【ホンダ シビックハッチバック 750km試乗】ひとことで言えば、動的質感の一点豪華主義

ホンダ シビックハッチバック 新型
ホンダ シビックハッチバック 新型全 30 枚

ホンダのCセグメントコンパクト『シビックハッチバック』で約750kmツーリングする機会があったので、インプレッションをリポートする。

シビックハッチバックの長所と短所

5ドアボディの現行シビックハッチバックが発売されたのは2017年9月。同時に発売されたセダンが日本製であるのに対して、このハッチバックはイギリス製。本国ではおとなしいモデルも発売されているが、日本に入ってくるのは最もスポーティな仕様のみである。

エンジンはセダンと同じ1.5リットル直噴ガソリンターボだが、最高出力は182psとより強力。使用燃料もプレミアムガソリンである。変速機は6速MTとCVTがあり、テストドライブした車両はCVTであった。ドライブルートは東京を起点とした北関東周遊で、おおまかな道路比率は市街地3、郊外路4、高速1、山岳路2。1~2名乗車、エアコンAUTO。

まず、試乗を通じて感じたシビックハッチバックの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1.素晴らしいタイヤのセレクトと、それを存分に生かすシャシーチューニング。
2.必要十分な力感の1.5リットルターボと切れ味の良いCVT。
3.コーナリング時にアンジュレーションで煽られてもびくともしない強固なボディ。
4.精度感の高いサスペンションが生む、固めながら気持ちよい乗り心地。
5.奥行きがあり、案外使いやすいラゲッジ。後席もそこそこ広い。

■短所
1.高い動的質感を持った大人のスポーツという性格と子供っぽい外観がミスマッチ。
2.燃費はそこそこ良いが、プレミアムガソリン仕様のため若干ガソリン代がかさむ。
3.シートバック、とくにショルダー部のホールド性が低い。
4.メカニカルノイズは効果的に抑えられているがロードノイズがいささか過大。
5.極太タイヤを履くため小回りがきかない。

動的質感の一点豪華主義モデル

デザインはちょっとキッチュ、ギミックが多い。デザインはちょっとキッチュ、ギミックが多い。
シビックハッチバックの性格を一言で表すと、「動的質感の一点豪華主義モデル」とでもなろうか。走りの性能は本物だ。235/40R18タイヤをきっちり路面に圧着させるシャシーのおかげで絶対的なコーナリング速度も恐ろしいくらい高いのだが、それだけではない。タイヤの粘性とサスペンションのストローク、ステアリングシャフトの捩れが一体化したようにスムーズな操舵フィールは、100万円高いCセグメントのスペシャルメイドモデルと比べてもそん色ないように感じられた。

こういう味付けができているクルマは飛ばさずのんびり走っても運転に高揚感を覚えられる傾向がある。今回のドライブ距離は750kmと、それほど長くはなかったが、1000km、2000kmと足を伸ばしてもドライビングそのものを楽しみ続けることができるのではないかと推察された。高性能タイヤを履きこなすためサスペンションは固いが、動作の精度感が高いため、固いなりに乗り心地も良好。まさに大人のスポーティハッチである。

動的質感でこれだけの良さを表現していながら、クルマの情感的な仕立てについては少々弱い。車内の仕立てはプラスチッキーでデザイン的にも見るべきところはないし、エクステリアも好みの問題はともかく、リアの網目状の樹脂部品をはじめ機能とは関係ないギミックだらけである。

外装の細部を見ると、いかにも空力制御に効きそうな形状のディフューザーが装着されていたり、ボディ形状自体に工夫が凝らされていたりと、本物志向の部分も少なくないのだが、ギミックが多すぎるせいで本物の部分までニセモノに見える。端的に言えばモロにアメリカ流ということなのだが、その姿からは大人のスポーツという走りのテイストはちょっと連想しがたい。

ホンダ独自の表現プロトコルはあってもいいからもう少しシックな装いであったら、クルマへの好感度は上がるのではないかと、ちょっともったいなく思えた。

やんちゃな外観とは真逆のしっとり丁寧な乗り味

タイヤはグッドイヤー「イーグルF1 アシンメトリック2」。素晴らしい柔軟性であった。タイヤはグッドイヤー「イーグルF1 アシンメトリック2」。素晴らしい柔軟性であった。
では、要素別にもう少し細かく見ていこう。まずはシャシー・ボディから。やんちゃな外観からは、ちょっとステアリングを切るとガーンとヨー(鼻先が横を向こうとする動き)が立ち上がり、コーナリング中もドーンと横Gがかかるといったやんちゃな味付けが連想されるが、実際に乗ってみた印象は真逆で、絶対性能の高さとしっとりとした過渡特性が見事に両立させられていた。

