それが仕事であれ、休暇中の旅であれ、焼津に来たら船盛の一つも食べたくなるというものではないだろうか。
先日、取材で静岡を訪れた際に、県道416号で清水から海沿いを走り大崩海岸方面へ進むと、この誘惑にあらがうことは困難だ。焼津の街に入っていくにつれ魚の食べられるお店を探し始めていた。
マグロやカツオに関しては日本屈指の水揚げ量を誇り、目の前の駿河湾も豊富な漁場であることは広く知られていることである。焼津に近づくだけでことさら魚が食べたいと自然に思わされるものがある。地元の人はよそ者ほど感じないだろうが、それでも市内を探し始めると、魚料理の食べられるところはかなり多く、目移りする。
そんな中で、港からもほど近い魚料理のお店「大漁やまちゃん」に入ってみることにした。オフシーズンの日曜日の夜ということもあり空いていたが、それでも店内には家族連れがちらほら。
メニューを開くと魅力的な選択肢が並ぶ。何を頼もうか選び始めるもなかなか決めにくい。煮魚が売り切れなのもむしろ歓迎したくなるほど。
そういう時に頼りになる、というか、頼ってしまうのは「他人の意見」である。一番人気という「船盛り定食(上)」に目が留まる。ずいぶん豪勢な船盛の写真が載っており、約15種の魚が盛り込まれるのだそうだ。
メニューの写真を頼りに注文すると、期待外れの寂しいものが出てくることもあるのが、15種類も盛られていたらまあ、満足に違いないということで、これを注文することにした。そしてこの日はクルマでの移動中につき酒は飲めないものの、「焼津だから」などと妙な理由で自分を言い聞かせるように「かつおの塩辛」を注文した。
待つことしばし、見ているとものすごい大きな船盛が運ばれてくる。一体誰が注文したんだ?と思ったら、それがそのまま私の座るカウンターに“入港”したのだ。選ぶときに期待外れなものもあるからなどと疑った自らを恥じた。
しかも魚がどれも新鮮。魚の持つ甘味が種類によって違うのを楽しめた。シラスなども新鮮そのもの。メシが進もうというもの。気が付くとお代わりした2杯目もまもなく底をつきそうになっていた。
正直に言うと、寂しい船盛が出てきても焼津らしいごはんのお供があれば大丈夫だろうと思って頼んだのがかつおの塩辛だった。カツオの塩辛も癖がなく旨い。これはこれで頼んで正解だと思った。
駿河湾の海の幸を目いっぱい深呼吸するように楽しめる船盛り定食。大満足の晩御飯になった。ほかに行かずにこれが一番! かどうかはわからない。おいしそうなお店目白押しの焼津の街だけれども、ここの船盛りは、焼津を訪れたら一度食べておいて損はないだろう。
ごちそうさまと告げて店を出ると港のほうから強い風が吹き込んでくる。焼津港近くであるこのお店のロケーションを肌で感じられ、これももなかなか魅力だ。