来る5月27日、オンラインセミナー「全固体(半固体)電池の現在地と将来展望~問われる全固体電池ならではの優位性とその価値の再定義~」が開催される。セミナーに登壇するのは、矢野経済研究所 インダストリアルテクノロジーユニット エネルギー&モビリティグループ 部長の田中善章氏。
車載バッテリー市場において、LFP(リン酸鉄リチウム)電池の採用比率はますます高くなっている。BYDをはじめとする中国メーカーが主導するLFPは、CTP(Cell To Pack)といった電池パック技術等の進展との組み合わせを含め、バッテリーのコストパフォーマンスを大幅に引き上げ、全固体電池の市場参入に対する障壁となっており、全固体電池の立ち位置はいっそう問われる状況になっている。
全固体電池の現在地と事業化に向けた課題、そして日本企業が取るべき戦略について田中氏に話を聞いた。
LFP拡大が高めたコストハードル
全固体電池をめぐる議論は、いつ量産されるか、という技術ロードマップの問いから、”液系LiBと比べてどこが本当に優れているのか”という根本的な価値定義の問いへと改めてシフトしつつある。
矢野経済研究所 インダストリアルテクノロジーユニット エネルギー&モビリティグループ 部長の田中善章氏は、その背景をこう説明する。
「車載バッテリーにおいてLFPの採用がどんどん増えてきたことで、コスト観点でのハードルが非常に高くなっています。そうした中で、全固体電池が車載バッテリーとして、どのような価値を提供するのかという点があらためて問われています」

LFPの価格競争力が上がるほど、全固体電池が車載用バッテリー市場に参入するための壁は高くなる。この構造によって、全固体電池の価値再定義が急務となっているのだ。
三種の固体電解質─硫化物・酸化物・高分子の特性
全固体電池の固体電解質は大きく硫化物系・酸化物系・高分子系の三種に分類されるという。このうち、車載用の中・大型バッテリーにおいて有望視されているのが硫化物系だ。
「車載向けのような中・大型のバッテリーでは、硫化物系が非常に有望視されています。硫化物系は比較的柔らかい物性で、外圧をかけることで粒子間の接触を確保することができます」
「一方、酸化物系は高温焼結が必要で、セルのサイズを大型化すると割れや歪みが発生しやすいため、中・大型電池への適用は課題が残されていると見られます。TDKや村田製作所が手掛けるような小型セラミックコンデンサーレベルの電池では酸化物系がすでに実用化されていますが、自動車向けとしては硫化物系が主流となる見通しです」
ただし、硫化物系にも課題がある。微量の水分と反応し、硫化水素という強い毒性を持ったガスが発生するため、製造プロセスでの厳密な水分管理が求められる。同課題に対しては生産技術開発、材料開発の両面からのアプローチで最適解が模索されているが、コストアップ要因の1つとなっている。
中国が本気で仕掛ける固体電池戦略
こうした状況の中、中国メーカーが加速させているのが、半固体電池の実用化だ。半固体電池とは、酸化物系に少量の電解液を加えたり、酸化物と高分子を組み合わせたりすることで、早期に製品化を目指すアプローチである。

ただし、田中氏は半固体電池の優位性について疑問を呈する。
「半固体電池は、エネルギー密度の高容量化という全固体電池本来の優位性を発揮できません。今の液系電池よりも安全性が少し高まる、というくらいの、実は限られた優位性しかないというのが実態です」
電解液を一部用いると、全固体電池が本来打ち出せるはずの高容量な正極材・負極材との組み合わせができなくなるためだ。それでも中国が半固体に注力する背景には複数の戦略的動機がある。
「液系LiBの価格競争が激化しているため、付加価値の高い製品を提供しないと利益が取れなくなっているという事情があります。さらに数年前から、中国政府が国を挙げて全固体電池を推進し始めました。リチウムイオンバッテリーの世界の中心として、全固体電池も本気で手がけていくという宣言です」
「しかしながら、硫化物系全固体電池の知財は日本が多くを押さえており、そこへ直接踏み込むことへの障壁もある。そのため酸化物系をベースとした半固体で先行し、量産ノウハウを蓄積しながら硫化物系を射程に入れ、硫化物系固体電解質の新規開発も推進していく、というアプローチをとっているということでしょう」
なお、中国では2025年に国家標準として半固体・全固体の用語定義を定める動きが出ており、「半固体と全固体を明確に区別しようとしているのが足元の状況」と田中氏は説明する。
日系OEMは2027-28年を視野
日系自動車メーカーの動向について、田中氏は「2027~28年頃を第一世代の照準とする動きが複数見られ、現時点ではそのタイミングがファーストアクションになるというイメージ」と述べる。
トヨタ自動車と出光興産が共同でテスト生産ラインを構築したことや、日産自動車が全固体電池搭載車の早期量産を発表していることは広く知られている。しかしながら、全固体電池のコストについては、いまだ道筋が見えていないと指摘する。

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