらなければいけませんね。

山下:一番時間をかけて、そして一番時間がかかったところは、荷室を犠牲にしないまま、いかにしてスポーツカーに見せるかでした。それはルーフラインとリアグラスの関係です。もちろんルーフラインを上げて、リアグラスを立てれば 荷室は増えます。でもそれはスポーツカーに見えるのか。そう自問自答しながら、どこが最適解かを探ること、そこが一番時間がかかり、一番大変だったところです。

----:このクルマはすごくバックシャンだと思います。そのリア周りがとても苦労したのですね。

山下:はい。デザインをする段階では様々なプロポーザルを作るわけですが、ルーフとリアのガラスの関係は何十何百とプロポーザルを作り、どこが最適解かを2Dの段階から探っていきました。

◇911のイメージは足枷ではない

----:とてもこだわったパナメーラ・スポーツツアラーのデザインの話を伺ったのですが、ポルシェは走りなどを強調するメーカーです。そういう会社にとってデザインというのはどういう位置づけなのでしょう。

山下:ポルシェといえば最初に頭に浮かぶのは『911』ですね。我々の中で911はポルシェDNAという呼び方をします。あくまでポルシェが作るクルマはスポーツカーでなくてはいけません。これは不文律で、ポルシェはあくまでもスポーツカーの量産メーカーだという捉え方をしているのです。つまりポルシェはスポーツカーしか作らないメーカーということです。

スタイリングに関しては、スポーツカーの不文律、特徴があります。例えば911のようにリアフェンダーがすごく張り出していて、がっしりとしている。タイヤがしっかりと大地を踏みしめているという、そういう要素です。

----:確かにポルシェといえば911というイメージが強いです。しかし、デザインをするうえで“足枷”になってしまうことはないのでしょうか。

山下:個人的には足枷とは思ったことはありません。クルマをデザインする時には大きく分けて2つの方向があります。ひとつは今までのものとは全く違うものを作るのか、そして、今までにあったものを成長、進化させていくのかです。

ポルシェの場合は自分の持っているDNAをさらに進化させるというクルマの作り方ですから、それ自体を私自身は足枷とは思っていません。

----:過去に『924』や『944』、あるいは『928』など、911のイメージから離れようとした時期がありました。そういうことがあったうえで、やはり911のデザインは大切だ、自分たちのDNAだと戻ってきて今があります。そして、今後を考えると、やはりそこに重点を置いていかなければいけないのでしょうか。それともデザイナーとしてはもっと発散して、新しいポルシェの世界観を作りたいとは考えないのでしょうか。

山下:正直それはあります(笑)。ただし、クルマが製品になって出てくる時には、会社を背負っていないといけません。社内のプレゼンテーションでクルマを見る場合に、最初にいわれるのが、これはポルシェに見えるか、ポルシェに見えないのか。そして、見えないのならなぜ見えないのか。そういう判定の仕方から入ります。

従ってこの先30年とか40年、50年後のポルシェが今の形のままかというのはわかりませんが、少なくとも今に関してはこれまでのDNAを継承して作っていきます。

◇デザイナー個人のフィルターが新たな解釈を生む

----:ポルシェのデザインは、911をはじめとした過去のデザインモチーフを現代風にうまく取り入れながら、きちんとそのヒストリーを感じさせています。しかしこれにはすごくテクニックがいることだと思うのですが。

山下:そうですね。新しくクルマをデザインする時には、まず自分たちの過去にどういうクルマがあったのかを、デザイナー個人個人が研究したり分析したりしながら、デザイナー個人のフィルターをかけています。そうすると、全く同じクルマでも、違うように解釈していきます。その辺りが足枷という枠には入ってしまいながらも、新たな解釈といういい方もできるでしょうね。

