「新種」開発への苦悩と野望…ヤマハ ナイケンPL「理に適っていないものは、格好悪い」

モーターサイクル 新型車
ヤマハ ナイケン(NIKEN)プロジェクトリーダー鈴木貴博氏に、バイクジャーナリスト青木タカオ氏がインタビュー
ヤマハ ナイケン(NIKEN)プロジェクトリーダー鈴木貴博氏に、バイクジャーナリスト青木タカオ氏がインタビュー 全 30 枚 拡大写真

2017年秋の東京モーターショーにて初披露され、18年中にヨーロッパを皮切りに日本でも発売が予定されているヤマハ『NIKEN(ナイケン)』。

車体をリーンさせて(傾けて)旋回するヤマハ独自のフロント2輪機構「LMW(リーニング・マルチ・ホイール)」は、2014年にシティコミューターとして『トリシティ125』で初採用されたが、『NIKEN(ナイケン)』では排気量845ccの直列3気筒エンジンを搭載し、LMWを採用する初のビッグスポーツモデルとしている。

既存の常識を覆す車体が各方面から注目を浴び、2018年下半期のもっとも熱い1台と言っていいだろう。そのプロジェクトリーダーであるヤマハ発動機モビリティ技術本部の鈴木貴博氏に、ナイケンがいかにして誕生したのか、そしてその狙いについて訊いた。

◆フロント2輪のLMWは「新種」

----:まずどうして、フロント2輪で車体を傾けて走るLMWを開発したのでしょうか。

鈴木貴博氏(以下、敬称略):結果として第1弾はトリシティ125となったのですが、我々はずっとコーナリングする楽しさを求めて、新しいモデルを開発しリリースしてきました。そして技術革新を伴って、さらに新しいものが作れないかと考えたとき、後ろにも2輪がある4輪のバイクや、後ろだけ2輪にしたもの、さまざまな可能性を模索しました。

----:ヤマハにとっては「曲がる楽しさ」が第一にあって、タイヤの数にはこだわらないと。

鈴木:はい。タイヤの数だけでなく、いろいろなことをスタディするなかで、前2輪というのが2輪車の楽しさを1段階ステップアップしていくのに、機構的に有効ではないかと結論に達しました。

----:やはりヤマハはオートバイのメーカーですから、2輪をライディングする楽しさを多くの人へ伝えたいという想いから生まれたのですか。

鈴木:コーナリングをより楽しめるパッケージを考えた結果として、このカタチに行き着いたということです。2輪からの発展というわけではないんです。

----:トリシティに乗ると、二輪では味わうことのできない安心感があり、スポーツライディングをするならLMWは理想的ではないかとさえ思えます。

鈴木:どっちが理想で、どっちが良いというのではなく、「新種」をつくったとお考えください。また違った乗り味があり、違う楽しさがあるんです。

◆すべてはコーナーを駆け抜ける歓びのために
ヤマハ ナイケン(NIKEN)プロジェクトリーダー鈴木貴博氏
----:「新種」もまた、車体を傾けて曲がるという部分は欠かせなかったと。

鈴木:車体を傾けて曲がれば、コーナーを駆け抜ける楽しさがありますし、遠心力と重力のバランスをとって旋回しているわけで、すごく理にかなっているんですよ。そして「傾く」ことで、幅の狭い乗り物をつくることができるんです。もし4輪車で傾かないで曲がる、バイクのような幅の狭い乗り物にすれば、すぐにパタンと転んでしまいます。

----:ナイケンはフロントフォークを片輪に2本備えていますが、剛性不足を補うためですか。

鈴木:じつは片側に1本だとインナーチューブが自由に回ってしまうので、もう1本あるのはそれを規制するためなんです。もちろん剛性などにも寄与していますが、タイヤが常にバネ上と同じ方向を向いていて欲しい、というすごく基本的な話しなんですよ。

フロントフォークには回転規制がないので、もし材料の加工技術がすごく進んで、インナーチューブもアウターチューブも四角いものがつくれたら1本で済むというわけです。

----:2本のフロントフォークは同じものなんですか。

鈴木:いいえ。前側がインナーチューブ径41mm、後ろ側が43mmとなっていまして、前側は回転規制のためのものでオイルしか入っていません。後ろにダンパーとスプリングが入っていまして、つまり通常のフロントフォークと同じになります。同じ43mm径でも問題はないのですが、ミニマム設計として前側を41mmまで絞れたということです。

