【日産 リーフe+ 4200km試乗】ライバルはテスラか、ホンダか…優位性を保ち続けることはできるか[後編]

日産 リーフe+ 4200km試乗
日産 リーフe+ 4200km試乗全 38 枚

日産自動車のCセグメントコンパクトBEV(バッテリー式純電気自動車)、『LEAF(リーフ)e+』で4200kmほどツーリングする機会があった。前編ではバッテリー容量拡大がBEVでのドライブをどう変えたかということについて触れた。後編ではクルマの特性について述べる。

重量増を押して素晴らしい加速感

リーフe+は基本構造は従来型と変わらないが、バッテリー増載で重量が40kWhモデルに対し160kgほど増大。それに合わせ、電気モーターの出力が強化された。連続最高出力は85kW(116ps)で変わらないが、瞬間最大出力は110kW(150ps)から160kW(218ps)へと大幅に引き上げられている。

まず絶対的な加速性能だが、重量増を押して素晴らしいものがあった。1名乗車でのGPS計測による0-100km/h(速度計表示106km/h)加速は、単純にアクセルをベタ踏みするという単純なスタンディングスタートで7.3秒。パワーメーターを見るとフルパワーになるのは60km/h近辺からで、チューニングによってはさらに速くできるであろうが、現状でもファミリーカーの域は完全に超えており、非常に速い。もちろん過去のどのリーフと比べても速い。

ただし、スロットルチューニングの良さではスロットル開度を開ける過程ですでに加速がリニアについてくるようなフィールだった40kWh版より後退し、やや大味になった。加速の爽やかな感じも40kWh版のほうが上だ。このへんは重量増がややネガティブに作用しているということもあるのか、強引に加速させるような感覚がつきまとった。

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スロットルペダルだけで加速から巡航、減速、停止までを行うことができる「eペダル」は、40kWh版と同様、実によく機能しており、右足一本でほとんどシーンをリズミカルに駆け抜けることができた。今日ではリーフだけではく、ハイブリッドカーの『ノートe-POWER』『セレナe-POWER』にもこのeペダルが装備されているが、リーフはバッテリー容量が大きいため、それらよりずっと強い30kW相当の回生ブレーキまでカバーしている。スロットルを全閉にしたときの減速力は結構大きく、前方に異変を見出し、おっとっとと思って足をフリーにしても急ブレーキ以外は事足りるという感じだった。

その割りを食ったか、いただけなかったのはフットブレーキである。踏み心地がゴワゴワしており、踏力の感触でクルマの減速をスムーズにコントロールするのが難しい感じである。あえて他のクルマにたとえるならば、ナローポルシェなどと呼ばれる第1世代ポルシェ『911』のブースターなしのブレーキを軽くしたような感じだ。そう思えばエンスーな感じもするが、現代のクルマでそんな味を追求すべきではなかろう。ちなみに40kWh版リーフではそんな感じはまったく受けなかった。62kWhモデル特有の問題なのか、ドライブに使った個体だけの問題なのかは判然としないが、このクルマについてはそうだったと記しておく。

高速クルーズや山岳路も意外と得意

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初代リーフから連綿と受け継いできた、低重心によるハンドリングの良さと乗り心地は、重量級モデルとなったe+もしっかりと持ち合わせていた。実を言うと、ドライブ中盤までは良い印象を持っていなかった。乗り心地はすっきりとしていた40kWhリーフに比べてブルつきが強く、ハンドリングもなまくらな感じであった。

ところが途中、エア圧を変えてみたらどんな感じになるのかといろいろ試しているうちに、規定の2.5kg/cm2より1割少々高い2.8kg/cm2で俄然素晴らしいテイストになることがわかった。40kWh版の気持ちよいライントレース感が出てきたうえ、乗り心地も低圧状態よりむしろ向上した。標準タイヤは215/50R17サイズのダンロップ「エナセーブ EC300」だが、交換のさいには高耐荷重型のエクストラロード(XLと刻印されているもの)モデルをチョイスしてみるのも悪くないのではないかと思われた。

シーン別のドライブフィールだが、重いバッテリーを床下に積むことによって相対的に低重心となるというBEVの特性がプラスに生きて、とくにタイヤの空気圧に一工夫加えた後は苦手な道があまりないように感じられた。最も得意とするのは高速道路や流れの速いバイパスクルーズ。高速道路は整備状態の良いところではゆるゆるとフラットに走り、悪いところではサスペンションがしっかり仕事をするというイメージ。横風に強いのも40kWhモデルと同様で、荒天に見舞われた帰路の新東名でも、横風を食って進路を乱されるということがほとんどなかった。

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山岳路も苦手ではない。1.7トン近い車重を215mm幅のエコタイヤで支えているわりには敏捷性が高く、狙ったラインをかなり正確にトレースできる。コーナリングにおける前輪への荷重のかかりもバッチリだ。その点に限れば質の良いスポーツハッチのようなフィールであった。市街地ではまあ、どんなクルマでも差が出にくいものだが、エンジンを持たないことによる低振動性と乗り心地のコンボは基本的に気持ちよいものだった。未舗装路や雪道などは試せていないが、シーンを選ばず乗れそうな感じのライディング感覚だった。

