【ホンダ シビックセダン 1200km試乗】“かつてのシビック”を求める人には退屈に感じられるだろう

試乗記 国産車
シビックセダン。福島・浪江町にて。
シビックセダン。福島・浪江町にて。 全 20 枚 拡大写真

ホンダのコンパクトクラス(アメリカ基準)セダン、『シビックセダン』で1200km弱ツーリングする機会があったのでリポートする。

シビックセダンはミドルクラス『アコード』と並ぶアメリカ市場でのロングセラーモデル。現行型は初代から数えて第10世代にあたり、2015年にアメリカで登場。日本市場には昨2017年9月に投入された。同時期に発売された欧州モデルの『シビックハッチバック』がイギリス生産モデルであるのに対し、セダンはアメリカ製ではなく日本の埼玉製作所寄居工場で作られている。

シビックセダンは1.5リットルターボ+CVT(無段変速機)、FWD(前輪駆動)、運転支援システム「ホンダセンシング」装備のモノグレード構成で価格は265万円。試乗車はレザーインテリアやカーナビが装備され、トータル価格は300万円超。試乗ルートは東京を起点とした伊豆半島周遊、および福島県周遊で、総走行距離は1180.6km。道路種別は市街地2、郊外路4、高速道路2、山岳路2。ドライブコンディションは路面ドライ、1~2名乗車、エアコンAUTO。

まず、ロングドライブを通じて感じられたシビックセダンの特徴を箇条書きにしてみよう。

■長所
1. 軽量な車重に対して十分にパワフル、かつ応答性の高いターボエンジン
2. ぐらつき、ふわつきが少なく安定性が高いクルーズフィール
3. アメリカンセダンらしい鷹揚な乗り心地
4. 細部の空力処理にもこだわるなど理系萌えのキャラクター
5. ロングツーリングでもゆとりたっぷりの前席空間

■短所
1. アメリカのバジェットモデルの宿命で内外装の作りはいささか安っぽい
2. 操縦性が大味で操る楽しさは希薄
3. 後席はシートバックが寝すぎで頭上空間も狭い
4. 悪いというほどではないがもう一息伸びてほしい燃費
5. 室内の収納スペースが不足気味
ホンダ シビックセダン
シビックセダンは全長4650×全幅1800mmと日本基準でみれば結構大柄なボディでありながら、室内は2by2的な前席優先パッケージングを基本としている。前席はゆとりたっぷりであるのに対し、後席は頭上空間を稼ぐためにシートバックがかなり寝気味で、セダンライクな居住感ではない。

動力性能的にはタウンライドではCセグメントとしてはかなりパワフルで、スロットルを少し深く踏み込むだけで低中回転の豊かなトルクを生かしてぐーっとスピードを乗せることができる。クルージングもふわつきの少ないフラット感重視のサスペンションセッティングとあいまって得意科目。半面、ワインディングロードでは前輪がぐいぐいと路面に食いつくようなフィールではなく、ステアリング操作でロール角をコントロールできるようなリニア感にも欠けていた。言うなればフツーである。

これらの特性は良い部分も悪い部分も、シビックセダンがアメリカのコンパクト市場にぴったりターゲットを定めて作らていることに由来するものであろう。アメリカではシビッククラスのクルマはほとんどタウンライド用途で、後席に人を乗せる機会も多くはない。ツーリングにしても、州をいくつもまたぐような長旅をする人は基本的にこの上の『アコード』、あるいいはトヨタ『カムリ』のようなミディアムクラスを選ぶのが普通で、シビックセダンは近場の街や州内の観光地にちょいとお出かけするためのものだ。

ただし、その近場というのがアメリカの場合、200マイル、300マイル先などというのは全然珍しくないことだ。またインターステートハイウェイの流れもカリフォルニアで75~80マイル/時、内陸の州では85~90マイル/時と日本よりずっと速い。日本向けモデルと比べると要求される性能、耐久性は格段に高いのだ。

シビックセダンはアメリカのコンパクト市場ではベストセラーモデルであり、現行モデルはそういうニーズに対してライバルを置き去りにするくらい最高の答えを出さなければならないというプレッシャーのなかから生まれてきた。そういうアメリカンニーズに関わる部分についてはシビックセダンは折り紙つきと言える良さをたしかに持っており、それ以外の部分についてはここまで無関心でいいのかと思えるようなところもあった。

