サイは投げられた…それでも難航するトヨタディーラー網のモデルチェンジ【藤井真治のフォーカス・オン】

東京での4系列統合により旧ネッツ店も看板変更。写真は「トヨタモビリティ東京 若林淡島通り店」
東京での4系列統合により旧ネッツ店も看板変更。写真は「トヨタモビリティ東京 若林淡島通り店」全 3 枚

昨年、トヨタは4系列ある国内トヨタブランド販売網の一本化を表明。本年3月には東京で4系列のトヨタ直営販売会社を一つに統合した。会社名は「トヨタ・モビリティ東京」とした。トヨタトップの「モビリティの会社になる」という方針に従う形で、まさに「販売網のモデルチェンジ」が始まった。

各道府県も東京の直営店に続き、トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店(TPCNと言う)が一本に統合され、スリム化やモビリティ事業の新事業を促進させる計画だ。しかしながら地方のトヨタブランド販売店TPCNのほとんどはトヨタ自動車から独立した強い地場資本。これまでのトヨタの高シェアを支える原動力であったが、一本化に向けての地場調整は難航しているようだ。

強い地場資本がトヨタの販売だけでなく実は財務も支えてきた

これまでトヨタは各都道府県単位で地場資本に販売フランチャイジーを与えながら国内販売網を拡充させてきた。日産が経営不振の販売店を次々と直営店化していったのとは対照的で、地場の顧客を熟知したオーナー経営のがんばりがトヨタの国内販売の原動力となってきた。

さらに、市場の拡大に対応し複数チャネル制を取り、各系列チャネルが専売車種を売りながら競争し合うことで総販売量を稼ぐ方式をとってきた。

メーカーが作った完成車は他人資本である地場販売会社がすべて引き取るというルールのもとで、トヨタは財務体質を強固にしていった。完成車在庫を持たない前提でクルマの生産に注力でき、世界に冠たるトヨタ生産方式を発展・構築させてきたとも言えよう。

難航する4系列販売網の一本化

ところがこの地場資本の強さが「販売網のモデルチェンジ」が全国一律でスムーズに進まない大きな原因ともなっている。

トヨタ販売店は各府県で老舗のトヨタ店と別資本であるトヨペット店が1社ずつある。ところがカローラ、ネッツ店(当初はオート店とビスタ店)は新規チャネル追加をする際に各県複数会社と新規資本参入を推進したために、現在は3~5の異なる資本(オーナー)が各県に存在している。

東京のように一本化がすんなりと進行しないのはこの各県の複雑な地場資本間の調整が必要だからだ。

従来より全チャネルで販売されているトヨタ プリウス従来より全チャネルで販売されているトヨタ プリウス
そうしたなか、6月24日、業を煮やしたようにトヨタから全系列で全車種の併売化を当初より早く2020年5月に実施する事が発表された。これはトヨタからの事実上の系列廃止宣言ともとれる。

これまで『プリウス』や『アクア』など量販モデルはすでに4系列併売となっているが、他系列との競合しない専売車種は各系列の利益モデルとして嬉しい存在であったのだが、全車種併売となると各系列入り乱れた販売戦線に突入となる。在庫資金力や販売力、顧客管理力の弱い販売店は苦しい状況となる。

現在、トヨタの販売会社は全国で社273社(トヨタ自動者ホームページより)。そのうちトヨタの直営店は僅か10数社。ほとんどは地場資本で資本数(オーナー数)数は約125である(APスターコンサルティング調べ)。販売会社もピンキリだ。複数の販売系列店やモビリティ事業に欠かせないレンタリース店も持ちグループ化し上場しているスーパーディーラーもあれば、狭い販売エリアで拠点数も少ない販売会社など様々である。

地場に密着し販売とサービス活動を地道に展開し「まちいちばん」になろうと頑張ってきた小さな販売会社にとって、いきなり「モビリティカンパニーになる」と言われても戸惑うのも理解できる。

サイは投げられた

トヨタが市販化を計画している小型EVトヨタが市販化を計画している小型EV
縮みゆく日本の新車市場。クルマは保有から使用という動き。トヨタ本体の生き残りをかけたCASEやMaaSビジネス投資の為の膨大な資金。販売モデル数を減らし、4販売系列を一本化し、販売拠点数もスリム化し、モビリティというあ新しい領域に挑戦する。国内販売網変革の大きな方向性は正しいのであるが、販売現場の当事者であるTPCN販売店オーナー達の頭を悩ましているのが現実だ。

しかしながら、「すでにサイは投げられた」。

トヨタ店とトヨペット店が他系列とレンタ会社も持っていて2社に勢力が二分されているような千葉県や神奈川県などは、自社判断での統合や変革は比較的早く進むと思われる。ただし各系列がすべて別資本でしかもカローラ店やネッツ店は複数社といった県、街道沿いに別資本のトヨタ4系列が並んでいるようなところは難航が懸念される。統合が難しい中でも、併売車種を売りながらとことん頑張ろうとする販売会社も出てくるだろう。

トヨタの動きは地方の販売店においても目が離せない。

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《フォーカスオン》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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