お盆の運転に注意!夏に急増する高齢者の事故、その理由は【岩貞るみこの人道車医】

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体調急変による交通事故の実態、高齢者に多くなるその理由とは(画像はイメージ)
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◆運転とエコノミークラス症候群

運転中の体調急変により交通事故を引き起こすケースは、以前から指摘されている。いくら安全運転していても、こればかりは防ぎきれない。高血圧が血管をもろくする、コレステロールが血管をつまらせると医学会は警鐘を鳴らし、日々の体調管理こそが安全運転への第一歩であるというけれど、わかっていてもカロリーの高いものほど美味しい。それに、運動しろ、ウォーキングしろといわれても、この暑い時期では逆に熱中症を引き起こしかねない、という言い訳を葵のご紋のようにかざしてさぼる、人間とは弱い生き物である。

ところで、健康起因の交通事故は、いったいどのくらい起きているのか? ITARDA(交通事故総合分析センター)の大嶋菜摘氏によると、「年間200件、全体の0.03%」だという。一方、滋賀医科大学教授の一杉正仁氏は、「海外では10%というデータがある」と報告している。10%といえば、10人に一人である。かなりショッキングな数字だ。ちなみに私が以前、東京で開催された救急医学会で得た情報は「0.8%」だった。0.03~10%。なぜ、こんなに違うのか? 

理由は、検証ができないから。交通事故で亡くなった場合、解剖して死因を解明するケースはほとんどないからだ。少し前、某介護施設の同僚が夜勤明けにクルマを運転して帰宅することを知っていながら、飲み物に薬物を混入したとんでもない事件がある。被害者は反対車線にはみだして事故を起こし亡くなっているけれど、この場合も、居眠り運転として処理されてそのまま荼毘にふされ、本当の事故原因は、解明されなかった。日本は先進国ではまれな「死因不明社会」。理由は法医学者が足りないうえに制度がないからなのだが、交通事故もそのしわ寄せはきていて、健康起因の事故がどのくらい起きているのかはっきりしたことはわからない。

◆健康起因の事故は男女に差

でも、実際問題として起きているのは事実だ。そして、健康起因による交通事故は、当然だけれど年齢を重ねるごとにふえる。既往症のある人が増えるからだ。ということは、超高齢社会に進む日本は、今後もどんどん増える可能性があることになる。ITARDAの大嶋氏のデータをよく見てみると、健康起因による交通事故発生にはさらに男女に差があるという。

64歳以下の場合、男性78.4%:女性21.6%。
65歳以上の場合、男性84.3%:女性15.7%。

おお! 圧倒的に男性が多い。そうか、女性は少ないのか! そういえば、いつだったか救命救急センターの先生が「女性の方がなぜか、体力的に強い」(この場合、もう助からないと思っても助かるという意味)という漠然とした印象を聞いた覚えがある。根拠のない、ただの感覚的なものだというけれど、現場の感覚はそれなりの信憑性があるように思う。

そうか、女性は強いのか。安心して高カロリー食品を食べられるではないか(そういうことじゃない)。でも、落ち着いて考えてみれば、男性の方が運転する人は多いし、一回の運転時間も距離も長い。65歳以上になれば、その傾向は顕著な気がする。分母が違うのだから、男性のほうが運転中に発症する可能性が高いのは当たり前なのだ。そういう意味では、仕事で日常的にクルマを運転している私は、男性群に属する。危ないではないか。

◆6月~8月にかけて急増する65歳以上の事故

さて、大嶋氏のデータに、夏に関係する興味深いデータもある。それは、健康起因による交通事故は、64歳以下は一年をとおして大きな変化はないものの、65歳以上になると6月~8月にかけて急増するというのである。

これは、なぜ?

大嶋氏は、車内の涼しさと外気の暑さによる寒暖の差ではないかと分析している。私は、それに加えて、エアコンのなかで運動(運転は結構、汗をかく。しかも、たとえウィンドーごしでも太陽に照らされたときは、めっちゃ暑いし)することで、水分が不足して血液濃度が上がっているんじゃないかと推測している(シロウト考えです)。

エアコンがきいていると、車内の湿度が下がり、息をするだけで体内の水分が失われる(これは事実)。車内の人としゃべったり、カラオケよろしく大声で歌っちゃったりすれば、よけい口から水分が出ていく。でも、クルマのなかは涼しいから、汗をかかないし、水分が低下していると気づきにくいのだ。その上、「トイレに行きたくなるから、あまり飲みたくないなあ」という心理的要因も加われば、体内水分が一気に低下。むむ。これは、エコノミークラス症候群が発症するときと似た状況ではないか。

これは、いかん。飲もう! みなさん、運転中に水分補給をしましょう! コレステロール値改善に特効薬はないけれど、水を飲むならすぐにできる。休憩、軽めの体操、水分補給。もうすぐやってくるお盆の民族大移動でも、くれぐれも体調急変して事故ることなく、楽しい思い出をおつくりくださいませ。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。2024年6月に最新刊「こちら、沖縄美ら海水族館 動物健康管理室。」を上梓(すべて講談社)。

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