“ミスターカワサキ”らが語る「W1」開発秘話…W800 が受け継いだのは“音”への情熱だった

カワサキW1
カワサキW1全 10 枚

カワサキには“レジェンド”ともいえる、バイクファンらにも名が知られるマイスターたちが存在する。まず“ミスターカワサキ”こと清原明彦氏だ。

テストライダーとして「W1」「マッハ」「Z1」など歴代のモデルに携わり、カワサキワークスレーサーとしても世界グランプリで活躍。その貴重な経験の数々は書籍化され物語となったり、バイク専門誌などでも繰り返し紹介されている。

1961年に川崎航空機工業(現:川崎重工)に入社し、オートバイ開発のための養成工として学ぶが、修了するとテストライダーを自ら志願。養成工からテストライダーになったのは、後にも先にも清原氏ただ一人だ。

ロードレースやモトクロスでの活躍はもとより、テストライダーとしてのマシン評価は冴え渡り、カワサキ躍進の原動力となるマシンたちはすべて清原氏が、途方もない時間をかけて試走と開発陣との議論を繰り返した末に完成した賜物であった。

1976年からカワサキワークスライダーとして再スタートすると、77年には世界グランプリに参戦。マシンづくり、レーサー、多岐にわたってカワサキとともにその名を知らしめたがために“ミスターカワサキ”と呼ばれる。

カワサキビッグバイクの礎築いた“ダブワン”

“ミスターカワサキ”こと清原明彦氏“ミスターカワサキ”こと清原明彦氏
「異色のライダー 清原明彦物語」(グランプリ出版1986年)を手にしたときからファンとなった筆者は、専門誌編集部アルバイト時代に清原氏の運営する「プロショップキヨ」(兵庫県神戸市)へ取材でうかがい、お目にかかったときは感激したことを覚えている。

先日、カワサキが開いた海外報道向け試乗会にゲスト参加していたので、挨拶させてもらうと快くいろいろとお話ししてくれるからまたしても感無量。「W1」(1966年)のエンジンを始動し、ともに新型「W800」で走るなど夢のような時間であった。そして「W1」開発時の話を聞くことができた。

「はじめて公道に出たときの気持ちは最高やったね。堂々とした大型車で、迫力のある重低音の効いた音がいい。鼓動感のある気持ちのいいエンジンで、飛ばしたくなるより(アクセルを)開けたくなるやわ」(清原氏)

「最高速は実測で181km/h、当時としてはすごく速かったよね。後のH1、H2、Zと、カワサキの大排気量車の成功につながっていったんやろうね」(清原氏)

手応えを感じたのは“音”だった

カワサキW1カワサキW1
1958年に川崎重工業へ入社し、2000年に代表取締役社長、05年に代表取締役会長に就任した田崎雅元氏は、1965年、29歳のときに渡米し、広大なアメリカの道路を走って、それまでのカワサキの主軸だった「B8」(2スト125cc)や「J1」(2スト85cc)では話しにならないと感じた。

66年、シカゴに現地販売会社を設立すると「A1」(2スト250cc)や「W1」の試作車が送られてきたが、現地にて初めてテスト走行したのが田崎氏。「W1」は低周波のダイナミックでズッシリとした“音”が非常にいいと、手応えを得ている。このとき、4サイクル大排気量車なら勝負できることを確信し、後の「Z1」の大ヒットへと続くのだ。

「W1」や「Z1」を開発した稲村暁一氏は、サウンドはどういう周波数を出せば心地良い排気音になるか追求した結果、生まれたものだったと振り返る。カワサキは昔からサウンドに強いこだわりをもっていたのだ。

サウンドへのこだわりは新型も継承

W800STREETとW1W800STREETとW1
そうしたレジェンドたちがこだわったWの“音”は、新型「W800」にも受け継がれた。プロジェクトリーダー(開発責任者)菊地秀典氏(川崎重工業 モーターサイクル&エンジンカンパニー技術本部)はこう言う。

「まずサウンドです。流麗なマフラーデザインはそのままに、チャンバーの配置、バッフル管およびトランスチャンバー管の径と長さ、大型ハニカム触媒といった内部構造を改良。入念なチューニングを施し、スロットルをひねるたびに力強いサウンドを生み出しています」

乗ってみると、たしかに心地良く、そして迫力のある“Wならではの”排気音だ。これにはミスターカワサキ清原氏も頷くばかり。「W1」から始まったカワサキビッグバイクの伝統。熱き想いで「Z」を生んだレジェンドたちのものづくりにかける魂は、新型「W800」にもしっかり受け継がれている。

《青木タカオ》

モーターサイクルジャーナリスト 青木タカオ

バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

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