中古バイクでサブスクリプション、メーカー横断で仕掛けるヤマハ「二輪活性化したい」

ヤマハが手がける中古バイクサブスクリプション「月極ライダー」は二輪業界活性化につながるか。写真はイメージ
ヤマハが手がける中古バイクサブスクリプション「月極ライダー」は二輪業界活性化につながるか。写真はイメージ全 8 枚

5月20日にヤマハ発動機が、新サービス「月極ライダー」をスタートした。二輪業界初の月額制のバイク貸出サービスだ。利用者は借りる車輌を提携バイクショップが在庫する中古車の中から選択。貸出料金の月額には任意保険・各種税金・通常メンテナンスなどが含まれ、車輌購入時の支払い総額の5%に設定される。申し込みは専用サイトを通じて行い、最低利用期間は30日。2か月目以降はいつでも返却が可能で、貸出車輌が気に入れば、そのまま購入することも可能となっている。

ただし、月極ライダーの車輌受け渡しは、埼玉県内に7店舗を展開する提携ショップ「はとやモーターサイクル」を通じて行うこともあり、現在の利用対象者は埼玉県在住(正しくは住民票所在地が埼玉県)であることが条件だ。

今年2月には、トヨタ自動車が愛車のサブスクリプションサービスの新会社KINTOを設立したことが話題となったばかり。まだ対象地域は限定的とはいえ、二輪業界で初めてとなる注目のサービスは、どのような狙いのもとに始まったのだろうか。このプロジェクトの立ち上げ初期から携わる、ヤマハ発動機 MC事業本部 新ビジネス推進部 新ビジネス第2グループ 主事の深見剛彦氏に話を聞いた。

メーカー横断のねらいは「二輪業界の活性化」

ヤマハ発動機 MC事業本部 新ビジネス推進部 新ビジネス第2グループ 主事の深見剛彦氏ヤマハ発動機 MC事業本部 新ビジネス推進部 新ビジネス第2グループ 主事の深見剛彦氏
「月極ライダーを始めるにあたり、我々が主眼としたのは“二輪業界の活性化”です。というのも、自工会(日本自動車工業会)の調査によると、普通二輪免許を取った4分の1くらいの方が、その後の人生でオートバイに乗らない、という結果が出ているんです。潜在的二輪ユーザーともいえる、その25%の方たちを、新たにオートバイの世界に引き入れたい。そう考えた時に、大きな壁が2つあると我々は考えました。ひとつは“金銭的な壁”、もうひとつが“心理的な壁”です」

「シェアリングサービスの広がりもそうですが、現在あらゆる分野で、自分の環境やニーズに合った賢い利用法を選ぶことが、お客様のマインド的に重要になってきている。その中で、どれだけ乗るのかもわからないまま、いきなりオートバイの新車を何十万円も払って購入し、所有するのは、本当に賢い選択なのか? と考えるお客様が増えているように感じます。もちろん二輪メーカーである我々にとって、オートバイを所有し、乗ることをステイタスと考えてくださるお客様は非常に大切な存在です。その一方で、価値観が多様化する中で生まれた、他のニーズにも応えていかなくてはいけない。そこで提供できる新たな選択肢のひとつとして、月極ライダーのサービスを始めました」(深見氏)

昨年6月に、まずは静岡県掛川市のヤマハテクニカルセンターでサービスの実証実験を開始。反響が上々だったため、この5月から首都圏での実証実験として、埼玉県内限定で月極ライダーのサービスをスタートさせることとなった。対象エリアを埼玉県に絞ったのは、二輪ユーザーのボリュームゾーンでありつつ、都心と比べて駐輪場の確保が容易で、オートバイを所有するハードルが低いエリアだからだ。

月額制バイク貸出サービス「月極ライダー」のロゴ月額制バイク貸出サービス「月極ライダー」のロゴ
こうした顧客向けサービスを、ヤマハ発動機販売ではなく、ヤマハ発動機が手がけるのは稀なこと。しかし月極ライダーの専用ウェブサイトを見ても、提携ショップや埼玉県内の教習所に置かれるパンフレットを見ても、そこに“ヤマハ”の文字は見当たらない。その理由について、深見さんはこう語る。

