【ホンダ N-WGN 新型】生活自体を主役にする素晴らしい脇役…エクステリアデザイナー[インタビュー]

本田技術研究所オートモービルデザインデザイン室プロダクトデザインスタジオデザイナーの菅井洋氏
本田技術研究所オートモービルデザインデザイン室プロダクトデザインスタジオデザイナーの菅井洋氏全 10 枚

フルモデルチェンジしたホンダ『N-WGN』(Nワゴン)。コンセプトはもとよりデザインまでゼロから見直したというこのクルマ。どのようにしてこのデザインに至ったのかについて担当デザイナーに話を聞いた。

白物家電は褒め言葉

----:まず初めにN-WGNのデザイン担当に決まった時、どのような感想を持ちましたか。

本田技術研究所オートモービルデザインデザイン室プロダクトデザインスタジオデザイナーの菅井洋氏(以下敬称略):個人的に軽自動車がすごく好きて、ずっと軽自動車に乗っていましたので、これまでやりたいといっていたことがやらせてもらえるのだなと思いました。以前から小さいクルマが好きだったのです。

----:なぜ小さいクルマが好きなのですか。

菅井:自分が小さいからかな(笑)。親が使っていたりして身近な製品だったので、そういうものをデザインしてみたいという気持ちがずっとありました。出来るなら親や友達に勧められるものを作りたいなと思っていましたのですごく嬉しかったですね。

----:では新型N-WGNをどのようにデザインしていこうと、その時に思いましたか。

菅井:まずはN-WGNをこうしようという前に、どのように使っているのかを地方も含めて見に行きました。軽自動車などは白物とか日用品とよくいわれますが、その時に使い方を見ていたら白物もいいな、褒め言葉だなと感じたのです。

日常生活の中で、例えば冷蔵庫はずっとあります。それ自体は主役ではありませんがすごく役に立っていて、生活に密着しています。そのうえでより美しければなんとなく生活全体が良くなって見えると思ったのです。そこで、そういう生活にずっとあるもの、生活自体を主役にするような素晴らしい脇役をデザインできたらいいなと思いました。

----:なんとなくですがバウハウス的な考えにも通じますか。

菅井:(笑)。軽ハイトワゴンは様々なお客様が乗りますので、そういった全てのお客様の良い生活のパートナーになるためにはどうしたらいいかなと、かなり合理的であることはすごく念頭に置きました。変な意図を込めないということでは、バウハウスやディーター・ラムスの考え方に近い方向でデザインをしたということはあるでしょう。

個人的にも合理的であることが、色々な人がスッと受け入れられる要素になると思います。ただし、合理的ではあるけれども冷たくはならないようにしようと考えていました。ホンダN-WGNホンダN-WGN

私の毎日ハッピーベーシック

----:そこからデザインコンセプトを考えていったと思いますが、新型N-WGNのデザインコンセプトは何ですか。

菅井:“私の毎日ハッピーベーシック”です。私の毎日というのは、老若男女様々なお客様がいて、その人たちが日常的に使う日用品という形を重要視しました。そしてハッピーは冷たくならないように。毎日はちょっと笑顔になるような雰囲気の方がいいという思いを込めています。

ベーシックはそのまま作ると、ともすると簡素、質素で寂しくなってしまいますので、そうならないようにデザインしました。この世界は素晴らしいと思ってもらえるくらい本気でクオリティを上げようという気持ちを込めています。特に標準車はこのような気持ちで作り上げました。

----:ではカスタムの方はいかがでしょう。

菅井:最初に標準車をデザインしていきましたので、すごく難しいと当初は思ったのですが、本当はそういったこともよくわからないので、お客様のところに見に行ったり、話を聞いたりしました。

そこで感じたのは、カスタムという仕様はどちらかというと少しやんちゃな感じの印象でしたが、いまではお客様も増えて、いい意味で普通の選択肢になってきたように思ったのです。ただやはりもう少ししっかりしたもの、ノーマルだと女性っぽく感じてしまうという人もいましたので、威圧感とかではなく、少し高級感のあるものを欲しがっている人に普通の選択肢になるようにとコンセプトを考えました。

