【日産 ノートe-POWER 3500km試乗】磨き抜いた直進性が生んだいくつかの副産物[前編]

日産『ノート e-POWER メダリスト』のフロントビュー。きわめてオーソドックスにデザインされている。
日産『ノート e-POWER メダリスト』のフロントビュー。きわめてオーソドックスにデザインされている。全 28 枚

ノートe-POWERの長所と短所は

日産自動車のBセグメントサブコンパクトクラスのエコカー『ノートe-POWER』で3500kmあまりドライブする機会があったので、リポートをお届けする。

ノートは日産の基幹車種のひとつで、2代目の現行モデルが発売されたのは2012年。国産ライバルのホンダ『フィット』やトヨタ『アクア』『ヴィッツ』などの陰に隠れた地味な存在であったが、2016年にエンジンを発電専用とし、電気モーターの駆動力だけで走るシリーズハイブリッドパワートレインを搭載したノートe-POWERを追加したところ、一躍大ブレイク。EVを除き長らく本格エコカーを出せなかった日産の反攻一発目としては、上々の滑り出しとなった。

テストドライブ車両は最上級グレードの「メダリスト」。バブル時代のDセグメントセダン『ローレル』の高級グレードに使われていた名称で、ノスタルジーを覚える人も多いことだろう。前車追従クルーズコントロールや本革巻ステアリング、上級内装材などの充実装備を持ち、さらに遮音性も他のグレードに比べて高められているという。オプションでカーナビが装備されていた。

ドライブルートは東京~鹿児島間で総走行距離は3530.0km。往路は山陰、復路は山陽ルートをチョイス。九州内では復路に約200kmにわたって断続的にワインディングロードが続く九州山地の深山コースを取ってみた。おおまかな道路比率は市街地3、郊外路4、高速2、山岳路1。路面コンディションは途中ウェットもあったが、おおむね天候に恵まれたためドライが多かった。

では、ロングドライブを通じて感じたノートe-POWERの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1.国産Bセグメントサブコンパクトの中では飛び抜けて優れる高速直進性。
2.アンダーステアは強いが、旋回時の安定性が高く、初心者にも扱いやすい。
3.スムーズかつ力感豊かなシリーズハイブリッドシステム。
4.風切り音、パワートレインからのノイズが非常に小さい。
5.前席、後席ともスペースはたっぷりしている。

■短所
1.エコランをすると伸びるがe-POWERの気持ちよさを味わいながら走ると落ちる燃費。
2.不整路面における乗り心地の低下幅が大きめ。
3.車重に対してタイヤがプア。
4.居住区が広い分、ラゲッジスペースはワリを食ってやや狭い。
5.ハイブリッドであることを勘案しても価格が少々お高い。

改良が大きく効いている

出雲の内陸部にて記念撮影。出雲の内陸部にて記念撮影。
筆者がノートe-POWERに乗るのは、デビュー当初のショートドライブ以来。現行ノートは新興国モデル向けの低コストプラットフォームで作られており、シャシーのポテンシャルには自ずと限界がある。そのためか、当時の印象としては、シリーズハイブリッドであることと人間の居住区が広いこと以外、乗り心地といい安定性といい、取り柄を探すのが難しいというのが率直な印象だった。

そんなノートe-POWERで長距離ドライブをしてみようと思ったのは純粋にエコ性能に期待してのことだったのだが、乗ってみるとデビュー当初に比べてさまざまな部分のチューニングが長足の進化を遂げており、当初の期待値を大幅に超えて楽しいツーリングとなった。

とくに驚かされたのは高速直進性で、新東名の最も速い流れに乗ってクルーズするのもノーストレスであった。そのぶんアンダーステアは強いが、ステアリングをこじればグリップは結構きっちりついてくるので、かなり険しいワインディングでも速くはなくとも安全に、信頼感を持って走れた。運転技量への依存度が低く、誰でも安心して走れるという方向性の味付けである。

クルマのコントロールに神経を尖らせなくていいというのは、人間工学設計と同じか、それ以上にロングドライブ時の疲労軽減に効く。ノートはあくまで近距離用のファミリーカーであり、極端なロングドライブに主眼を置いた設計、仕様ではないし、本格ツアラーとして優れいているというわけでもない。が、せっかくファミリーカーを持っているのだから、時にはそのクルマで気ままに、はるか遠くへお出かけしたい――というユーザーの願望に十分応えられるだけのテイストになったのは大きい。何の気なしにモノを買ったら思わぬ嬉しいおまけがついてきたようなものだ。ノートe-POWERは昨年に一度改良を受けているが、その改良幅は案外大きかったようだ。

