【シトロエン C5エアクロス 新型試乗】PHCはハイドロの後継と呼べるのか…中村孝仁

プログレッシブ・ハイドローリック・クッションとは

PHCとハイドロとの大きな違いは

肝はサスペンションとシートにある

シトロエン C5エアクロス
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プログレッシブ・ハイドローリック・クッション

その名をプログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)という。ご存知の通り、シトロエンにはその昔ハイドロニューマチックなる、独特なサスペンションが存在した。そのハイドロニューマチックはその後ハイドラクティブに名を変え、電子制御技術を導入して日本では2015年に販売を修了したシトロエン『C5』にまで使われた技術である。

個人的な話をすると、このハイドロニューマチックのモデルとハイドラクティブのクルマを1台づつ所有して、その絶妙な乗り心地を味わった。そもそも金属のスプリングやダンパーなどを持たないのだから、変わっていることこの上ない。つい最近、実はこのハイドロに心酔したエンジニアが作った独特な構造を持つサスペンションのモデルを手に入れた。勿論それには金属バネもダンパーもついているのだが、その乗り心地の良さはハイドロに勝るとも劣らないと感じている。だから、ハイドロに代わる卓越した乗り心地を金属バネでを使っても実現できると思っていた。


そしてその答えがシトロエンのPHCだったのである。能書きを簡単に説明すれば、やはり油圧回路を上手く使って2段構えのスプリングとダンパーを用いた構造で、極限状態の揺れに対しては硬く、通常の揺れに対しては極めてソフトに対応するというような代物である。

そもそもの始まりは、四半世紀前のパリダカ―ルラリーに参戦したクルマ、シトロエン『ZX』に採用された技術だそうで、それを四半世紀かけて実用向けに落とし込んだというもの。その直前には『DS 7 クロスバック』にも電子の眼を応用して路面を見ながらダンピング性能を変えるシステムも導入していたが、正直その時は全然ハイドロの代わりになるものではないと感じていた。

だから、今回『C5エアクロス』に試乗するにあたり、最も気にしていた点はこのPHCが果たしてハイドロ系の後継と呼ぶにふさわしいか否かの一点に集中していた。

PHCとハイドロとの大きな違いは


結論から申し上げましょう。僕個人としては残念ながらハイドロの後継と呼ぶにふさわしい乗り味は達成されているとは感じなかった。勿論感じ方は人それぞれ違うだろうし、事実すでに各メディアでハイドロの再来という方もいらっしゃる。

では具体的にどこがどう違うか。もっとも大きな違いとしてはダンパーの伸び側がハイドロのようにゆったりとした動きが実現できないこと。次にハイドロのようなリアルなフラット感も実現できていないこと。この2点が決定的に違う。実はこの2点、そもそも現代のクルマでそれ求めても非常に難しいことなのだと思う。

と言うのも、現代車に最も求められるのは、一に安全性能、二に環境性能、そして快適性はそれよりも下、その前に恐らく運動性能が来てしまう。ところが伸び側のゆったりとした動きを実現する乗り心地と、極端なフラット感を実現するには相当にソフトなダンピングが必要で、それを作り出すと、コーナリング中には凄まじいボディロールが伴う。

事実初期のハイドロニューマチックはロールが過大だった。僕が最近手に入れた極上の乗り心地を実現するクルマも、極端なロールを伴う。これは現代のクルマの安全性を(特にコーナリング中)を考慮すればやはり不可能な領域で、どこかで線を引かなくてはならず、そのギリギリの線を狙ったのが今回のPHCなのだという結論が僕の導き出した答えである。

だからC5エアクロスは現代車としてはすこぶる上質な乗り心地を持っていることは疑いの余地もないのだが、それをハイドロと比較してはいけない。ハイドロはその独特な構造故にとてつもなく複雑で、メンテナンス性の悪い代物だった。これが壊れて大変な目にあったことがあるユーザーもいたに違いない。僕も一度、ハイドロオイルを失ってシャコタン、ノーブレーキになったことがある。そんな危険な代物は今の世界ではNGなのである。

肝はサスペンションとシートにある


というわけでPHCはハイドロの後継ではなく、シトロエンの新たなる提案として受け取りたい。その意味ではとても簡略な構造で、メンテナンス性も悪くなさそうで、ここまで上質な乗り心地に仕上げたのだから、それはそれで大したもんだと思うわけである。ダンパーは高そうだけど…

もう一つ上質だと感じたのはC5エアクロスのシートだ。クッションが凝っていて、基本フォームの上に高密度のフォームをかぶせ、さらにその上に15mmの厚のパッドを敷いたものになっている。イメージとしてはテンピュールの枕の上に少し硬めのパッドを置いて、人間が座ると座面と背もたれの形は体にフィットするけれど、一度体を掴むとそれを捉えて離さない適度の硬さで包み込んでくれるような感じと言えば良いだろうか…。これは絶妙だった。

エンジンを含むドライブトレーンは既存の2リットルディーゼルターボとと8速ATの組み合わせ。乗り心地を除けば走り自体は他のプジョーやシトロエンの同じ組み合わせを持つモデルと大きくは変わらない。つまりC5エアクロスの肝はサスペンション、シートにある…と僕は感じた。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める

《中村 孝仁》

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