えらい、怖い、がんばれ…急坂いっぱい住宅街で始まったEVカートタクシー実験

沿線地域交通課題解決に向けた新しい交通システム

試乗で衝撃、えらい! がんばれ! 怖い!

課題は規制クリアとビジネス化

坂道の多い京急富岡駅エリアで始まった電動小型低速車実証実験
坂道の多い京急富岡駅エリアで始まった電動小型低速車実証実験全 8 枚

沿線地域交通課題解決に向けた新しい交通システム

トップ画像をみて、この景色が京急沿線とわかる人は、相当の京急好きか、沿線に長く住んでる人か。見てのとおり、小高い丘陵地帯の斜面に、いまっぽい戸建住宅が密集しているこの“坂道だらけの住宅街”で、「新しい交通システム」の実証実験が始まった。

【画像全8枚】

実験タイトルは「沿線地域交通課題解決に向けた新しい交通システム『電動小型低速車』実証実験」。実験現場は、横浜市立富岡小学校の北西側に広がる、けっこうな坂道が連続する斜面。歩き出してまもなく汗が出てくるし、すぐに脚に負荷がかかるほどの急坂が連続する街で、走り出したのは、日立製のゴルフカートがベース。

この電動小型低速車は、2台で日中1時間あたり2~3便運行し、定時定路線(2コース)を循環(ループ)で運行する。ドライバーは京急文庫タクシーの現役タクシードライバー。乗車運賃は無料、乗車・降車は設定された停留所で行う。利用は、事前登録したモニターに限定(富岡第1・3地区在住)している。

京急文庫タクシーという会社のドライバーが運転するってところで、気づいた人も多いかもしれない。このプロジェクトは、京急電鉄と横浜国立大学による「産学連携の協力推進に係る協定」と、横浜市と京急電鉄の「京急沿線(横浜市南部地域)における公民連携のまちづくりの推進に関する連携協定」というふたつの協定にもとづいて動き出した実験。

試乗で衝撃、えらい! がんばれ! 怖い!

坂道の多い京急富岡駅エリアで始まった電動小型低速車実証実験坂道の多い京急富岡駅エリアで始まった電動小型低速車実証実験
まずこの日立製ゴルフカートベースの「電動小型低速車」のスペックをみる。運転は、通常のゴルフカートとかわらない。アクセルとブレーキで前後進し、ハンドル操作で右左折。積載人数は4名(運転手含む)、最高スピード19km/h、登降坂角度20度。この登坂角度20度がポイント。「コースのなかには、最も急な勾配で13%、7.4度が点在する」(横国大)というから、この20度の登坂性がないと立ち行かない。

「このゴルフカートをベースに選んだ理由は、登坂力に優れ、小型。急な坂道や狭い道路で運行できる。路線バスに比べて開放的で乗降がかんたん。電気自動車で低騒音。住環境への影響が少ない、環境にやさしい」(横国大)

そんな前置きを頭に入れながら、試乗してみると……、これがインパクト大。「早く本格導入、普及したほうがいい」と思ってしまう。なにせ、山頂付近に家を構える人にとっては、駅からすでになだらかな坂道が始まり、この小学校付近から急坂に次ぐ急坂。高齢者は歩いてたどりつけなさそうなレベル。

そこをEVカートが、非力な表情を見せながらも、ぐんぐん登っていく。思わず「がんばれがんばれ」とにぎりこぶしに。狭い道でも、サイズが小さいから、後ろからめいっぱいアクセルを踏んで登っていくガソリン車を先に行かせることもできる。そして怖いのが、下り坂。

このEVカートには、回生ブレーキがついている。この回生ブレーキが日産『リーフ』e-ペダルさながら、ブレーキペダルを踏まずに下れるほどよく効くんだけど、そのあとが怖い。なんの前触れもなく回生ブレーキが解除されて、ほぼニュートラルの状態で滑走し始める。それも、突然。急にだ。

「このあたりは慣れないと、難しいかもね」と話すのは、京急文庫タクシーの60代後半のドライバー。会社にはEVタクシーは保有してないというのに、「EV初めてだけど、運転が好きだからね。こういうクルマを経験できて楽しいよ」と笑っていた。

課題は規制クリアとビジネス化

坂道の多い京急富岡駅エリアで始まった電動小型低速車実証実験坂道の多い京急富岡駅エリアで始まった電動小型低速車実証実験
坂道を登るEVカートを見つめながら「こうした実験でもっとも大きいハードルは、国や省、自治体、地域にそれぞれある規制」と話すのは、横浜国立大学のスタッフ。

「まずゴルフカートのナンバー(今回は軽自動車ナンバー)を取得するのにハードルがある。それからバリアフリー法、国交省の規制、厚労省の規制、各自治体の規制、いろいろある」

「それから、普及させるためには『どう収益を上げるか』も課題。こうしたモビリティ事業は、なかなかビジネスモデルが成り立たない。いまは無料にしてるけど、仮に運賃を設定したところで、運転手の賃金にも満たない収入になる。そうなると、運転手にはインセンティブとかクーポンとか、地域通貨とか、そうした対価でバランスを取らなければならないだろう」

この実証実験は、石川県輪島市の実証実験なども手がける交通エコロジー・モビリティ財団の企画募集に京急電鉄が採択されたケースでもある。京急は、沿線あちこちに点在するこうした丘陵地帯の新たな脚として、いろいろ試しているというわけ。「少子高齢化で、沿線価値を維持するためには、駅からの自宅までの二次交通をどう確保していくかが課題」という。

「本格的に稼働させるにはハードルがまだまだ高い」と伝えながらも、チームはひとつの手応えを感じている。「こうした地域に特化したモビリティは、できるだけコンパクトなほうがいい。国や自治体の規制があまり介入しない、コンパクトなエリアで、地域の人たちとコミュニケーションを図りながらすすめていけば、実現可能だと思っている」と。

《レスポンス編集部》

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