フィジーにあふれる日本車が次々と放置車両に…当事者なき問題の「なぜ」【藤井真治のフォーカス・オン】

日本から輸出された中古車の放置車両問題が顕在化

現地政府は予算もなく対策を取れない現状

最大の中古車輸出国の日本として対策が必要では

フィジーを走るトヨタクラウン。日本から中古車として輸入されたものだ
フィジーを走るトヨタクラウン。日本から中古車として輸入されたものだ全 3 枚

フィジーにあふれる日本車

南太平洋のリゾート地フィジー。300余の火山島と珊瑚礁からなる人口85万人の国。美しい海と素晴らしい自然。日本から直行便もでき日本人観光客でにぎわう。

ナンディ空港を出ると真っ先に目にとまるのが日本車の数々。広い道路には東京からそのまま走ってきたような黄色いタクシーや『クラウン』や『カローラ・フィールダー』。まさに日本車、特にトヨタ車のオンパレードだ。

この日本車、観光客を送迎する『ハイエース』や『コースター』などのビジネス車や、『ランクル70』などはフィジーのトヨタ正規販売店が輸入し保証付きで販売しているモデルだが、ほかのモデルは日本からフィジーの正規販売店を経ずに輸入販売されている中古車や新古車。新車が年間3000台に対し、中古車は多い時で年間1万台が輸入販売されている。1対3の圧倒的中古車優位の自動車市場なのである。

美しい観光地の景観と環境にダメージを与える日本の中古車

そのメイドインジャパンの中古車や新古車。美しい観光地で現在問題になりそうなのが、放置車両だ。修理ができなくなった車両が美しい島のあちこちに無残にも放置されているのだ。小高い丘や谷など数十台単位で放置されたクルマは観光地の景観を乱しているだけでなく、環境へも著しい悪影響を与えている。

京都大学・塩地教授の調査によれば、この放置車両は不法に投棄されているクルマというよりは使用済み車両が解体され部品取りをした後の廃車ガラが多く、問題はスクラップ市場や中古部品市場が小さすぎて、解体や中古部品剥ぎ取りをしても儲からないことが原因となっているようだ。

フィジー政府としては現在のところ当事者意識はない。国家予算も充分でないため対策をとる余裕もない。このままいけば美しい観光地は近いうちにメイド・イン・ジャパン放置車両であふれているかもしれない。

販売サイドもだれも当事者はいない

中古車が新車の3倍も売れる理由は簡単。「安いから」だ。フィジーのような購買力が弱く公共輸送機関の乏しい国では新車よりも安い中古車の顧客が多い。安価でブランドイメージもいい日本の中古車は大変評判がよく、その評判をバックに日本の輸出業者はせっせと輸出し現地の輸入業者も大喜びだ。百物百価の中古車や新古車は目新しい「出物」がどんどん輸入されるので、中古車ビジネスは楽しくてしょうがないと言えよう。

一方新車の正規販売。そもそもメーカーサイドは市場の小さな国には関心がなく、その国の環境に適したモデルとして正式導入しているモデルの品揃えは大変少ない。輸出や販売店管理を商社に丸投げしている。地元の正規販売店も無理をして安い新車を売る必要もなく、高付加化価値商品の少量販売で気持ちよくビジネスをしている。

なぜ日本車の中古車は放置車両になりやすいか

放置された中古車。その多くが非正規で日本から輸出されたものだという
放置車両を見るとほとんどが、正規輸入されたモデルではなく中古車としてフィジーに輸入されたものだ。中にはまだ修理すれば乗れそうなクルマもある。正規代理店が輸入し販売したモデルは経年車でもサービス体制や補給部品の供給がしっかりしており、何年も使用される。まとまった台数で同一モデルが保有されているため市中の整備業者の整備・修理可能だ。正規輸入され販売されるモデルは古くなっても大事に使われ最後まで寿命を全うする仕組みがある。

ところが日本から正規代理店を経ずに輸入される中古車や新古車は、1台ずつ異なるモデルやスペック。正規代理店でも修理ができない。アフターサービスパーツもないため動かなくなると修理は困難になる。フィジーで放置車両問題が発生する構造的な問題はここにある。

しかしながら、新車ディーラーも中古車輸出入業者も現在の状態で販売業はハッピー。中古車のユーザーも購入時は大変ハッピー。修理できなくなったとしても「中古車はこんなもの」であきらめ、ある意味放置車両の当事者はどこにもいない。

解決策はあるのか?

日本の厳しい車検制度。クルマを大事に使う国民性。新車が1年で半分の値段に落ちてしまう中古車相場。日本は世界一安い良質の中古車を供給できる国である。そのうえ「新車の販売を伸ばすにはクルマを早く捨てさせる」という基本コンセンサスが業界や関係官庁にはあるようで、中古車輸出にさらにドライブがかかる。

フィジーだけでなく太平洋嶼島国全体で起きているこのメイドインジャパンの放置車両問題。世界各国の途上国でも起こっている事が懸念される。モンゴルなどハイブリッド車の中古車が大量に輸出されている国では、リチウム電池の環境問題も懸念されちょっと恐ろしいものがある。

自動運転やMaaSに浮かれ未来に向けての莫大なリソースを投入しているメーカー。それを後押しする日本の政府。太平洋嶼島国の車両放置問題など関心事ではない。当事者のいない「今ここにある問題」は今後どうなるのであろうか?
フィジーの風景フィジーの風景

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《藤井真治》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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