その中身だが、まずグッドイヤー社製「EAGLE F1 ASYMMETRIC 2」というタイヤの選択が素晴らしかった。イーグルF1アシンメトリック(非対称)の最新モデル「3」に対して1世代型落ちであるものの、サイドウォールの柔軟性、トレッド面の剛性、突起物を踏んだ時のしなやかな包み込みなど、性能項目全般について優れていた。

最近、イーグルF1を履いたモデルに乗る機会にとんと恵まれなかったが、いい味わいのタイヤを作っているんだなと感銘を覚えた。235/40ZR18というサイズが生むグリップ力は1.3トン台のボディに対して余りあるほどで、絶対性能はもちろん十二分。

そのタイヤの資質を生かすシャシーチューニングがこれまた丁寧だった。ステアリングを操作してからクルマが針路を変えはじめるまでの微小な領域が実にしっとりとした手応え。横Gがかかってねじれたタイヤが元に戻ろうとする様子がステアリングホイールを介して手のひらに伝わってくる。直進も旋回もその感触と対話しながらこなすような感じである。

日本勢のCセグメントの白眉と言える味付け

前席。スペース的には不満はないが、シートのホールド性はあまり良くなかった。前席。スペース的には不満はないが、シートのホールド性はあまり良くなかった。
今回のドライブでは榛名山、赤城山と、2つの北関東の山を巡ってみたが、延べ100kmをゆうに超える距離のワインディングロードを走っても、クルマとの豊かな対話性ゆえに楽しさこそあれ、ストレスを感じることは皆無だった。また、高速道路や郊外道のクルーズも退屈ではなく、何となく気分が上がるフィールであった。

最近のホンダ車でハンドリングが優れていると感じられたモデルとして強く記憶に残っているのは、ミニバンとハッチバックの中間的性格の『ジェイドRS』。ロール角とステアリングの反力をピタリと合わせた精緻なチューニングではそちらが優れているが、タイヤの接地感との対話性という点ではシビックハッチバックのほうが優れている。コンフォート系のスバル『XV』とともに、日本勢のCセグメントの白眉と言える味付けである。

ロール剛性の高いサスペンションセッティングゆえ、乗り心地は固いが、不快ではない。固いなりにサスペンションがよく動き、ハーシュネスカットもハイレベル。上下に揺すられたときの収まりもうまくまとめられていた。デートドライブでも女の子から苦情が出るような局面はまずなかろう。ロードノイズは大きめだが、235サイズのハイグリップタイヤを履いていることを思えば、これまた上手く抑えこんでいるほうだ。

惜しまれるのは、シャシー性能の高さに対してシートのホールド性が不足していること。とくにショルダーからわき腹にかけての上半身ホールドは弱い。重量1.3トン台で、重心もかなり低められている感じの車体にハイグリップタイヤを履いているシビックハッチバックは、普通に運転しているつもりでも自然と高Gが身体にかかりやすい。それだけにホールド感不足が意識される局面は多く、もうちょっとシートバックの形状を工夫できなかったのかと思った次第だった。

必要十分なパワーと、燃費性能

エンジンルームはぎっしり。エンジンルームはぎっしり。
最高出力182psの1.5リットルターボエンジンは、切れ味の良い回転上がりなどスポーティなフィールはないものの、性能自体は十分に高く、公道ではスピード不足を感じさせられるようなことはない。組み合わされるCVTは前述のジェイドRS時代よりもレスポンスが明らかに高められており、またスロットル開度が大きいときには擬似的に有段変速するような制御も組み込まれていた。

車速が増すにつれてエンジン回転数をリニアに上げていくような粘りもまずまず好印象だった――のだが、欧州モデルの1.6リットルターボディーゼルには9速ATが搭載されており、それとの組み合わせだとどんなフィールかななどと想像したりもした。