400万円台のクルマである、ということ

惜しい点は、官能評価の部分がノンプレミアムの域を出ていないことだった。

クルマの動き自体は良いのだが、その良さの多くはBEVの低重心によるもので、路面のざらつきや細かいうねりなどの雑味をうまくカットするような仕上げにはなっていない。リーフe+にライバルがいなければこれでもいいのだろうが、スターティングプライスが511万円というテスラ『モデル3』など、強力なBEVのライバルがすでに登場しはじめているし、これからもゴロゴロ出てくる。その渦中でユル系ファミリーカーですよというポジションにこだわり続けていると、やられてしまいかねない。このリーフそのものを高級仕立てにしてもかえってダメであろうが、少なくとも乗った感じで400万円台のクルマなのだとユーザーに納得してもらえるようなプラスアルファが欲しいところだ。

また、充電のインターバルが短かったこれまでのリーフでは表出しなかった弱点はシート。表皮、ウレタンとも身体へのフィット感が不足しており、連続運転時間が長くなると体とシートが触れている部分がうっ血気味になる。コスト制約の厳しさは百も承知だが、日産やシートメーカーのタチエスはシートへの知見をしっかり持っているのだから、ここもできれば改良したほうがいいように思われた。

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BEVとしての特質を利用した便利機能やスマホ連携はなかなか有用だった。たとえばクルマを停めておくとき、クルマをロックしながらエアコンだけをつけておくという芸当ができる。鹿児島で切スイカを入手し、そのさいにクルマから30分ほど離れなければならないことがあった。外は夏の日差しで、放置していたら車内は完全に熱くなるところだが、エアコンのみ稼動させるという機能を使うことでスイカが熱されるのを防ぐことができた。ちょっとした冷蔵庫がわりである。エコな使い方ではないが、これはいいと思った。

カーナビには光ディスクスロットも搭載されていたが、ほぼ全区間にわたってスマホのSpotifyをBGM再生に使っていた。カーナビ画面にスマホの画面をミラーリングさせるのもほとんどワンタッチで使いやすかったが、リーフの場合はハードウェアナビ側に急速充電器の位置情報が入っているため、逆にスマホのほうを使わなかった。

先進運転支援システム「プロパイロット」は、昨年2月の3300kmツーリングのさいの40kWhリーフと変わるところはなかった。目立って高性能ということはないが、単眼カメラしか持たないわりには悪天候下でも意外に根を上げることが少ないのは美点である。先行車の速度に合わせて追従するアダプティブクルーズコントロールもおおむね良く機能したが、新東名など一部の高速道路の制限速度が120km/hになっているご時世でもあることだし、設定速度が115km/h(実測約108km/h)までなのは修正していただきたいところだ。

まとめ

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リーフe+はバッテリーが1.5倍になったことで、これまでのリーフとは使い勝手がかなり違ってきた。充電速度が速い新型充電器を使えるうえ、従来型の急速充電器を使う場合でも1日に複数回充電するときの充電速度の低下が少ないため、遠乗り派にとっては俄然使いやすくなった。また、バッテリーの大容量化は街乗り主体のユーザーにとっても朗報。こまめに満充電にしなくても大して心配しなくていいからだ。

そんなリーフe+の最大のネックは価格だ。今回のツーリングに使用したトップグレードの「G e+」の価格は約473万円。わずか38万円上にはもうプレミアムDセグメントのテスラ「モデル3」がいる。航続距離はリーフと同じくらいだが、0-100km/h加速は5秒台と、ガソリン車の3リットルターボなみの加速力を持つ。充電も今回の90kW充電器を超える出力120kWのテスラチャージャーを使える。恐るべき敵だ。

テスラだけではない。プレミアムCセグメントのBMW『i3』も最低価格は543万円。こちらは航続距離はリーフe+に対して推定80kmほどのビハインドがあるが、カーボンコンポジット材を使ったボディなど、技術オリエンテッドな作りは高級車メーカーのモデルらしさを感じさせる。それより少し安い価格帯にはフォルクスワーゲン『e-ゴルフ』もいる。航続距離はさらに短いが、ホンダも小粋なデザインの『ホンダe』を準備中だ。今後、電動化モデルは増える一方だろう。

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ユーザーにとって、並みいるライバルの中でリーフe+を選択する動機になり得るのは、日産が「旅ホーダイ」と銘打っていた充電サブスクリプション(月額定額制)の存在だろう。1か月2000円払えば急速充電器が使い放題なのだ。

今日、サブスクリプションがやたらと持てはやされているが、こと電動車の充電に関しては他メーカーでサブスクリプションに手を出しているところはない。テスラは以前、充電無料にしていたが、それは廃止になっている。三菱自動車、ホンダは日産ほどではないにせよある程度おトクに充電できるサービスを展開しているが、輸入車勢は一度も外出先の充電器を使わなくても月額4000円くらいの固定費がかかり、充電した場合はさらに従量課金がなされるというNCS(日本充電サービス)のカードを作るしかない。

実は日産も、完全なコスト持ち出しとなっている充電サブスクリプションについて、出口戦略を模索している。が、今それをやめたら日本における日産のBEVの販売が激減するのは避けられない。また、既存客にサービスをやめると言い出すのもきわめて難しいだろう。サービスが続く限り、購入後のランニングコストの安さはリーフe+を選択する大きな理由足り得るであろう。今後の成り行きが注目されるところである。

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《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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