華やかさは高級感として欲しいのですがそこで嘘はつかない。つまり装飾のためのパーツをつけて何かを犠牲にして、そこにしわ寄せが来るようなことは一切やめるようにしました。必要なものを少しノーマルより華やかにデザインしていくことを意識しました。あまり装飾らしい装飾はやらないようにと我慢しました。ホンダN-WGNカスタムホンダN-WGNカスタム

“芯”を通してスタンス良く

----:N-WGNを見て感じるのはサイドの面がかなりフラットになっていることです。しかしカラーを含めて抑揚をしっかり見せようという感じも伝わってくる、すごく難しいデザインだと思いました。

菅井:抑揚の出し方では、どうやって出そうかというこだわりはあるのですが、一番はいま話しました、あまりデザインしないように心がけたことです。ただ、サイドパネルが本当にフラットだとお客様は不安になるでしょう。

----:その不安というのはどういうことですか。

菅井:ペラペラして見えてしまうということです。お客様がクルマってこういう感じだよねと思えるくらい自然に受け入れられるように、微妙なアールをつけたり。何もないように見えますが、クルマ全体として芯が通って見えるようにするなど、細かいことは色々やっています。基本的にはクルマとして自然に見えるように、そのために吟味しました。そういったことはかなりモデラーが頑張ってくれましたので実現できました。

----:クルマとして自然に見えるとはどういうことでしょう。

菅井:このクルマに関しては、心地よさそうな室内空間がある箱ということです。ただし、クルマは走りますので、その時はきびきび走りそうなスタンスなどが重要です。それから不安にならないような強さというものは間違いなく必要でしょう。それが基本的には一番のクルマらしさだと思います。それ以外は基本的には手を入れないで、スタンスなどを重要視してデザインしました。

----:そのスタンスという点では、特にリアが上手く作られていると思いました。テールランプを少し低めに置いているので、これが見事に効いていますね。

菅井:それは確かにありますが、特にそこにこだわってデザインしたというよりも、軽自動車はこれまでテールランプを豪華に見せようとしてきました。そうすると幅が狭いのでどうしても上や下に伸びてしまうのです。そういうことは今回はやらない方が良いのではないか、それはデザインのためのデザインだからです。それよりもこのクルマに感じる芯をもとに、そこに自然についているように作り込んでいきました。

----:その芯とはドアハンドル下あたりの膨らみを指すのでしょうか。

菅井:そうです。遠くから見た時に背骨みたいなイメージに見せるようにしています。ホンダN-WGNホンダN-WGN

あのクルマに結果的に似ている?!

----:ところで標準車のフロント周りをデザインするにあたり、何か意識したものはありましたか。

菅井:意識をしたといえば、あるべきものがあるべき場所に置かれるということです。デザイナーとしてはすごく我慢することは意識しました(笑)。こういう風に見せたい、例えばクールに見せたいとか大きく見せたいだとか、そういったことを言い始めると、一番のクルマらしさが少しずつ損なわれていってしまいます。そういった助平心はなるべく廃して真面目にやりました。

----:ホンダが1970年代にラインナップしていた『ステップバン』を意識しているかなと感じたのですが。

菅井:そういわれる人は多いですね。ステップバンはいまの我々から見ても、やはり合理的に出来ているなと感じます。実はこれまで灯火類のデザインを担当していたのでよくわかるのですが、例えばフロントのウインカーが内側や下の方についているクルマがありますが、実は見難いなと。やはり“方向指示器”ですから外側の上の方についているのが正しい。そこで現在の場所に置いたのですが、ステップバンを改めて見ると同じような配置なのです、昔の時代のクルマなのに。ですので結果的には似ているのですが、あえてステップバンのモチーフを入れようとしてはいません。

----:結果的にステップバンとニュアンスが近くなったということですね。ただグリルをメッキで囲んでいるあたりはすごくステップバンを感じてしまいます。

菅井:あれもそんなには意識していなかったのですが。実は現行のN-WGNもこうなっているので、ステップバンを見て描いたわけではありません。ただ改めてステップバンを見た時に、とても良い先生だなというところはたくさんありましたので、一度も見てないということはないですね。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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