アウディのEV「e-tron」のグリルはなぜグレーになったのか?【千葉匠の独断デザイン】

アウディ Q4 e-tronのグリル。色づかいがこれまでのモデルと異なる。
アウディ Q4 e-tronのグリル。色づかいがこれまでのモデルと異なる。全 8 枚

e-tronのグリルはなぜグレーになったのか?

1年前のジュネーブショーでアウディは、まだカモフラージュのラッピングが施された姿ながら、同社初の量産バッテリーEVとなる『e-tron』のプロトタイプを展示した。9月にはそれをサンフランシスコで正式発表。さらに11月のロサンゼルスショーでは4ドアスポーツの『e-tron GT Concept』、今回のジュネーブではSUVの『Q4 e-tron Concept』と、バッテリーEVのコンセプトカーを相次いで披露するなど、電動化への強い意欲を示し続けている。

そんな大きなうねりのなかで、いささか仔細な話題で恐縮なのだが、デザイナーにどうしても聞いておきたいのが「e-tronのグリルはなぜグレーになったのか?」ということ。2年前のジュネーブで、アウディ・デザインを率いるマルク・リヒテが「e-tronはボディ共色のグリルにする」と語っていたからだ。

将来的にバッテリーEVが主流になるとしても、当面はハイブリッドを含む内燃機関車との共存が続く。バッテリーEVと内燃機関車のデザインを、どう差異化すべきか? 同じブランドで両者を共存させるなら、フォルム全体のデザイン言語は共通にしておかないとブランド・アイデンティティを損ねてしまう。グリルの色で差異化するというアウディのアイデアは、巧い解決策だと思っていたのだが…。

ボディカラーのグリルにネガティブな反応も

アウディのデザイナー、マルク・リヒテ氏アウディのデザイナー、マルク・リヒテ氏
幸いにして今回のジュネーブでもマルク・リヒテに会うことができた。「e-tron GTとQ4 e-tronはボディカラーのグリル。我々は2段階でそれを進めることにしたのだ」とリヒテ。e-tronは第1段階という位置付けだ。その理由を、彼はこう説明した。

「生産を始める2年前に、e-tronのデザインを顧客に見せるクリニックを行なった。彼らはボディカラーのグリルに少しショックを覚えたようで、ネガティブな反応が出た」
アウディ e-tron のグリル。こちらは従来のモデルに近いイメージだ(パリモーターショー2018)アウディ e-tron のグリル。こちらは従来のモデルに近いイメージだ(パリモーターショー2018)
e-tronの生産開始は18年9月だから、クリニックは16年の夏か秋。その半年後=17年3月のジュネーブでリヒテは自信たっぷりにボディ共色のグリルを語っていたし、翌4月に上海ショーで発表した『e-tron Sportback Concept』のグリルはボディと同じシルバーだった。クリニックを踏まえた議論が長く続いたことは想像に難くない。

そしてリヒテは、e-tronでは妥協する代わりに(とはいえグリルの色を従来の黒ではなくグレーにしながら)、第2段階で彼の思いを実現させる決断を下したのだ。「e-tron以外のすべてのe-tronファミリーはボディカラーのシングルフレームグリルになる」と、リヒテは語気を強めた。

Q4 e-tronの“答え”は次のジュネーブで

ジュネーブモーターショー2019で公開されたアウディ Q4 e-tronジュネーブモーターショー2019で公開されたアウディ Q4 e-tron
Q4 e-tron Conceptのグリルは写真ではシルバーに見えるかもしれないが、実際にはボディカラーのフィンにアルミ加飾をインサートしたもの。リヒテによれば、「量産のQ4 e-tronにはいくつかのトリムレベルがあり、上級仕様はコンセプトカーと同じようにボディカラーとアルミを組み合わせ、ベース仕様はボディカラーだけになる。e-tron GTはスポーツカーだから、グリルは常にボディカラーだ」とのことだ。

ちなみにQ4 e-tronは来年末までに量産型がデビューすると発表されている。e-tron GTについては、インタビューに同席していた広報担当者から「2年後にまたジュネーブに来れば、量産モデルを見られますよ」との言葉を得た。

今回のジュネーブに展示されたQ4 e-tronとe-tron GTはまだコンセプトカーとしての出品だが、リヒテは「どちらも量産車のデザインとほとんど同じだ」と告げた後、隣の広報担当者に「これは話してよかったんだっけ?」。まぁ、聞いてしまったからには、書かせていただきますけど…。

千葉匠|デザインジャーナリスト
デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  3. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
  4. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  5. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る