◆視野が広く、景色が楽しめるからツーリングに最適

----:タイヤはブリヂストン製ですが、2輪のバイク用とは違うようですね。

鈴木:専用のニューパターンです。『A41』という名前の由来は、オールウェザーから来ています。山岳ツーリングも想定していまして、天候が変わりやすいですし、晴れていても雪解け水で濡れていたりと、あらゆる路面に強いという狙いでつくっています。

----:スーパースポーツのようなハイグリップタイヤだと、ハンドリングが粘っこくなってしまうみたいなことがあるのでしょうか。

鈴木:「ツーリングを楽しんで欲しい」という狙いがナイケンにはありまして、そう考えると路面を選ばない特性であったり、ライフ(耐久性)も考えました。

----:跨ってみましたが、ライディングポジションがゆったりとしていて、ツアラー的な雰囲気を感じました。

鈴木:はい。長時間乗っていただくには身体を起こした方がいいと思いまして、ハンドルは程良く高めで幅を持たせています。ツーリングでの体への負担を減らして景色を楽しみたい、という市場からの声にも応えています。

----:トリシティでは、LMWがもたらす余裕の走りが広い視野を生み、安全性を向上させるという話を耳にしました。

鈴木:視野が広いという優れた点は、ナイケンでも変わりません。ライディングするとき、なるべく遠くを見た方が車体の安定感が増すのは皆さんも体験されているかと思います。一般公道ですと段差もありますし、石も転がっていますから近くに目が行きがちです。このモデルですと、そんなときも遠くを見て車体を安定させることできるのです。

----:車体の安定はナイケンに任せて、ライダーは純粋に走りだけを楽しむことができると。ツーリング性能という観点でみれば、リバース機構やアクティブヘッドライトなどを採用する、というような装備面での検討も色々とあったのでしょうか。

鈴木:たしかに、そういったアイデアは多々ありましたが、最終的には「LMWならではの走りを楽しめるパッケージをつくりあげたい」というところに集中するのがいいだろうと、今回のカタチとなりました。

----:845ccの直列3気筒という大排気量エンジンを搭載した理由も、そこにあると。

鈴木:今回のパッケージがベストだということです。

◆理にかなった形は時間を経てもカッコイイ

----:開発でもっとも苦労したところを教えてください。

鈴木:LMWを使ったスポーツバイクをつくろうと最初に決まったのですが、開発メンバーたちはそれぞれが異なったイメージを持っていました。いろいろな機能を備えたグランドツアラーを考える人もいれば、もっと燃料タンク容量の少ないスーパースポーツ寄りのものを想像する人もいて、そんななか完成形のイメージをメンバーで共有することがもっとも苦労した点だったと思います。そこまでだいぶ時間を使いましたが、イメージを共有してからは加速的に開発が進みました。

----:どのようにして完成形のイメージを一本化していったのですか。

鈴木:まず最初に、このLMWを使ったスポーツモデルが本当に楽しいモノなんだということをメンバーによく知ってもらおうと、実際に乗ってもらいました。ライディングを経験して、世の中に出すためにはデザインはこうである必要があるな、ですとか体験を伴って議論を進めたんです。

----:開発チームの全員が、どうしてこのカタチ、この機構になっているのかが解れば、完成形が見えてくると。

鈴木:今までの常識を捨て、素直にものを考えました。たとえば、フロントが2輪になっていると、リアも変わったものにしなくてはならないという発想もあったのですが、理にかなったことをやろうとすると、2輪車にあるようなレイアウトになっていくのです。

----:シートに跨ってハンドルを握って操作するとなると、必然的にカタチは決まってきますものね。

鈴木:新しいとか新しくないとかを考えると上手くいかなくて、この機構ならこういうデザインが理にかなっているとなるわけです。逆にどうしても格好悪いときは、機構も理にかなっていないんですよ。

----:ダメなモノは格好悪い。

鈴木:もし買っていただいたら、一生ものとして乗っていただきたいと考えています。そう考えたとき、短期的な目新しさだけのものはデザインの寿命が短く、3年も経つと古びたものになってしまうんです。ですが、理にかなった通りに作り上げたものは、何年経ってもカッコイイと感じてもらえる。そういった部分がヤマハのバイクやデザインを評価いただいている部分だと思いますし、ナイケンもまたそうでありたいと思っています。

《青木タカオ》

モーターサイクルジャーナリスト 青木タカオ

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

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