なぜマニラ市内に「ヤマハ駅」? 若者を魅了するヤマハ、その真のねらいとは

フィリピン・マニラ市内にある「ヤマハモニュメント駅」
フィリピン・マニラ市内にある「ヤマハモニュメント駅」全 36 枚

フィリピン・マニラ市内を走る鉄道に「ヤマハ駅」があるのをご存知だろうか。正しくは「ヤマハモニュメント駅」で、元々あった「モニュメント駅」のネーミングライツ(命名権)をヤマハ発動機が3年契約で買い取り、2018年3月から運用しているという“正真正銘の”ヤマハ駅だ。

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だが、駅付近にヤマハの拠点や工場があるわけでもなく、ましてやヤマハ製の電車が走っているわけでもない(ラッピング車両は走っているが)。なぜヤマハ駅ができたのか。そこにはフィリピンを第一の成長市場とにらむヤマハ発動機の、ダイナミックな戦略があった。

若者が集まるヤマハモニュメント駅

ヤマハモニュメント駅の乗降客は1日13万人と多いヤマハモニュメント駅の乗降客は1日13万人と多い
大規模な交通渋滞が問題となっているマニラ市内、特に都心部において、通勤・通学の足として活躍しているのがライトレール・トランジット・システム(LRT)だ。ヤマハモニュメント駅を通る「LRT-1線」は、マニラLRTの第一号として1984年に開業。都心部の中でもマニラ湾に近いエリアの南北およそ19kmを結ぶ。料金は15ペソ(約31円)からで、日本と同じように切符またはチャージ式のICカードで乗車することが可能だ。

LRT-1線の最北端に位置するヤマハモニュメント駅は、マニラ東エリアを環状に走るLRT-3線とのハブの役割も果たしており、小さな駅ながら1日の乗降客数は13万人(日本だと霞ヶ関や新小岩などが近い)と比較的多い。5月某日の午前中に現地を訪れたが、朝夕のラッシュ時でなくても乗降客はひっきりなし。特に目立つのが、若者の利用客だ。付近には原宿…とまでは言わないが若者が集まるストリートがあるほか、ショッピングモールや繁華街が集まるマニラ中心部へのアクセスが良いことなどがその理由だろう。

そして、このLRTの「若い利用客」に目をつけたのが、フィリピンで年間54万台の二輪車を販売(2018年実績)するヤマハだった。

急成長のフィリピン二輪市場

フィリピン・マニラ市内を走るヤマハ『MIO』。鮮やかなマゼンタカラーが人気だフィリピン・マニラ市内を走るヤマハ『MIO』。鮮やかなマゼンタカラーが人気だ
フィリピンの二輪車総需要(販売台数)は年間226万台で、世界で6位。ヤマハにとっても世界一の二輪車需要伸長率(前年比+32%)を誇る一大市場だ。さらに加速する需要を見こみ、24日にはフィリピンでの生産能力を倍増させる計画を発表したばかり。この二輪車需要の中心を担うのが、いわゆるミレニアル世代と呼ばれる20代~30代前半の若者たちというわけだ。

人口は約1億人と日本に近いが、平均年齢が23歳と圧倒的に若いフィリピン。そのエネルギー、購買力にヤマハは勝機を見る。ヤマハ・モーター・フィリピンの大杉亨社長は、「フィリピンの平均年収は1万2000ペソ(約2万5000円)。人気の『MIO』で7万1900ペソ(約15万円)だから、かなり大きな買い物だ。だが、日本車人気の高まり、ヤマハブランドの認知向上、トレンドをつかんだ商品を投入できたことなど、ポジティブなファクターの重なりもあって、ヤマハを選んでいただけている。頭金を車両価格の5~10%として、3年36回のローンを組むと、金利含め総額で倍近くになる。それでも今は、多くの若い方々にヤマハのバイクを欲しいと思っていただけている。フィリピンでの二輪車の所有率は13~14人に1台。まだまだ伸びしろはある」と語る。

フィリピンでのヤマハの主力モデルがAT車(スクーター)の『MIO』だ。フィリピンでのAT車人気の草分け的存在であり、またヤマハのシェアを34%まで引き上げた立役者でもある。フィリピンでは他のアジア諸国以上に「鮮やかな色」を好む傾向があり、ビビットなマゼンタやオレンジ、イエローなどをあえてメインカラーに据えたことも若者のハートを掴んだ。「次に買いたいブランド」を聞くと49%でヤマハがトップ(2018年)だったという。

