【川崎大輔の流通大陸】カンボジア整備ビジネスの今

自動車 ビジネス 海外マーケット
北米からの中古レクサス
北米からの中古レクサス 全 5 枚 拡大写真

2018年7月の総選挙の話題が多いカンボジア。6月下旬に首都プノンペンを訪問し、カンボジア自動車整備マーケットの現状を見てきた。確かに多くの課題も残るが、魅力も大きい、それがカンボジアのマーケットだ。

◆ カンボジアの高まる自動車整備需要

2018年6月に1年ぶりにカンボジアの首都プノンペンを訪問した。明らかに自動車の台数が増えている。街中の道路も綺麗(きれい)になり最近は新車の販売も伸びてきている。“Grab”や“Pass App Taxi”と呼ばれるカンボジア版ウーバーのような新しいライドシャアリングのアプリも導入され自動車周辺ビジネスの新しい動きも出てきた。そのおかげでタクシーの利用も快適であった。

一般的に1人あたりGDPが3000ドルを超えると、その国でのモータリゼーションが始まり、自動車が急速に普及されると言われている。カンボジアの1人あたりGDPは約1400ドル(2017)だ。しかしプノンペンに限ってみると4000ドルを超えており、モータリゼーション期に突入している。

今、プノンペンではバイクに乗った若者がたくさんいて街中活気で溢れている。これからのカンボジアの経済成長に伴い若い世代の所得が増加するだろう。車に興味がある若い中間層が増え、2輪バイクから自動車への乗り換えによる自動車市場の拡大が見込まれる。自動車の普及台数が増加するにつれて自動車整備需要も高まっていくことは間違いない。

◆カンボジアの3つの整備プレーヤー

現在、プノンペン周辺には大小200か所の整備工場があると言われている。新車ディーラー以外にも自動車整備のサービスを行うプレーヤーがいる。大きくは3つのプレーヤーに分類されている。(1)ディーラー、(2)モダン、(3)トラディッショナル、である。

ディーラーは新車ディーラーに併設されている一般的な整備工場だ。新車販売以降の保証期間内の顧客が対象となっている。モダンは、外資出資の設備が整った整備工場が主流。PIT&GOを始め、e-Garage、CAR FRESH、Futaba Garage、K-Fix Automobile、GA Service Centerなどがあげられる。プノンペン周辺にはこのようなモダン整備工場が20店ほど存在する。カンボジア国内市場の約9割が中古車となっている中で、モダンは車齢5年から10年くらいの車の入庫が多く自動車社会における中間層部分をターゲットとしている。

トラディッショナルは、小規模な家族経営で地元のパパママショップ的な整備・修理場を指す。プノンペンの街中を車で走ると道の両脇(わき)に小さな修理場や道端整備を頻繁にみかける。純正部品ではないものを多く扱うため修理・点検費などは安い。カンボジアでは、特に中古車を購入するような層はコスト重視で、部品交換なども新品ではなく中古を使いたがる傾向が強い。価格の安いトラディッショナルは需要がありカンボジア整備市場での重要なプレーヤーとして存在している。正確な統計はないが現地でのヒアリングによれば利用する顧客の割合はディーラー(10%)、モダン(10%)、トラディッショナル(80%)ほどだ。

◆カンボジア整備ビジネスの課題とは?

カンボジアは周辺諸国と異なり中古車輸入に好意的である。理由として新車への輸入税が高く設定されているためだ。低い税金体系を享受するため中古車がカンボジアに多く入ってくるという市場構造になっている。特徴的なのは、約8割の中古車がアメリカから輸入される左ハンドルの日本メーカー車であるという点だ。右ハンドル規制があるためだ。プノンペンで走る半分近くがトヨタブランドである。「レクサスRX(ハリアー)」は成功車のシンボルであると言う。そういったカンボジアで整備ビジネスを行う課題の1つとして、部品調達があげられる。中古車の多くは北米からくるため、北米仕様の中古部品が必要なことも多く、部品の調達が困難だ。

このような現実は、カンボジア人は今日をどのように過ごすかに焦点があたっていて、その後のことは考えない傾向があることと関係が深いかもしれない。車も走れば良く、そのあとの整備・メンテナンスなどは考えていない。これからの整備ビジネスは、コストと質ではコストに傾いているカンボジア人の「安かろう、悪かろう」の意識をどのように変えていくかが重要なポイントになりそうだ。

更にカンボジアにある日系整備工場“PIT&GO”のマネージャーである深氏は「カンボジア社会が散髪屋ビジネス」であると指摘する。つまりお父さんが買っているから安心だろうという縁故ビジネスでありその中になかなか新参者は入り込めていない。お金持ちはお金持ち、低所得者は低所得者だけと、限られた階層間でしかビジネスができない閉鎖的なコネ社会がカンボジアであり、これが整備ビジネスにおいても1つの大きな課題となっている。

◆カンボジアでのビジネスの魅力

カンボジアで、自動車アフターパーツを販売する(株)マルエムの代表巖谷氏は「どんな市場であっても1番になることが重要。カンボジアには中小企業であってもその可能性があるというのが魅力」と巖谷氏は言う。確かに、人口が1400万人ほどと市場規模は小さいが、大企業が進出をしづらい市場だ。更に「カンボジアでの要望を真っ先に知って、1から商品やサービスをつくっていける。日本ブランドに対してはすごく興味を持ってもらえる。カンボジアでのビジネスは損得勘定なしに楽しい」(巖谷氏)。

カンボジアは日本が約半世紀前に経験したモータリゼーションの波をこれから迎えようとしている。変化が起きている市場には、常に新たなビジネスチャンスが生まれることはどこの市場も変わらない。カンボジアでの整備ビジネスの大きな可能性がそこに存在していることは間違いない。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  3. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  4. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
  5. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る