無事に帰ってこられるように…スズキ ジムニー 新型、機能を表現した[デザイナー インタビュー]

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スズキ ジムニー
スズキ ジムニー 全 16 枚 拡大写真

スズキ『ジムニー』が、20年ぶりにフルモデルチェンジした。そのデザインは、機能を素直に表現したものだという。そこで内外装のデザイナーにその理由やポイントについて話を聞いた。

■めったにないチャンス

----:エクステリアデザインを担当した山本さんは、ほかにも多くのスズキのクルマを手掛けていますが、今回ジムニーのフルモデルチェンジをするということを聞いた時、どのように感じましたか。

スズキ四輪技術本部四輪デザイン部エクステリア課長の山本雄高氏(以下敬称略):めったにないチャンスなので、ラッキーだと思いました(笑)。20年ぶりという久々のタイミングですから、デザイナー人生でよくて2回、3回はないという機会なのでこれは面白いと思いました。

----:確かにそうですね。その時に、新型ジムニーをどのようなデザインにしようと思いましたか。

山本:色々な考え方が最初はありました。まず20年経っていますので、その間に技術の世界は大きく進化していますから、当然新型でもクルマそのもののレベルが非常に上がりますよね。そのように中身が新しくなっていますので、そういったものを正直に分かりやすく伝えるために先進的なデザインにするという考えも、先行開発をしている時にはありました。しかし開発コンセプトとして、機能を素直に表現しようということになりましたので、それであれば徹底的にそこを目指そうとこのデザインになったのです。

■無事に帰ってくることができるデザイン

----:このクルマのデザインコンセプトはどういうものでしょう。

山本:機能を形にしたデザインということですが、デザインの現場で皆にいっていたのは、とにかく無事に帰って来られるデザインにしようコンセプトでした。

実際に担当者が調査で浜松近郊のダートやオフロードパークなどに、休みの日にクルマを借りて乗って行ったりしていたのですが、そこで崖から落ちそうになったりしていました(笑)。そういう体験をしながら、本当にここはこうしないと危ないとか、こうしないとまずいということを反映したデザインにするというのが今回のやり方でした。結構リアルな話でしょう。

----:では具体的に機能を表現した部分はどこでしょうか。

山本:まずAピラーを先代よりも傾きを立て、かつ後ろに引きました。これは前方と側方視界を広げるためです。またボディ同色のカウルトップガーニッシュですが、先代は単に穴が開いていただけでしたが、実はここに雪が溜まってしまったのです。そこで今回はこれをはめて溜まらないようにしました。

同時にサイドウィンドウを立てたのもガラスに雪が積もらないようにということです。実はこれによって屋根の幅はかなり広がっているのです。

内側に入れたヘッドランプ位置にも理由があります。端についていると本当に過酷な状況ですと、ぶつけて割ってしまう恐れがあります。ウインカーであれば割れても帰ってくることはできますが、ヘッドライトではそういうわけにはいかないこともありますので、サバイバルも考えて内側に入れているのです。


■遊び心にスリット風を用いて

----:その一方でジムニーらしさも残されたようです。それはどのあたりでどう表現したのでしょう。

山本:これはシャレでやっているのですが、Aピラーの付け根のスリット風のものがありますよね。これは昔のモチーフでそれをオマージュにしているのです。あくまでも息抜き程度の話ですが。

ジムニーは新型になっても、ラダーフレームを採用し、エンジンを縦置きにしたFRレイアウトなどクルマの基本構成は変わっていません。そういったことを一番使いやすく素直に作っていくとある程度この形になります。まずそれが基本です。

その上に機能的な意味づけをもとにしながらデザインをしました。その時にはジムニーだけではなく世界中の四駆も参考にしながら行った結果がこの形なのです。

本当にストイックに作っていったので、さすがにストイックすぎて辛いかなと思い、最後にちょっと息抜きでスリット風のものを入れました。


■グリルはランプガーニッシュという位置づけ

----:フロント周りはかなり印象が変わったイメージもありますが、その特徴はどういうものでしょう。

山本:先々代が機能重視的なデザインだったのに対し、先代はもう少し乗用車的で、普段使いで違和感のないものにしようという考え方でしたので、スタイリングもそのような傾向になっていました。ヘッドランプもフラッシュサーフェスの乗用車デザイン的なまとめ方をしていたのです。

しかし今回は先々代と同じように機能重視型に戻りましたので、それに合わせてデザインしています。

----:グリルの部分を黒くした理由はなぜでしょう。初代ジムニーはボディ同色であったのでそういう手もあったかと思うのですが。

山本:もちろんそういう考えもありますが、このクルマの場合はそこに色をつけて飾る必要もないかなと考えています。今回プロテクションの部分は全て材着樹脂を使っており、例えばバンパーやオーバーフェンダーなどもそうなっています。このグリル部分もどちらかというとランプガーニッシュという位置づけでデザインしており、それがグリルと一体になっているのです。