実測燃費は東京・葛飾を出発し、群馬の榛名山を巡ってから栃木の宇都宮郊外までハイペースで走った316.8km区間が14.1km/リットル。そこから赤城山に引き返し、茨城の古河を経由して葛飾に戻るまで少しのんびり気味に走った371.1km区間が15.5km/リットル。レギュラーガソリンのリサーチオクタン価が95の欧州モデルゆえ、日本ではプレミアムガソリンが要求されるのがちょっと痛い。

燃費スコア自体も最高出力が182psとハイチューンなぶん、フォルクスワーゲン『ゴルフ』の1.4リットルターボやボルボ『V40』の1.5リットルターボと比較すると1ないし2割落ちというのが実感だったが、スポーティモデルとしてみればこれだけ走れば御の字とも言える。

ロングボディが実用性に効いている

この角度から見ると、奥行きにかなり余裕があることがわかる。この角度から見ると、奥行きにかなり余裕があることがわかる。
このように、走りに振った感の強いシビックハッチバックだが、全長が通常のCセグメントよりはるかに長い4520mmもあるため、実用性はなかなか高いものがあった。後席はセダンと同様、頭上空間はタイトながらレッグルームは結構広い。シートバックが若干寝すぎているきらいがあるが、大人4人が乗ってもそう窮屈な感じは受けないだろう。

ラゲッジルームはVDA法で420リットルと、容積は十分にある。シビックハッチバックはバックドアが強く傾斜したクーペルックで、ヒンジがかなり前のほうにある。つまり、開口部が前後方向に斜めに切られているような感じなのだが、この形だとラゲッジルームの一番奥まで身を乗り出して簡単に手が届く。高さ方向の積載性を重視せず、もっぱら無造作にモノを放り込むような使い方をする場合は結構便利そうに思えた。

インテリアの仕立てはプラスチッキーで安っぽい。トータルコストのうち多くを走りに関係する部分に食われ、飾りつけまで手が回らなかったような印象だ。そういう割り切りは大いにありだと思うし、筆者は嫌いではないが、そのなかで液晶メーターのデザインはもうちょっと格好良くしてもいいのではないかとも思った。現状では字体、色使いとも電車のCRTディスプレイや大型トラックの運行メーターのようで、色気がまったくない。リデザインはハードウェア変更を伴うものに比べれば簡単だと思うので、できれば格好良くしてほしいところだ。

コクピットまわり。質感はあまり高いほうではなかった。コクピットまわり。質感はあまり高いほうではなかった。

見た目と質感から性格を誤解されてしまう

シビックハッチバックは走りの質の高さという一点豪華主義的な視点で見れば、実に素晴らしいモデルであった。ホンダはリーマンショック後、クルマの動的質感をガックリ落としてしまった時期があったが、最近ようやくその状態から脱しつつある。シビックハッチバックに乗ってみて、2000年代中盤から後半にかけてホンダが見せていた良さがある程度安定的に戻ってきたかなという印象をあらためて抱いた。

シビックハッチバックに合うのは、走り味さえ秀逸であればあとはどうでもいいというカスタマーだ。昔懐かしのシビックとはキャラクターが全然異なるが、ツーリングスポーツはどういう味がいいのかという現役の実験担当者たちの哲学、それを実際に作り上げる情熱は十分に盛り込まれている。Cセグメントハッチとしては車体が長く、そのぶん実用性も結構あるので、一家にこれ1台という用途にも十分耐えるであろう。

車両価格は280万円と、昔のシビックよりかなり高価になったが、トヨタのGRや日産のNISMOといった特別ブランドのモデルに匹敵あるいは凌駕する走りのアビリティと乗り心地をノーブランド状態で持っているので、そういうクルマとしてみればブッチギリの最安値モデルとも言える。返す返すも内外装のデザインや仕立てと走りの質感がミスマッチで、多くの人から性格が誤解されているであろうことが惜しまれる。

ライバルだが、日本ではパワーはほどほどのエンジンと卓越したシャシーを組み合わせたクルマ自体がニッチマーケット。とくにCセグメントクラスでは希少なので、日本勢、海外勢とも同価格帯・同コンセプトでは直接競合がなかなか思い当たらない。スポーティな足というくくりで見れば、ちょっと高いがスバル『BRZ STIスポーツ』やトヨタ『86 GRスポーツ』などがそれにあたる。ハッチバックではルノースポールの手になるセッティングを持つルノー『メガーヌGT』くらいか。

ホンダ シビックハッチバック 新型。赤城山にて記念撮影。ホンダ シビックハッチバック 新型。赤城山にて記念撮影。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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