飽和状態のマニラの交通インフラに一手

ヤマハモニュメント駅の目の前の道路。かなり交通量は多いヤマハモニュメント駅の目の前の道路。かなり交通量は多い
さて、そこで「ヤマハ駅」である。若者(購入層)が集まるところに広告を打つ。これはマーケティングとしては非常にわかりやすい。2018年3月のオープン時にはMotoGPのスター選手、バレンティーノ・ロッシを招き、若者たちから大歓声を浴びたそうだ。しかしヤマハのねらいはもう一つあった。劣悪な交通渋滞を避け、快適に、効率よく移動できる手段を若者たちに提供することだ。LRT自体はおよそ3分に1本は走っているし、渋滞知らずだ。だが、駅にたどり着くまでの交通網が整っていないのだ。

路線バス、タクシー、そしてジープを改造した乗合バスの「ジプニー」があるものの、朝夕のラッシュ時には1~2時間以上の足止めを食らうこともザラ。四輪市場から急激に発展したフィリピン・マニラの交通インフラは、これに耐えることができなかった。そこへスマートな移動手段=コミューターの選択肢として、ヤマハのバイクを訴求するというわけだ。つまり、「ヤマハ車を販売する」だけでなく、新たなモビリティの需要そのものを喚起し、そこに最適な商品=信頼性が高く、操作が簡単なAT車で、燃費が良いスクーターを投入することで、ヤマハのアドバンテージを確固たるものとするというねらいがある。

若者の乗降客が多いのがヤマハモニュメント駅の大きな特徴だ若者の乗降客が多いのがヤマハモニュメント駅の大きな特徴だ
そのためトレンド感度が高く、購買意欲も旺盛な若者が集まるモニュメント駅をヤマハ一色にしたということだ。駅名が書かれた看板には見慣れた“音叉マーク”が描かれ、改札への階段を登るとMIOの巨大な模型が飾られている。階段の一段一段や、プラットホームにもMIOが主張する。さらに巨大な電光掲示板には、現地で人気のアイドルや女優が出演するカラフルなMIOのテレビCMが流れ続けている。

実際にこれらが乗降客の購買欲にどれだけ影響するのか定かではないが、満員電車に揺られたあとで駅を降りれば、渋滞するクルマたちの間を鮮やかでアイコニックなカラーのMIOが颯爽と駆け抜けていく光景を幾度となく目にするのだから、そこに移動手段としてのスマートさやカッコよさを感じても不思議ではない。

「二輪業界のステイタスを上げる」ための戦略

ヤマハ・モーター・フィリピンの直営店「Y ZONE」。若者を強く意識した店づくりがおこなわれているヤマハ・モーター・フィリピンの直営店「Y ZONE」。若者を強く意識した店づくりがおこなわれている
ヤマハは2023年にフィリピンでの販売台数100万台、シェア40%、CSIナンバー1という目標を掲げブランド戦略をおこなっている。2016年には、ヤマハ直営ディーラー「Y ZONE(ワイ・ゾーン)」を市内に設立した。若者をターゲットに、天井が高く、清潔で、カフェも併設した巨大店舗だ。色とりどりの車両がコンセプトごとに所狭しと並ぶショールームだけでなく、ガラス越しに見える整備ドック、作業時間に応じて見える化したメンテナンス料金制度など、他ブランドではなかなか見られない仕掛けが随所に散りばめられている。こうした思想を継承したフランチャイズ店舗も随時拡大中だ。ここにも「二輪業界のステイタスを上げる」販路構築、顧客との関係づくりがねらいとしてある。

シェアトップがねらいか、と大杉社長に尋ねると「それが最優先ではない。(様々な戦略が成功し)結果としてトップになっていれば嬉しい」と謙虚な姿勢だ。しかし大杉社長はきっぱりとこう語る。「ヤマハには、需要は創るもの、という文化がある」。急成長を見せるフィリピンの二輪市場。地道だがダイナミックなヤマハの戦略は着実に花開きつつある。アジア最大の二輪市場となる日もそう遠くないのかもしれない。

取材協力 ヤマハ発動機

《宮崎壮人》

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