【藤井真治のフォーカス・オン】トヨタ上まわる影の主役、東南アジアでダイハツ快進撃の理由

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マレーシアのベストセラー車、プロドゥア「ベザ」
マレーシアのベストセラー車、プロドゥア「ベザ」 全 8 枚 拡大写真

2017年8月月よりトヨタの完全子会社となったダイハツ。グローバルな企業規模はトヨタの10分の1であり、日本国内では軽自動車会社のイメージが強い。しかしながら、東南アジアの一部の地域で展開する事業規模は親会社トヨタを上回っていることは意外と知られていない。

◆マレーシアNo.1ブランド「プロドゥア」を支えるダイハツ

昨年2017年のマレーシアの自動車市場。第2国民車と言われる「プロドゥア」は、多少販売台を落としたものの2位ホンダの2倍の販売量を確保。36%のシェアでトップブランドの地位を不動のものとした。3位は国民車の伝統ブランド「プロトン」。王者トヨタは精彩を欠き4位の座に甘んじている。

国民車ブランドの独自開発にこだわり品質問題や高コストに陥り失墜したプロトンとは異なり、後発のプロドゥアは当初からダイハツが設計したモデルに国民車ブランドのバッチを付けマレーシアで生産し市場投入されるOEM方式を基本としている。ダイハツの得意とする安い設計原価で実現する低価格と日本的な工場管理によって実現される品質は、マレーシアのローエンド顧客層の支持を集めここ数年で急激にシェアを拡大しついにNo.1ブランドに登りつめたわけだ。
プロドゥア ベザと同じダイハツのプラットフォームを持つ「アジア」
◆コストの80%は設計で決まる

現在のプロドゥアのラインアップは1~1.3リットルクラスのセダン/ハッチバックと1.5リットルクラスの7人乗りMPVとハッチバック。国内でのダイハツの主要モデルである軽自動車よりも大きなサイズだが、随所に割り切りの設計コンセプトを入れたコスト重視の設計が盛り込まれているようだ。それでいて消費者の心をくすぐるナビやスマートリンクなど装備品など必要十分なスペックは揃っている。

グローバルAプラットフォームと呼ばれる車台から実現する100万円を切るプライスタグは、エントリー客やローエンド客には大変魅力的でプロデュア躍進の原動力となっている。

親会社のトヨタも幾度と低価格車にチャレンジしてはいるが成功とはいえず、業を煮やしたトヨタトップはついに新興国向け低価格車の開発カンパニーをダイハツに置いてしまった。「トヨタは安く車を生産できる生産方式を持っているが、安くクルマを設計できない」という事なのであろうか。
トヨタのIMVシリーズのMPV『イノーバ』
◆インドネシアではトヨタが売るダイハツ車?

ダイハツが設計したこのプロドゥアの低価格モデルは、インドネシアではトヨタ車として販売されている。ほかのモデルも含めたダイハツのクルマ(開発/生産車)はトヨタの販売台数の65%にまで拡大していることは以外と知られていない。

トヨタはもともとタイ市場や再輸出市場である中近東市場をねらった『ハイラックス』や『イノーバ』、『フォーチュナー』といったIMVシリーズを持っているのだが、トラックベースのフレームのついた2リットルクラスのクルマはタイ以外では量販モデルになれない。特に、インドネシアでは2000年中盤から燃料価格のアップや政府のエコカー政策によって省燃費、小型化、コスト志向が進んだインドネシア。従来のトヨタ開発のクルマが売れなくなってしまった状況下では、ダイハツ開発車なしでは販売戦略も事業戦略も立てられないのである。

インドネシアでのベストセラーカーで月間1万台以上販売するトヨタ『アバンザ』は実は実質ダイハツの開発したモデルで、インドネシアのダイハツの工場で製造されているのである。(正式には共同開発車の生産委託と言っているが。)
インドネシアのベストセラー車、トヨタ アバンザ(ダイハツインドネシアの工場で生産)
◆トヨタに双子車供給を供給していることでブランドイメージも上がったダイハツ

またダイハツはインドネシアでトヨタに供給している同商品群を、双子車として自社ブランドでも販売している。基本同じモデルでも強力なブランド力と販売網で売るトヨタとは販売台数で見劣りするものの、結果的にダイハツのブランドイメージを押し上げる効果を得ている。

昨年のダイハツブランドの販売量はNo.1のトヨタの半分の量だが、こうした双子車とダイハツ専売モデルの合わせ技でホンダと2位争いを展開しているのである。日本国内やマレーシアとは異なり、ダイハツのブランドのプレゼンスがこんなに高いのは世界でインドネシアだけと言って良い。

再輸出モデルも合わせるとインドネシアでのダイハツの生産規模は50万台。30万台規模のトヨタを上回るまでに成長している。

トヨタグループの次なるターゲットはインド。ダイハツが日本の軽自動車やマレーシア・インドネシアで培った低コスト車の開発力を発揮していくのか。トヨタの提携先のスズキが絡んでいくのか予断を許さない。

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《藤井真治》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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