【三菱 RVR 650km試乗 前編】クロスオーバーSUVの皮を被ったオフロードSUV…井元康一郎

試乗記 輸入車
三菱 RVR
三菱 RVR 全 16 枚 拡大写真

三菱自動車のSUV『RVR』で北関東を中心に650kmあまりツーリングする機会があったので、インプレッションをお届けする。

RVRは2010年に発売されたCセグメントコンパクトクラスのSUVで、同車名のモデルとしては第3世代にあたる。1991年登場の初代、1997年登場の第2世代が乗用車ライクなボディをリフトアップして路面とフロアのクリアランスの余裕を持たせたクロスオーバーSUVであったのに対し、この第3世代は1クラス上の中型SUV『アウトランダー』と共通のプラットフォームを使っており、SUV色が強い。昨年10月には内外装のデザイン、走行系などに手を入れ、またコネクテッドや先進安全システムを装備するといった、地味ながら結構大掛かりな改良を受けていている。

試乗車はトップグレードの「4WD G」で、オプションとしてパノラマガラスルーフ、ロックフォードフォスゲートのプレミアムサウンドシステム、スマートフォン連携ディスプレイオーディオなどが装備されていた。

ツーリングルートは東京都内を一般道主体で150kmほど走った後、東京・葛飾から常磐道で北関東方面へ向かい、茨城と福島の県境にまたがる奥久慈の山岳地帯をオフロードを含めて遊弋し、国道4号線で東京へ戻るというもので、トータル走行距離は666.8km。おおまかな道路の比率は市街地3、郊外路4、高速1、オフロードを含む山岳路2。路面コンディションは全区間ドライ。1~2名乗車、エアコンAUTO。

まず、ツーリングを通してのRVRの印象を簡単に紹介したい。

■長所
1. いかにもSUVという感じの堅牢かつおおらかな乗り味
2. 路面の凹凸をぬるりとつかむオフロードの走行感
3. アップライトなドラポジと窓配置が生む見晴らしのよさ
4. 全長4.4mアンダー級としては十分な居住感、カーゴユーティリティ
5. 案外悪くないロングラン燃費

■短所
1. いささか非力なエンジンとダルなCVT
2. 俊敏さではオンロード主体型SUVに劣る
3. EU仕様のフェンダーアーチモールが欲しくなる少々地味な外観
4. スマホとのオーディオ連携がやや不安定なコネクトオーディオ
5. 車格を考えるとミリ波レーダーにしてほしかった先進安全システム

◆クロスオーバーSUVの皮を被ったオフロードSUV

インプレッションに入ろう。現行RVRの性格を一言で表現すると、クロスオーバーSUVの皮を被ったオフロードSUVといったところ。曲面を多用した抑制的なスタイリングは一見、乗用車のリフトアップ版のようなイメージだ。が、実際に乗ってみると、走行フィールや乗り心地はイメージとは裏腹に、いにしえの三菱車が持ち合わせいてたオフロードSUV的なものだった。

たとえば高速道路のハイスピードクルーズだが、直進性は大して良好というわけではないし、ステアリング操作のレスポンスもダルだ。が、路面に深い轍ができているようなところでもステアリングの修正なしにお構いなく直進するような安定感があり、不整路面の当たり柔らかだ。オフロードではショックアブゾーバーのねっとりとしたストローク感が気持ちよいコントロール性を生んでいた。またボディはとくに突き上げ方向のエネルギーの受け止めが良く、安心感を与える。

これらの特性は、もっぱらファッションとしてSUVを乗り回したい、あるいはSUVでもセダンライクなドライブフィールを求めるカスタマーにとっては価値のあるものには感じられないことであろう。が、伝統的なSUVファンは“これだ!”と思うに違いない。SUV好きを萌えさせるテイストはSUVの上位モデル『アウトランダー』よりもむしろ濃密で、オフロードミニバン『デリカD:5』に近い。もちろんスペック的には本格SUVではないのだから無理がきくわけではないのだが、手軽なモデルでらしさを満喫したいという用途にはうってつけであるように思われた。

◆ロール剛性が上がったサスペンション

では、要素別にみていこう。まずはシャシーチューニングから。

筆者は自動車評論が本業ではないため、全メーカー、全モデルをいちいちテストドライブしているわけではないのだが、RVRについては生産期間が長いこともあって、初期型のFWD(前輪駆動)、中期型のAWD(4輪駆動)でもロングドライブを試している。

