【トヨタ スープラ 新型】「BMWからは、ほぼ何も言われなかった」多田哲哉CEインタビュー[前編]

多田哲哉チーフエンジニア
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トヨタとBMWは2011年、リチウムイオン電池の共同研究などで技術提携。翌12年6月には、電動化や軽量化、スポーツカーへと協力関係を広げることが発表された。そのスポーツカーの協業から生まれたのが新型『スープラ』である。

では、今回のBMWとの協業は、どのように始まり、どう進んだのか? 伊豆の修善寺で開催された新型スープラの試乗会で、多田哲哉チーフエンジニア(CE)からじっくりと話を聞いた。ご存知のように、『86』のCEも務めたエンジニアだ。

スープラ・プロジェクト開始の経緯

トヨタ スープラ 新型の直6エンジン(RZ)
すべての発端は2012年5月、多田CEがスペインのバルセロナで86の記者試乗会に立ち会っていたときのことだという。

「日本から電話があって、『明日、ミュンヘンのBMW本社に行くとこういう人が待っているから、話をして、クルマを共同開発できるかどうか調べてこい』と言われたんです」

電話の主は内山田竹志・第1技術開発本部本部長(当時。翌6月に副会長に就任。現会長)。多田CEは86試乗会を切り上げてミュンヘンに向かい、BMWで事業戦略を担当する人物に会った。

「スープラとは言われていなかったけれど、ミュンヘンに行く飛行機のなかで、これはどう考えてもスープラだろうと思いました。86を開発していたときから、世界中のトヨタのディーラーやファンの皆様から『次のスープラはいつになったら出るのか』と言われていたし、その当時、量産の高性能な直6エンジンを持っているのはBMWしかなかったですからね」

直6・FRは歴代スープラのアイデンティティだ。トヨタにはない直6を、すでに提携関係にあるBMWが持っていた。

「本社に『まぁ、なんとかなるのではないか』みたいな楽観的なレポートを送ったら、すぐに返事がきて、『おまえがそのリーダーとしてプロジェクトを進めるように』となった。それから、どんな契約にするか、どんなクルマにするか、という交渉が始まりました。いろいろBMWと話をしたのですが、1年以上経っても具体的なことが決まらなく…」

ボクスター/ケイマンをFRで超える

BMW Z4 新型
プラットホームやパワートレインを共有してトヨタはスープラ、BMWは『Z4』を開発し、スープラの設計実務はBMWに委託する、というのが今回の協業だ。

「私はスープラのヘリテージを受け継いで、どちらかというと古典的なピュアスポーツを作りたい。まさに新型スープラのコンセプトを軸に交渉したのですが、BMWは『気持ちはわかるけれど、ピュアスポーツのビジネスは厳しいよ』と。では、どんな戦略をとれるのか? BMWからは『環境とスポーツを高次元で融合させてはどうか』など、きわめて真っ当な提案をいただきました」

トヨタ自身、2007年に『FT-HS』というハイブリッド・スポーツのコンセプトカーを世の中に問いかけたことがある。しかし多田CEの思いは、そこにはなかった。

「今にして思うと、トヨタ側が『ピュアスポーツを作りたい』と譲らなかったから、話が進まなかったような気がします。そうやって行き詰まっていたとき、BMWの製品開発のトップが交代した。私のカウンターパートナーのチーフエンジニアも新しい人が着任して、『そんなにピュアスポーツをやりたいなら、一緒に作ろう』と。ガラリと雰囲気が変わって、具体的にどんなスポーツカーを目指すのかを決めようとなった。これは意外と簡単に決まりました。」

簡単に決まったとは、どういうことなのか?

「BMWはオープンカー、我々はクーペ。これは最初から決まっていたのですが、それなら良い見本がある。プラットフォームを共有したオープンとクーペで皆が認めるスポーツカーといえば、ポルシェの『ボクスター』/『ケイマン』しかないですよね。FRでそれに近づく、あるいは超えるクルマにしよう、と目標を定めました」

ポルシェ718ケイマンTとポルシェ718ボクスターT(写真は現行型)

プラットフォームを新開発した

「トヨタとBMWが持っているプラットフォームで、使えるものはないかという検討はもちろんやりました。しかし、目標に届かない。そこでプラットフォームの諸元をすべて見直して、ホイールベースとトレッド、重心高といったディメンションをBMWと議論して決めることから始めたんです」

新型スープラのホイールベースは、86より100mm短い。ホイールベースをトレッド(前後平均値)で割った値は1.55で、多田CEはこれをスポーツカーの黄金比と呼ぶ。ちなみにポルシェの新型『911』は1.54だ。トレッドを広げるのには限度があるから、それを前提に黄金比を求めた結果が2470mmというショート・ホイールベースだった。


「BMWはシミュレーションを巧く活用する。ディメンションをシミュレーション検討して、ほぼ行けるとなったのですが、それをトヨタ本社でレポートしたら、『そんなに短いホイールベースで大丈夫か?』と心配されて。とくに超高速域の安定性ですね。そこで、このディメンションを検証するために、先行試作車を作りました」

その先行試作車はBMWの『M2クーペ』のボディを改造したもの。関係者の間では“フルランナー”の愛称で呼ばれたという。

「フルランナーで走行テストをやって、これは行ける、と。それを日本に送りました。日本側では豊田社長も試乗して、このディメンションがゴーになりました」

走りのチューニングはトヨタに決定権


プラットホームの基本的なディメンションが決まり、いよいよ開発が本格化する。デザインはもちろん両社がそれぞれ進めた。

「スープラチームとZ4チームに分かれて、お互いに干渉せずに、それぞれのデザインを粛々と開発していった。走りのチューニングも両社で完全に分けました。我々はベルギーのトヨタヨーロッパにいるドライバーをマスタードライバーにして、彼がすべてのチューニング要素を決める。BMWとそういう契約をしたんです」

設計実務はBMWが担うが、スープラの走りの味付けについてはトヨタが決定権を持つというわけだ。

「サスペンションのチューニングはもちろん、エンジンやトランスミッションのセッティング、アクティブデフのセッティング、ボディ剛性の前後配分なども我々が決められる。とはいえ、正直なところ私は、BMWからスープラはこうしてくれみたいなリクエストがかなり来るんだろうと思っていたんです。しかし結果的に、ほぼ何も言われなかった。本当に自由に、好きなようにチューニングもデザイン開発もできたのはありがたかったですね」

開発中に多田CEがZ4の試作車に乗るようなこともなく、初めてそれに乗ったのは最終試作車ができてからだったという。

「プラットフォームを新作しようと考えた両社の思いは、今までのBMWでもトヨタでもない新しい世界に両社で行こう、ということでした。当然ながらクーペとオープンではボディ剛性が違うので、違う楽しみのあるクルマになるし、チューニングの思想も違ってくる。そこで方向が分かれるけれど、間違いなくお互いに従来のBMWでもトヨタでもないゾーンに行こう、と。最終的に試作車をお互いに乗り比べたときに、そこに到達できたことを両社で確認しました」

[後編]「最短でスープラを出すには、BMWの直6しかなかった」多田哲哉CEインタビュー

トヨタ スープラ 新型

《千葉匠》

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