東レの子会社「東レハイブリッドコード」(=THC/愛知県西尾市)は、なぜ品質データの書き換えを行ったのか。
規格外れの製品を正規品を装ったことについて、THCの当時の品質保証室長は「過去に“特採”の経験があり、この程度(の規格外れ)だったらいいと、顧客と相談して“特採”する手間を惜しんだ」と、改ざんの動機を話しているという。特採とは、顧客が要求する仕様からは外れているが、その差がわずかであるため、顧客と交渉して受け入れてもらうようにすることだ。THCに限らず商慣習として一般的に行われている。問題は、この証言が製品の安全宣言をする有力な根拠のひとつとされていることだ。
THCと東レは、約4万件(2008年4月~2016年7月)について社内調査。149件について改ざんが見つかったが「いずれも規格値からの乖離がごくわずかであり、規格内製品と実質的な差はない」と、公表している。
しかし、この期間に作られた製品は、その2倍の約8万点ある。調査対象から外れた約4万点は、改ざん前の生データが残っていない。そのためTHCと東レは「書き換えがあったことを確認できない」(東レ)として、公表の対象から外した。「外れが大きかったら、破棄するようなルールだった」(東レ)として、顧客の要求から大きく外れる製品はないという見解だ。
しかし、T納入先であるタイヤメーカー、自動車部品メーカー、製紙メーカーに対してデータ改ざんがあることを伝えはじめたのは、今年10月5日のことだ。このことは顧客向けの説明でも触れていない。手つかずの約4万点については、顧客側の品質管理に任せた形だが、その同意すら得てないことになる。
さらに、公表のタイミングについても疑問が残る。調査を終えたのは今年9月。コンプライアンス・アンケートで改ざんを知ってから1年以上経過した。公表のきっかけを作ったのは、インターネットへの書き込みだった。
「11月に書き込みがあり、株主からの問い合わせも増えた。噂のように流れるより、公表したほうがいいと判断した」(東レ)
THCの鈴木信博社長は28日の会見で「品質を最優先してきたが、申し訳ない」と謝罪。東レの日覚昭広社長は「納得いくまで説明し、安全を確認するように」と、THCに指示したというが、規格外製品を納入された13社への説明は2か月が経過しようとする今も続いている。