磨き抜いた直進性が生んだ副産物

前席。ボタン類は少なく、すっきりとまとめられている。前席。ボタン類は少なく、すっきりとまとめられている。
では、細部について見ていこう。まずはロングツーリングを性能的に担保するシャシーについて。先に述べたように、現行ノートはルノー『クリオ(日本名ルーテシア)』と共通だった旧モデルよりスペック的に一段落ちる新興国向けプラットフォームを使って作られている。その能力を超えて、乗り心地、旋回性、直進性など、何でもかんでも良くするということはできない。

その項目の中で、これは明らかに力が入れられているなと如実に感じられたのが直進性であった。どういうフィールかというと、数百メートル先の目標に向かって吸い寄せられるように走るようなイメージである。そういうクルマは自然と走行ラインが道路に見えるように感じられ、チョロチョロすることがない。国産の同格のライバルの中では間違いなくトップで、世界の強豪と比較してもランクはかなり上に位置するであろう。

直進性を磨き抜いたことが生んだ思わぬ副産物は、ワインディングロードでの安心感だった。ノートe-POWERは曲がりの得意なパッケージング、仕様では本来ない。実際に走ってみてもアンダーステアがかなり強い。ところが、直進フィールが手応えとしてきっちり伝わってくるチューンがなされているため、それが目安となってアンダーなりにどういう速度で進入し、どのくらいブレーキをかけつつどのくらいハンドルを回せばいいかという予測は大変立てやすい。

また、アンダーステアであってもそこからステアリングをこじってやればグリップは結構ついてきて、破綻することがなかった。普段あまり運転しないドライバーが不慣れな山道を走ってもあまり不安感を覚えずにすむであろうチューニングだった。

乗り心地にネガティブな面も

タイヤはブリヂストン「B250」で、サイズは185/65R15。山岳路では車重に対して能力がやや不足しているため、エア圧を高めて使うといい。タイヤはブリヂストン「B250」で、サイズは185/65R15。山岳路では車重に対して能力がやや不足しているため、エア圧を高めて使うといい。
ネガティブな面はハンドリングではなく、乗り心地のほうにある。もちろん街の中をちょっと走るくらいなら何の問題もないし、建設年代が新しく路面の綺麗な高速道路でも、車格を考えれば十分に納得できるレベルである。苦手なのは高速、一般道を問わず、老朽化で舗装がガタガタになったような道路や、ピークの鋭い継ぎ目、段差など。

ただし、どんな悪い道でも一様に乗り心地が悪化するかというとそうでもなく、たとえば奈良と三重を結ぶ、路面がてきめんに荒れた名阪国道ではそれほど悪くなかった。アンジュレーション(路面のうねり)を伴う荒れなど、ホイールの振幅が大きくなると揺すられ感や突き上げが強くなる傾向が強く、ザラザラ系の荒れについてはそれほど悪くないと言える。

また、これもあくまで感触からの類推だが、前サスペンションまわりのボディ強度はそれほど高くないとみえて、左右サスペンションにバラバラに路面の凹凸の入力があると、若干ボディやステアリングシャフトがわななく傾向があった。

直進性の良さが疲労感の低減にも

宮崎・西米良村の木造橋、かりこぼうず大橋にて。宮崎・西米良村の木造橋、かりこぼうず大橋にて。
ツーリングを支援してくれる運転支援システムについて。日産と言えばミニバン『セレナ』やEV『リーフ』に装備されているステアリング介入型の「プロパイロット」のイメージが強いが、ノートe-POWERの運転支援システムはステアリング介入はなし。ただし、クルーズコントロールは前車追従型で、少々疲れがたまってきたときのクルーズ時には重宝した。

カメラによる車線認識の精度はトップランナーではないが、これまた十分に使い物にはなった。ヘッドランプはハイ/ロービームを自動切換えしてくれるタイプであったが、誤判断は少なく、夜間ドライブを安心なものにした。

ロングドライブ時の疲労感については、身体的な疲労の蓄積はそれなりにある一方、神経的な疲労の蓄積は非常に少なかった。身体的な疲労ややや強めなのはおそらく、老朽化路線で縦方向の揺動きが強めに出ることと、テレスコピックステアリングが装備されておらず、ドライビングポジションの決まりが若干悪かったことに起因するものと推察された。

神経的な疲労が低めだった要因として考えられるのは何はともあれ、直進性の良さによってクルーズ時に微修正がほとんど必要なかったこと。また視界のひらけ方が良く、視線移動が少なくてすんだこともプラスに作用したのではないかと思われた。

後編ではe-POWERのパフォーマンスや居住感、使い勝手などについて述べる。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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