キーワードは「うつろい」、日産 アリア…東京モーターショー2019[デザイナーインタビュー]

日産グローバルデザイン本部エグゼクティブ・デザイン・ダイレクターの田井悟さん
日産グローバルデザイン本部エグゼクティブ・デザイン・ダイレクターの田井悟さん全 11 枚

東京モーターショー2019日産ブースには、近い将来市販化も検討されているという『アリア・コンセプト』が出展された。日産グローバルデザイン本部エグゼクティブ・デザイン・ダイレクターの田井悟さん(以下敬称略)にそのデザインについて語ってもらった。

EVのイメージと日本的なもの

日産アリア・コンセプト日産アリア・コンセプト

----:2017年東京モーターショーで披露されたコンセプトカー、『IMx』の後継モデルとされているアリアコンセプトは、近い将来の日産クロスオーバーEVのデザインを示唆しているものと聞いています。そこでまずこのデザインの狙いから教えてください。

田井:初代『リーフ』を作った頃は、その市場には我々しかませんでしたから、何を作ればいいのか、ある意味我々の自由でした。そこで初代リーフをデザインし市販化したのです。その結果として、日本では受けましたが海外は“ラブアンドヘイト”、好きな人と嫌いな人とがおり、少し嫌いな人が多かったのです。EVは実際に乗ってみると(走行フィーリングが)全く違いますよね。そこで現行リーフは、形はそれほど変わったものではなく、格好良いものを作ろうとデザインしました。

日産アリア・コンセプト日産アリア・コンセプト

実は、他社がここまでEVに参入してくるとは、我々は思っていませんでした。そこで他社の動向を見て我々が向かう方向性を決めていき、やはりガソリンで動くものとはテイストを変えたいと思っています。

EVは静かでスムーズである一方、モーターにより力強い走りもします。そこでデザインとしてはそういったEVに乗った時のイメージを表現したいと思いました。キーワードでいえばスムーズでスリーク、シームレスです。そこに新しいテイストとして日本的なものを入れていきました。実は前回の東京モーターショーに出展したIMxあたりから取り入れているのですが、この時はもっと大げさな入れ方をしています。そこからだんだんこなれてきて、自然な感じになったと思います。

日産アリア・コンセプト日産アリア・コンセプト

キャラクターラインではなく面で新しい感じ

----:アリア・コンセプトには、新たな日産のデザインが取り入れられていると聞きます。具体的にこのアリア・コンセプトにはどのように表現されているのですか。

日産アリア・コンセプト日産アリア・コンセプト

田井:今、話をしたスリークでシームレス、それと力強さの表現方法が、いわゆるガソリンの力強さではありません。ガソリンの時代の力強さは動物っぽい、フェンダーが力強いようなイメージですよね。そのあたりが違いのメインになっています。

アリア・コンセプトはそれなりに格好良く見えていると思いますが、実はうねるような面など、結構難しい作り方をしているのです。

日産アリア・コンセプト日産アリア・コンセプト

また、フロントのシグネチャーも、今までクロームでVの形を作っていたのですが、アリアコンセプトでは光だけで表現しています。また、グリルに穴を開けなくてもいいので、その部分をシンボリックにして、そこに日本の組子模様を見せてという処理にしました。そのあたりは新しいリダクションです。

全体として難しいのですが、面の作り方、テイストを重視しており、いわゆる筋を何本か入れて上を向いた面下を向いた面をデザインはしませんでした。

日産アリア・コンセプト日産アリア・コンセプト

----:全体としてすごく新しい感じがしますね。

田井:そこは狙っています。たくさんモデルを作って、最終的にはそういったテイストを出したかったのです。ボディサイドにあと2本ぐらい線(キャラクターライン)を入れると楽に作れるのですが、それはちょっと……。ある意味難しいことを一生懸命頑張っています。日産は割とそこをこだわりたいと思っているのです。線を入れればとても楽になるのですが、言い方は変ですが、ちょっと楽をしない形にしたということです。

日産アリア・コンセプト日産アリア・コンセプト

----:つまりかなり面で勝負しているということですね。

田井:全くその通りです。それから我々はキーワードとして、“移ろい”などということをいっています。我々が目指す面を作っていくと、見る目線の位置を変えたり、1日の時間が過ぎ光が動いていく中で、いろいろとその面の表情が変わっていくのです。それも取り入れました。

日産アリア・コンセプト日産アリア・コンセプト

景色を作る

田井:このボディカラーは“彗星ブルー”と呼んでいます。それは飛ぶ彗星の色ではなく、彗星が出そうな空の一瞬の色を、景色として捉えているのです。実は今初めていったのですが(笑)。

日産アリア・コンセプト日産アリア・コンセプト

でも本当にインテリアは最近景色で考えようと、そう作っています。そうすると広く感じるのですね、人間は。ここにハンドルがある、ここにインストがあると作っていくと全てに限界が見えてくるのですが、それを全体の中の景色として捉えると“ふわーっ”と広がりを感じる。ものを作るのではなく景色を作ることが大切なのです。

----:しかし景色を作るというのは、抽象的で難しいですね。

日産アリア・コンセプト日産アリア・コンセプト

田井:そうです。エクステリアに関しても、街中でのありようも少しそれを狙っているところがあります。

----:最近思うのですが、街中でクルマの存在がノイズになってはいけないと思います。

田井:我々がいっている景色とはそういうことです。街に溶けるのですが、消えるのではなくそこにきちんあるということです。

---:インテリアで景色を作りたいというお話でしたが、その景色を作り込む上で大事なこと、どういったこと意識するのですか。

田井:ここから先がハードルが上がるところなのですが、やはりそこも実をいうと、日本を意識しています。日本のものづくりには丁寧さがあります。不必要、過剰な作り込み……。クルマでそれをやるのは、量産のことも考えると限りなく難しいですね。

ただし、エクステリアと一緒のことなのですが、形を複雑にして見せていくほうがある意味簡単です。逆に要素を省いていくと、本当にシンプルなものの位置などで見せていかなければいけません。このクルマはスイッチもありませんので、日本的な間合いを取っています。IMxも実はそれを取り入れていまして、砂の庭の上に何か乗っている石庭のようなことを若干意識しました。

アリア・コンセプトは、形は全然違いますが、スピリットとしては発展系として捉えています。あの時のフロアは真っ平らで作りましたが、今回は曲線を描いています。それは表現という意味ではなくスピリット。動物の腰のうねりよりは砂浜の砂みたいな、動くぞという筋肉が縮んだものではなくおおらかな景色っぽさを意識しています。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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