試乗前、三菱自関係者から中期型に比べてサスペンションのロール剛性を上げたとの説明を受けた。「サスペンションが柔らかに上下動するのが三菱のSUVのいいところだったのに」と懸念を抱いたのだが、実際にドライブしてみるとそれは杞憂で、乗り味はいい方向に変化していた。

ゆったりとした乗り味の中期型に比べて確かにロール角は小さくなっているのだが、ショックアブソーバーの伸び縮みのスムーズさはむしろ向上しており、路面の凹凸への車輪の追従性は国産CセグメントSUVのライバルと比較しても随一。RVRはもともと乗り心地のフラット感についてはなかなか非凡なものを持っていたのだが、それがさらに良くなったように思われた。

高速道路や流れの良い郊外のバイパス路などをのほほんと流すときには、このチューニングが大いにプラスに作用した。栃木~茨城~埼玉にわたる国道新4号バイパスのように大型車の通行で路面がアンジュレーション(うねり)や轍だらけのようなところでも針路が乱れることなく平穏にクルーズすることができた。室内に伝わる振動もガタガタではなくヌルヌルした感じの角が取れたもので、すこぶる気分がいい。

◆走破性以上に気持ち良さがある

さて、三菱といえばオフロードが真骨頂。ということで、今回は茨城、福島県境の山地を縫うように伸びる未舗装の林道もドライブしてみたのだが、実はここが一番感心させられたステージであった。

現代はどのメーカーもAWDについては高い技術力を持っており、最低地上高が確保されていれば少々荒れたオフロードくらいはやすやすと乗り越えられる。RVRの良さはオフロードの走破性云々ではなく、そこを走るときの気持ちよさにあった。

走った林道は一般車進入可ではあったものの、キャタピラーを装備する治山用の重機が通るため、道はかなりの荒れよう。また山の奥部では路肩が崩壊するなどコンディションの厳しい場所もあった。その凸凹のきつい道をRVRのサスペンションは、言うなればぬるりとした感触でしなやかに掴んだ。

ピークを乗り越えるときにサスペンションが素直に縮み、乗り越えた後で素早く伸び、着地する時に車体の重さをぐっと受け止める…といった一連の油圧感たっぷりの動きは、ヘビーデューティSUVばりの質感だった。また、本格オフロード車ほどではないにせよ、路面が水平でない場所で車体を水平に保とうとするチューニングも優れていた。

フロントバンパー前端が高く取られ、また床下が真っ平らにデザインされているのもオフロードでは大きな美点だった。いくらテストドライブと言っても、借りたクルマを乱暴に扱ってフロントエンドをガリッとやったりすることは避けなければならない。

心配なところではクルマから降りてロードクリアランスを確認しながら走り、危ないときには道路中央の盛り土のようになったところを崩してから通過したが、これはどうかなと思うような場所でも思ったよりクリアランスに余裕があることが多かった。本格オフローダーでないCセグメントSUVとしては、走りやすさはトップクラスであろう。金属製の床下ガードをつけ、オールテレーンタイヤに履き替えれば、初歩のトレイルくらいは気軽にこなせそうな勢いであった。

AWDはセンターデフ式でも三菱自の看板技術である4輪自在制御「S-AWC」でもない普通の電子制御式なのだが、「4WD LOCK」モードにしておけば、後輪の片側が浮くくらいの箇所を通過するときも的確に駆動力が配分され、唐突な滑りが発生して焦るといったことがなかった。こういったAWDのチューニングはスバルと双璧をなすところであろう。

それほど大きくない車両重量のモデルでサスペンションの柔軟な動きを出していることでいささか割を食っているのは、舗装路の山岳路における敏捷性。基本的にアンダーステアが強めで、アグレッシブに走るのには向いていない。このあたりはオンロード性能重視のクロスオーバーSUVと比較すると、さすがに明確なビハインドがあった。また、SUVファンならそれも持ち味として喜びそうではあるが、高速道路やバイパスでのステアリング操作に対する応答性が鈍い。

後編ではパワートレイン、燃費、ユーティリティなどについて取り上げる。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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