----:そういうところで日本人としての強みなどはありますか。

山下:あまり感じたことはないですね。ただ、ドイツと日本は似てる部分があって、日本人はバウハウスが好きですよね。そのバウハウスはドイツから来ています。そういったシンプリシティ、精緻なものに惹かれるという文化はお互いに共通しているので、そういうところは近いと思います。

----:今後、911はどうなっていくのでしょう。

山下:911は911でしょう。100年後はわからない、50年後もちょっとわかりませんが、10年、20年のスパンでいえば911は誰が見ても911に見えるものが続くでしょう。

◇彫りの深い、奥行きのある立体的なデザインは重要

----:ところで『911GT3』も山下さんのデザインなのですね。

山下:はい。911GT3にはGT3としての顔があります。左右に大きなエアインテークがあってその隣に小さなエアインテークがあります。そして真ん中に大きなインテークがあるという、合計5つの“穴”があるというものです。今回は初期型よりも、真ん中2つの穴をさらに立体的にしています。目指したのはクルマをもっと立体的に奥深く見せたいということでした。

あとはスポーツカーなのでフロントの補助ランプをなるべく目立たないように、補助ランプがデザインのテーマに対して主張しすぎないように、細く奥深くしているのが特徴です。

----:見る人によっては、立体感を強調しすぎると威圧感に繋がるようにも思いますが。

山下:いえ、そうではありません。豊かな表情になるイメージです。日本人の顔と外国人の顔を比べると、外国人の顔の方が、彫りが深くて立体的ですよね。そうすると笑った時や泣いた時、怒った時の表情がよくわかります。日本人は笑っても笑わなくてもあまり変わらなかったり……。極端ないい方ですが、そういった意味で立体的にするということはデザインにとって非常に大切なことなのです。

◇ポルシェのデザイナーは“エンスー”ばかり

----:ところで山下さんはなぜカーデザイナーになったのですか。

山下:日本でデザイン関係のプロダクトのモデル、ミニコンポ、ラジカセ、などのモックアップを作る会社で働いていた時代に、出張でドイツのハノーバーメッセに行く機会がありました。

ドイツのケルンにフォードのデザインスタジオがあるのですが、そこに日本人のデザイナーが働いていることをそこで知って、彼と知り合うきっかけがあったのです。その時に、「日本人がドイツでクルマのデザインをしている!」と、すごく衝撃を受けたのです。

それまでクルマのデザインが何かということは全くわからない状態でしたが、目から鱗が落ちるような体験だったのです。それから徐々にカーデザインという世界に入りたいなと思うようになりました。

そして、アメリカのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインに入学し、卒業した後、メルセデスベンツに入社し、日本のスタジオに5年ぐらい勤めていました。そこで今のポルシェのボスである、ミヒャエル・マウアーが1年だけ日本に駐在し、彼と知り合ったのです。

その後マウアーは一旦ドイツに戻った後、サーブに移ったのですが、彼から声がかかり自分もサーブに移りました。そこで5年間一緒に働いた後、彼はサーブを辞めてドイツに戻りポルシェに移ったのです。その頃自分のサーブの契約も終わる時だったので、彼に連絡をして、よかったら雇ってもらえないかとこちらからアプローチをして、そこで移ることになったのです。

----:これまで勤めていた会社とポルシェを比較すると何か違うことはありますか。

山下:サーブやメルセデスと比べて、会社のクルマに対する情熱、思い込みが強い会社だと思います。

----:ではいかにもサラリーマンという感じの人はいないということですね。

山下:全くいません。デザイナーはクルマのエンスーばかりです(笑)。

----:もし好きなデザインをしていいといわれたらどういうクルマをデザインしたいですか。

山下:小さいクルマが好きなので、夢としては、コンパクトでタイトな、馬力に頼らない運転の楽しさを得られるようなスポーツカーを作りたいですね。

----:そうするとスーパーセブンのような世界観になりそうですが。

山下:そこまではワイルドではなく、頭にあるのは日本のライトウェイトスポーツカーのようなイメージなのです。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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