「ご存知の通り、オートバイの販売店には、1つのメーカーだけを扱うメーカー専門店と、メーカー問わず幅広い車輌を扱う販売店さんの2つの形態があります。我々としても月極ライダーの内容を模索する中で、扱うオートバイをヤマハだけに限るのか、メーカーを横断するのか、議論を重ねました。ですが、先ほども申し上げたように、月極ライダーの主眼は二輪業界の活性化です。お客様に、まずはオートバイに気軽に乗ってみようと考えていただくためには、ヤマハが運営するヤマハモデルだけのサービスだと印象づけるより、メーカーを横断するサービスとする方が良いだろうと考えました。もちろん運営者としてサービスの品質は担保しますが、そうした狙いもあり、ヤマハ発動機の名前はあえて前面には押し出しておりません」

プラットフォームビジネスの足掛かりに

月極ライダーと提携する「はとやモーターサイクル」は、新車と共にメーカー問わずさまざまな年代の中古車を扱うショップ。店舗で展示販売する中古車をそのままサービスに用いることで、サービス利用者には価格的なメリットが、提携ショップには新規顧客を呼び込み、滞留する店頭在庫の新たな活用法を生むメリットがある、と深見さんは続ける。

ヤマハとしては、こうしたサービスを便利に活用できる場や仕組みを提供することで、プラットフォームビジネスとしての収益を成立させる見込みだ。

「イメージとしては、民泊情報サイトの『Airbnb』や、オークションサイトの『ヤフオク!』のようなビジネスモデルを想像していただくと、わかりやすいかもしれません。我々のプラットフォームを通じて、販売店様の中古車輌とお客様をマッチングする。そしてサービスを利用する際の決済手続きや、貸し借りの管理などを我々が行う代わりに、販売店様には一部手数料をお支払いいただく、という形です」

「オートバイを所有するより、利用することを推進する“コト売り”寄りのサービスと言えますが、当然ながらヤマハ発動機として、販売ビジネスから利用ビジネスからシフトを目指すというわけでは全くありません。ですがオートバイユーザーを増やし、二輪業界を盛り上げるためには、買ってもいいし、レンタルもいい、月極ライダーのように長期間借りるのもいいというように、さまざまな選択肢を提供することが大切です。そこで、何か新しいオートバイの使い方を提案できないかを考えた結果が、サブスクリプションという形で、“所有体験”を味わっていただくサービスだったんです」

バイクを楽しむためのスマートな選択肢

ヤマハ XSR900(参考画像)ヤマハ XSR900(参考画像)
埼玉県での月極ライダーの実証実験は、来年5月末までの1年間を予定。その後は反響に応じて、対象エリアをより広範囲にしてサービスを再スタートする計画だという。

「これは仮説ですが、サービスを利用するお客様の傾向は、大まかに3つのセグメントに分かれるのではないでしょうか。まず教習所を卒業したてで、購入するかはわからないけど、とりあえず1~2か月乗ってみたいというお客様。次に、オートバイ購入は決定済みだけど、気になる車輌をじっくり試乗して、納得して購入したいというお客様。そしてリターンライダーの方や、今乗っているオートバイとは違うタイプのバイクを短期間だけ乗ってみたい方などです。現役ライダーの方はもちろん、まずはオートバイに乗ってみたい方、買いたいけれどバイク選びに自信がないという方に、ぜひサービスを使っていただければと思っています」

「また、最新の車両をできる限り新しい状態で試したいという方には、すでにヤマハ発動機販売による『ヤマハ バイクレンタル』サービスがありますし、年式問わずリーズナブルにオートバイを楽しみたければ月極ライダーのシステムを使う、というように、今後もオートバイの多様な選択肢をご提案できればと思います」

これまで、所有するか、レンタルするか以外の選択肢がほとんど存在してこなかった二輪業界。「乗ってみたい」という願いを気軽に叶える「月極ライダー」のように、今後はオートバイの楽しみ方においても、サブスクリプションサービスは当然の選択肢のひとつとなっていくのかもしれない。

ヤマハ発動機 MC事業本部 新ビジネス推進部 新ビジネス第2グループ 主事の深見剛彦氏ヤマハ発動機 MC事業本部 新ビジネス推進部 新ビジネス第2グループ 主事の深見剛彦氏

《齋藤春子》

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