【三菱 ミラージュ 40年】前編…先端志向の車作りを伝える[写真追加]

ミラージュ1400GLX(1978年)
ミラージュ1400GLX(1978年)全 30 枚

三菱自動車のコンパクトカー『ミラージュ』の初代モデルが発売されたのは1978年。今年はそれから40周年にあたる。

それにともなう記念モデル等の発売はなく、また今年50周年を迎えたミニバン『デリカ』のような特設サイトも作られていない。古いファンにとっては寂しい限りであろうが、その数奇な歴史は「世界初、最低でも日本初が入っていなければ新型車とは言えない」(故・中村裕一元社長)というかつての三菱自動車の先端志向ぶりを今に伝えるものだ。2018年も最後の月となった今、その歴史を簡単に振り返ってみたい。

航空機技術者が歴代社長を務めた

三菱グループのクルマづくりの歴史は古く、三菱重工業の前身である三菱造船が大正時代に販売台数わずか12台ながら「A型」と名づけた日本最古の純国産乗用車を作っている。三菱自動車は1970年に三菱重工から分離独立したが、そのA型に始まる自動車事業を受け継いだのが名古屋航空機製作所であったことから、三菱自は航空機閥の系譜に連なっている。
零式艦上戦闘機 (c) Getty Images零式艦上戦闘機 (c) Getty Images

速度性能の高さで知られた陸軍の「百式司令部偵察機」を作った久保富夫氏、「零式艦上戦闘機」の開発チームの中心的スタッフで、後に旅客機「YS-11」の設計でも重要な役割を果たした東条輝雄氏、終戦時、未完の制空戦闘機「烈風」の開発を指揮していた曽根嘉年氏ら、航空機技術者が歴代社長を務めた。これが良い面では徹底した技術志向、悪い面では航空機開発にありがちなガチガチの縦型組織という三菱自の社風の源流になっている。

ミラージュはそんな三菱自が、日本のみならず世界市場で存在感を上げようとして生み出した意欲作だった。当時、三菱自のクルマは軽自動車の『ミニカ』に至るまでRWD(後輪駆動)だったのに対し、ミラージュは第1世代からエンジン横置きのFWD(前輪駆動)。ドアやボンネットの隙間を徹底的に詰めた空力ボディを開発し、「1リットルのガソリンでより遠く、より速く」を追求。また、「いつでも、いつまでも、安全に快適に」をスローガンに、耐久性ナンバーワンを目指した。
ミラージュ(1978年)ミラージュ1400GLS(1978年)

第1世代(1978年~)……世界戦略モデル

フォルクスワーゲン『ゴルフ』と同じ、欧州Cセグメントクラスの世界戦略モデルとしてデビュー。当初は3ドアハッチバックのみであったが、80年に5ドア、82年には4ドアセダンが追加設定された。

三菱自の先進志向はこの第1世代でも随所にみられた。前述のように、ボディの隙間を当時の日本メーカーの技術力では限界と言えるほどに小さくし、空気抵抗を削減。サスペンションは前ストラット、後フルトレーリングアームの4輪独立懸架として乗り心地の向上を目指した。また、全車のフロントサスペンションにスタビライザーを装備。エンジンパワーの大きなGTはリアサスペンションにもスタビライザーを装備した。
ミラージュ(1982年)ミラージュ1400 ター ボ(1982年)

82年には巡航時など負荷が軽い時に4気筒のうち2気筒の吸排気バルブを閉じたままにしてポンピングロスを低減する気筒休止エンジンを採用。また、同年ターボエンジンが追加されたが、排気タービンは車体、エンジン以上に耐久性を持たせるべきという考え方から、軸受けにチタニウムを使うという念の入れようだった。

先進性とはちょっと方向性が異なるが、独自性があったのは変速機。当時、三菱自のエンジンはRWD用に設計されており、エンジンの回転方向が通常のFWDとは逆であったため、車軸との間に反転ギアを噛ませる必要があった。それを逆手に取り、開発陣は4速MTに副変速機を追加し、加速重視の低ギア比と燃費重視の高ギア比を簡単に切り替えられるようにした。走り屋に人気を博したトヨタ自動車のAE86型『カローラレビン/スプリンタートレノ』の前期型では加速重視、燃費重視の2種類のファイナルギアが用意され、買うときに選択するようになっていたが、それを1台で切り替えられるようなものであった。
ミラージュ(1983年)ミラージュ1500CX-S(1983年)

第2世代(1983年~)……ワイドバリエーション、乗用AWDの歴史の起点

第1世代のプラットフォームを流用し、コンセプトをキープする形でデビュー。広い窓面積を持つ空力フォルムを継承しながら、ホイールベースを延長し、室内スペースを広げた。85年、ハッチバック、セダンに続く第3のボディとしてステーションワゴンが追加され、当時のコンパクトカーとしてはかなりのワイドバリエーションとなった。エンジンは気筒休止システムつき、ターボ過給に加え、ターボディーゼルが登場した。
ミラージュワゴン(1985年)ミラージュワゴン1500CX(1985年)

このステーションワゴンはルーフが途中から高くなるセミハイルーフで、抜群の積載力を誇った。翌86年にはそのワゴンにべベルギア式センターデフを使った常時4輪駆動システムを採用。これは80年にアウディが世界ラリー選手権マシンのベースモデルとして出した『クワトロ』で世界初採用された常時4輪駆動方式。日本初の乗用常時4輪駆動はプラネタリーギア式センターデフ+デフロック機構のマツダ『ファミリア』に取られたが、スバルと並んで世界屈指の雪道、悪路走破性を持つと評される三菱自の乗用AWDの歴史の起点はここだ。

1985年にはこのミラージュを使ったワンメイクレース「ミラージュカップ」が発開催された。1998年まで続いたこのレースはレーサー志望者の登竜門のひとつともなったことから、懐かしく思われる人も多いことだろう。
【三菱 ミラージュ 40年】後編…バブル、バブル崩壊、ディスコンからAクラスに

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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