----:今回山本さんが一番こだわったところはどこでしょう。

山本:全部こだわっているのですが、意味づけを全てしていったら結果的に恰好よくなるとなんとなくそう思っていました。例えばダイバーズウォッチなどはすごい深度まで潜れるがそんな性能はいらないですよね。しかしそれが良いのです。とにかく機能がしっかり説明がつくようなデザインにしようとしたことにこだわりました。

■とにかく徹底的に機能にこだわった

----:では今度はジムニーのインテリアについて伺います。村上さんも数多くのスズキ車のインテリアを手掛けてきましたが、今回、新型ジムニーのインテリアデザインを行うということが決まった時、どう感じましたか。

スズキ四輪技術本部四輪デザイン部インテリア課長の村上俊一氏(以下敬称略):実はジムニーのフルモデルチェンジの話は、この20年の間に何度か持ち上がっているのです。そこで今回はどうなのかなと思っていましたが、なんとか形にすることができました。

----:新型ジムニーのインテリアのコンセプトはどういうものでしょう。

村上:エクステリアもインテリアも一緒で、とにかく徹底的に機能に徹するというところと、潔さです。加飾などに頼らないで、潔くデザインするということを目指してデザインしました。とにかく徹底的に機能にこだわる、そこが全てです。

では何の機能にこだわるか。それはオフロード性能です。オフロード走行した時の運転のしやすさや安心感、使いやすさという機能を徹底的に極めようと全てのデザインを追求してきました。


■水平基調のインパネもベルトラインも機能のもとに

----:では具体的にインテリアで機能にこだわった部分はどういうところでしょう。

村上:インテリアはとにかく明快な横基調デザインになっています。ドアトリムもそうなのですがとにかく水平基調で、定規で引っ張ったようなビシッとした直線基調です。その理由は、まさに悪路で車体が傾いた時に自分のクルマの姿勢がいまどのくらい傾いているのかを少しでも把握しやすくするために、余計な無駄な線などを排除して、とにかくまっすぐに水平にしました。これは一番大事にした部分でもあります。

----:インパネではメーター周りが独特の形状をしていますね。

村上:これもやはり徹底的に機能をシンプルに表現したものです。あくまでもこれは“計器”なので、よくある立派に見せるメーターにしようというよりは、航空機などと同じで計器として、いまメモリはいくつなのかと瞬時に判断してもらいたいという思いで極力シンプルな構成にしています。

またこのメーターは常時発光を採用しました。山の中の林道を走っていると日があたったり急に影になって暗くなったりもするので、そういったときにでもメーターが確実に見えるよう、常時発光としたのです。なのでこれも加飾ではありません。

もうひとつ、ベルトラインがキックしていますが、これもミラーなどの前方下方視界を確保しようという目的です。このように全て機能というところに話が執着するような形でデザインしています。

----:なるほど。インパネ周りを見ると、ひとつひとつのパーツはセパレートしているのですが、全体としては一体感がありますね。

村上:骨格がひとつバンとあって、そこに部品が組み合わされていっているという構成です。その骨格は助手席乗降グリップなどを含む横基調のものがその軸になっています。

ひとつひとつのスイッチの機能は全て目的が違います。それを際立たせたいので、あえてビルトインせずにサイドルーバーはサイドルーバーとして独立させ、ヒーターコントロールはそれで独立させました。しかもかなり立体的にしている理由は、ブラインドタッチでも触れるようにしているのです。しっかり凹凸をつけて手探りだけで操作できるのが理想ですから。


またパワーウィンドウスイッチは通常ドアについていますよね。今回はそこではなくセンターコンソールに集約させました。これも本気で悪路走行をしているとドア周りのスペースが非常に大事になるのです。

例えば足があたったり、またハンドルを一気に切り増したり戻したりした時に、横にパワーウィンドウスイッチがあると結構邪魔になることがあるのです。そこで徹底的にそういった操作性や使い勝手を追求して、スペースを確保するために取り払い、センターに集約させました。

しかもここに持ってくるとスイッチの幅を大きくできるというメリットもあります。通常のパワーウィンドウスイッチの1.5倍ぐらいにはなりましたので、グローブをしたままでも操作しやすくなっています。しかもこれだけ大きいと揺れながらでも操作できますので、そういった機能を真面目に考えて積み重ねていきました。

実はもうひとつこだわったのはシボです。たいがいクルマの内装は革シボを使っていますが、今回ほとんどの部位でこの革シボを使わず、もっとざらざらしたシボにしています。これは、泥汚れなどへの配慮です。

例えば林業などの方で長靴を履いて泥だらけの状態でクルマに乗り降りすると、色々なところが泥だらけになります。そういう時に泥がつきにくいとか、泥がついても水拭きでさっと取れるということを考えたのです。革シボですとどうしても目が埋まってしまうので汚れてしまいます。そういう汚れにくさや傷の目立たなさを踏まえてシボを考えました。そのほかにもヒーターコントロールのところや握る部分、触る部分は少しザラザラしていてグリップ性を高めたグリップシボを新開発しました。とにかくシボだけでも機能感を表現しているのです。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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