徹頭徹尾、アメリカのコンパクトカーユーザーのために作られたモデルだということを百も承知で買う顧客にとっては、シビックセダンはマイカーとしてとても良い選択肢のひとつとなりそうだった。シビックセダンを駆ってのハイウェイやバイパスを主体とした片道数百キロのドライブはとても気持ちが良く、楽しいものになるだろう。一方、シビックにかつてのホンダのスポーティフィールを重ね合わせる顧客層にとっては、シビックセダンはいささか退屈なクルマに感じられよう。

◆シャシーチューン&ボディの出来は?
ホンダ シビックセダン
では、ファクター別にもう少し細かく見ていこう。シャシーチューンは前述のようにタウンライド、ハイウェイクルーズに最適化されていた。チューニングの方向性は少し前のホンダ車とやや異なり、サスペンションの縮み側は緩め、伸び側は引き締めたようなセッティングだった。

これはフラット感の演出という点についてはかなり有効で、高速道路では少々舗装が荒れていたりアンジュレーション(路面のうねり)がきつかったりしても四輪が路面をきっちりホールドしているようなドライブフィールが維持された。サスペンションのチューニングはきわめてデリケートなものなのであくまで感覚的な印象だが、伸び側の引き締めが若干過剰なきらいがなきにしもあらず。セッティングの方向性はそのままに少しだけ伸び側を緩めるとさらに滑らかな巡航感を得られるような気もした。

これでサスペンションがストロークしたときのショックアブゾーバーの油圧感が豊かであれば、コーナリング時の応答性、コントロール性も素晴らしいものになったのであろうが、残念ながらそっちのほうは凡庸であった。西伊豆や福島の矢祭方面に広がるワインディングロードを長々と走ってみたが、どんな道でもどんと来いと思わせるようなハンドリングの正確性はなかった。

もっとも、これはテストドライブ前の期待がちょっと高すぎたというのもある。同じホンダのステーションワゴン『ジェイドRS』のフロントサスのチューニングがあまりに国産車離れした素晴らしさだったため、それと同等か、近いフィールを持っているのではないかと思ってしまっていたのだ。そういう期待値を外せば悪いというほどではなく、没個性的だが普通のレベルにはある。
タイヤはブリヂストン「トランザER33」。
乗り心地は前述のように高速やバイパスなど比較的スピードに乗った状況ではしっかりしたフラット感が保たれ、悪くない。それに対し、速度の低い市街地や舗装が老朽化した山岳路などではゴワゴワ感がやや強めだ。シビックセダンのタイヤは新車装着タイヤとして広く使われているブリヂストン「トランザ」だが、このタイヤはシャシーとのマッチングをかなり頑張らないと当たりの固い乗り味になりやすい。日本では中型セダンに近いサイズ感のモデルなのだから、このチューニングはもうちょっと頑張ってほしいところだ。

次にボディ。シビックセダンは全長4650mmとかなり大柄なボディだが、車両重量はレザーインテリア、17インチホイール込みでも1320kgとかなり軽量。ジェイドRSと比べると、実に200kgものダイエットだが、ボディワークは本当にしっかりしており、大きな入力がかかっても剛性感はきっちり保たれている感があった。

そのボディのデザインを見ると、随所に凝った空力処理の痕跡がみられるのが興味深かった。一例はフロントタイヤハウス後端で、普通はボディ面から直角に削りこまれるのに対して航空機のようにタイヤハウスから出てくる空気を滑らかに流すようなエアロダイナミクス形状になっている。それ以外の部分もフロントフェイスからリアエンドに至るまで、空力デザインと思しき部分が至るところに見受けられる。シビックセダンは高速安定性についてはきわめて優秀であると感じられたが、こういう空力処理も一役買っているのではないかと思われた。

◆余裕の動力性能

パワートレインは1.5リットル直噴ターボ+CVT。このエンジンはデビュー当初は最高出力150ps、最大トルク20.7kgmと、かなり抑制的なスペックだったのだが、シビックセダンはレギュラーガソリン仕様のまま173ps/22.4kgmに増強された。実際にドライブしてみても、このエンジンについてホンダが当初主張していた“実用域では2.4リットル級”というパワーフィールがようやく実現されたという感があった。

動力性能の余裕はCセグメントファミリーカーとしてはなかなか大したもので、スロットルを少し踏み込んだだけで発進加速、高速道路の流入、ハイスピードでの追い越し、急勾配など、シーンを選ばずフラットトルクが生み出す息の長い加速感がどこまでも続くというイメージである。

