ポルシェの現役デザイナーが語る、ポルシェ車のデザインの秘密

山下周一氏
山下周一氏全 9 枚

ポルシェでデザイナーを務める山下周一氏の講演が11月末、富山大学で開催された。またこれに合わせ、カーデザインにまつわるパネルディスカッション、そしてデザイン学生向けのワークショップもおこなわれた。

このイベントは11月29日に高岡キャンパスで開催。富山大学芸術文化学部の内田和美教授は、以前にマツダやVWのほかスティーレ・ポルシェ(ポルシェのデザイン部門)でデザイナーとして働き、ポルシェ車をデザインしていたことがあり、以前から山下氏とは親交があったという縁で実現したもの。内田教授は現在プロダクトデザイン、トランスポーテーションデザインを教えている。

山下氏の講演は「ポルシェデザインについて」というタイトル。自動車メーカーとしてのポルシェのデザイン部門とポルシェデザイン社は別組織だが、ここでは当然ながらスティーレ・ポルシェでの「ポルシェ車のデザイン」のことを指す。デザインにとどまらず、ワークスタイルなども紹介された。

ポルシェのデザイン開発プロジェクトでは、採用案のデザイナーが最後まで責任を持つという。初期に各デザイナーがスケッチを描き、コンペ形式で選ぶのは他社と同じ。ただし選ばれたスケッチが新人デザイナーの場合であっても、本人が商品化を見届けるまで責任者を務めるのだとか。

スティーレ・ポルシェはエクステリア、インテリア、カラー&トリムそしてアドバンスという4部署で構成されているが、エクステリアには「ライティング」そして「グレーゾーン」という担当領域があるとか。ライティングは灯火類、グレーゾーンというのはインテリアやエンジンルームをはじめとしたボディ内部との境界を指すのだという。インテリアにも「UI」、「グラフィック」という担当領域がある。UIとは言うまでもなく「ユーザー・インターフェイス」のことだ。

また「ポルシェ車はなぜ、どれもポルシェに見えるのか?」というテーマで、ポルシェ車のスタイリング手法を紹介した。まずポルシェ車はすべてスポーツカーであり、『911』をルーツとする「デザインDNA」が備わっていると説明。

そして「まず大切なのはプロポーション」だという。デザインディレクターのミヒャエル・マウアーは、常に「クルマをデザインするときに大切なことが3つある。1にプロポーション、2にプロポーション。そして3つめにプロポーションだ」と言っているとか。

このほか、側面から見たときの流麗なルーフラインとスポーティかつエレガントなサイドウィンドウのグラフィック。上面から見下ろした際の、フードよりも高くアーチを描くフロントフェンダーやV字を描くフードの見切り線、弧を描くダイナミックなノーズ先端。絞り込まれたキャビンと、それによって生まれる力強いリアフェンダーなどが、ポルシェのデザインDNAだという。これらの要素と、進化の歴史やレースの歴史等を集約したところに、時間を超えた「タイムレス・スタイル」が生まれるとのこと。

ちなみにポルシェでは社員同士の交流も盛んで、誕生日パーティも社内で開催するのだとか。ただしパーティの企画や買い出し、告知といった準備は、誕生日を迎える本人がやらなければならないという。日本で働く日本人からするとなんとも不思議な風習ではあるが、コミュニケーションを通じて「人を知る」には、よい機会なのだろう。

またデザイン学生のポートフォリオは世界中から送られ、常にインターンシップ生がデザインルームでいっしょに仕事しているという。しかし日本から届いたポートフォリオは見たことがないとか。「ポルシェをデザインしてみたいと思う人は、ぜひ応募してみてほしい」とのことだ。

講演の後は、北陸に縁のあるデザイン関係者を迎え、「カーデザインの未来について」という題でパネルディスカッションがおこなわれた。メンバーは山下氏と内田教授、富山県総合デザインセンターの岡雄一郎氏、クリエイティブボックスの杉谷昌保デザインプログラムマネージャーの4名。クリエイティブボックスは日産のデザイン・サテライトスタジオで、富山県総合デザインセンターには日産デザイン部の分室がある。

まず「これからクルマはどうなるの?」というテーマでは「ヨーロッパはインフラの問題はあるが、これからは確実にEV」という山下氏の発言から、EVの話題が展開。杉谷マネージャーは日産『リーフ』で日本一周した経験から「これからのものづくりはUX(ユーザー・エクスペリエンス)が重要。エンジン音がないおかげで川のせせらぎや鳥のはばたく音が聴こえ、こういう感動もあるんだと思った」という。

これを受け、エクスペリエンス(体験)という切り口では「自動車はトラックからスポーツカーまで、多様性のあるプロダクト。だから今後はさらに細分化され、多様性が深まってゆくのでは。地方ごとにそれぞれの実情に合わせた文化が育ち、おもしろいプロダクトがいろいろなカテゴリーから出てくるようになると考えている」と岡氏。内田教授は「いまやメーカーは作って終わりではなく、買ってもらい、使ってもらってからが勝負。焦点はユーザーとどう関わっていくか、ということにシフトしている」と語った。

続く「クルマとデザインの未来」というテーマでは「日産では、日本の工芸職人の志を感じ取り、クルマに昇華させるとどうなるかということをトライしている」と杉谷マネージャー。このほか「クルマは、移動する機能だけでいいなら箱でいい。でもわざわざ手間をかけて造形している。工芸品としての価値を持っている」(内田教授)

「デザイン開発にコンピュータを使っていても、ポルシェでは必ずクレイモデルを作って人の手を入れる。画面で見たものと実際に触ってみたものでは違う。だから人の手で触れて感じるというのは、これからもずっと大事なこと」(山下氏)、「CG技術が発達しすぎたせいか、実際のプロダクトに落とし込めないデザインを提案する若手デザイナーが増えている。だからフィジカルなモックアップで人の手を加えるというプロセスは必須」(岡氏)といった意見が出された。

なお翌30日には、デザイン学生を対象としたワークショップを開催。課題は「2040年のポルシェ911をデザインする」というもので、山下氏が指導教官を務めた。これには北陸の大学を中心に18名が参加したが、なかには東京から駆けつけた学生もいたという。

《古庄 速人》

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