CVTのレスポンスも非常に良かった。面白かったのはそのレスポンスを生かしたエンジンとの協調制御の精密さ。昨今はCVTもスロットルの踏み込みによってみだりに変速比を変えたりせず、有段変速機のようにエンジン回転と速度上がりが比例するようなセッティングが一般的。それに対してシビックのCVTはドライバーの加速要求に応じて変速比がゆらゆらと揺れ動く。

こういう挙動は一般的にはラバーバンドフィール(スロットルを踏んでも実際に加速に結びつかないこと)というダイレクト感の希薄さにつながるとされているが、シビックセダンの場合、揺れ動きがまったく気持ち悪く感じられなかった。ドライバーが欲しい車軸トルクを的確に出せるのであれば、エンジン回転が揺れ動いても全然気にならないものなのだなと認識を新たにした次第だった。

満タン法によるロングラン時の実走行燃費は東京・葛飾を起点に伊豆を周遊した476.2kmドライブ時が15.2km/リットル。同じく東京・葛飾を起点に郡山~浪江町~いわき~矢祭と遠乗りした647.8kmドライブ時が16.9km/リットル。どちらもパワードライブの局面では遠慮なく踏み込んだ数値である。車格、ボディサイズ、動力性能面のゆとりなどを勘案すれば、十分に受け入れられるであろう燃費値であるが、欲を言えば同じようなドライビングによるロングランで18km/リットルを超えてほしいところ。そうなればかなりの高効率というイメージを持たれるようになるだろう。

◆使い方によって評価がわかれる居住性・ユーティリティ
シビックセダンの前席。
居住性、およびユーティリティは、使い方によって評価が分かれそうな感じであった。まずフロントシートについては、スペース的な余裕は十分で、かつコクピットへの収まり感も良い。運転や電装品の操作に関するスイッチ類は今どきの日本車には珍しいくらい少なく、レイアウトもすっきりと整理されていた。操作系のデザインについてはメーカーによって思想が千差万別。ユーザーのほうも好みが分かれるところだが、ツーリング時はこういうスッキリ系のほうが好ましいというのが筆者の個人的な感想である。

後席は前席に比べると居住感がかなり落ちる。2700mmという長めのホイールベースの恩恵で膝下空間のゆとりはたっぷりあるが、ルーフ後端がかなり落とし込まれた空力フォルムと後席頭上空間を両立させるために、シートバックがかなり傾斜している。短時間のドライブであれば狭苦しいというほどではないが、この寝た姿勢で長時間乗車していると窮屈に感じることであろう。

室内の収納については、日本市場や欧州市場向けのモデルのように緻密なレイアウトにはなっていない。クルマのサイズのわりにドアポケット、センターコンソールその他の収納スペースは小さく、モノをポンポンしまい込むのには不向きだ。トランクルームは容積自体は小旅行を行うのに何ら困らないくらいの余裕があるが、開口面積が小さく、大きな荷物を積むのには苦労しそうだった。このフォルムならいっそリフトバックにしてしまったらどうなのだろうかとも思ったが、アメリカではセダンはトランクが独立していることが絶対正義のように思われているので、そうもいかないのであろう。

◆日本のセダンユーザーにどれだけマッチするか

シビックセダンはアメリカンなハイウェイエクスプレスとしては良いセンを行っているモデルであった。走りの質感は大して高くはないが安定性は大変良好。前席2名乗車、行動半径300kmくらいであれば、動力性能の高さも手伝って文字通りノーストレスで遠乗りこなせそうだった。とくにセダンならではの低重心のメリットは顕著で、ミニバンを走らせるよりはずっと楽しいだろう。

問題があるとすれば、前席優先パッケージの4ドアノッチバックセダン、クルマとしての基本資質は高いが内外装や走りの質感はノンプレミアムそのものといったアメリカオリエンテッドな商品特性が日本のセダンユーザーにどのくらいマッチするかであろう。タウンライドや近距離主体の使い方であれば、もっと安くて小回りのきくモデルがいくらでもある。リアシートの居住感が欲しいなら、同じCセグメントクラスセダンのスバル『インプレッサG4』、マツダ『アクセラ』など、リアシートでも良好な着座姿勢を取れるライバルが立ちはだかる。

このように日本ではいささか難しい立ち位置のシビックセダンだが、高速巡航の比率が高い、年間走行距離が長い、豊かなエンジンパワーが欲しいといった顧客には向いている。クルマの保有者の平均月間走行距離が400kmを下回るほどにドライブ文化が廃れている日本ではもはやそういうユーザーは少数派であろうが、そういう層にはもっと特性を知られてもいいモデルであるやに思われた。

フロントグリルもエアダム形状になっている。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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