【SUPER GT × DTM 交流戦】中嶋大祐が引退戦で“ポール獲得”の煌めきを見せる…悟さんの次男、一貴の弟

特別交流戦「レース2」のグリッドで、引退戦の中嶋大祐(左)を兄の一貴が激励。
特別交流戦「レース2」のグリッドで、引退戦の中嶋大祐(左)を兄の一貴が激励。全 7 枚

日本初開催の「SUPER GT × DTM 特別交流戦」、そこでは“ある引退劇”が同時進行していた。24日に予選と決勝が実施された「レース2」において、自身ラストレースだった中嶋大祐が予選トップタイムを刻むなど活躍。彼は笑顔を見せながら、新たな道へと踏み出していった。

多くのファンや関係者にとって、突然の引退宣言だった。朝、ウエット路面の富士スピードウェイで実施された予選において、トップタイムをマークしたのはホンダ勢のひとり#16 中嶋大祐(MOTUL MUGEN NSX-GT/#16はシリーズ戦ではヨコハマタイヤ使用、今大会は全車がハンコック製ワンメイクタイヤを装着)。その大祐が、予選直後に向けられた“ポールポジション インタビュー”のマイクに対し、「今日が自分の最後のレースです」との旨を話したのだ。

この日の決勝レース終了後に話を聞いたところ、引退については以前から決めていたことであり、これからは違う分野の活動に移るという。

中嶋大祐(なかじまだいすけ)は30歳。日本人初のF1レギュラードライバーだった中嶋悟さんの次男で、ルマン24時間レースを2連覇中の世界耐久選手権(WEC)王者・中嶋一貴の弟である。大祐も兄と同じくSUPER GT/GT500クラスやスーパーフォーミュラ(SF)といった日本のトップカテゴリーを主戦場に活躍してきた(大祐のSF参戦は17年まで)。

さて、予選トップタイムを記録した#16 大祐ではあったが、実はこれが“ポールポジションではない”ことは確定している状況だった。チーム無限のMOTUL MUGEN NSX-GTは金曜日の練習走行でヘビーウエット時に武藤英紀が大きなクラッシュに遭っており、土~日のレースに向けて車両交換を実施。そのため土曜(レース1=武藤)も日曜(レース2=大祐)も5グリッドダウンが既定事項だったのである。

つまり#16 大祐は6番手の位置から決勝ローリングスタートに参加することになるわけだが、予選1位という意味での“ポール獲得”を自身の引退戦でやってのけた。「金曜にああいうことがあって、(日曜担当の)自分にとっては土曜を一日空けた状態で(車両交換後のマシンに)乗ったわけですから、難しい路面コンディションでもあり、正直なところ自信はなかったですけどね。一生懸命やっていると(最後に)いいことあるな、と思いました」。大祐はレース後にそう振り返っている。

予選アタックを終えてピットに戻り、マシンを降りる時に彼が繰り出したガッツポーズは実にカッコいいものであった。「(引退戦であるという)個人のことより、チームとして今季は苦しいところがあって、ドライバーだけでなくチームのみんなが悔しい思いをしてきていましたからね。そこで“1番”という結果を出して、喜びを分かち合えたことが嬉しかったです」。彼のチームプレイヤーらしい面は最後まで不変だった。

午後、ドライでの決勝レースはかなりの乱戦になったが、そのなかで#16 NSXの大祐は上位を争い、最終的にはスタート順位と同じ6位でチェッカーを受けた。表彰台、優勝の可能性もありそうな内容だった。

「レース後半にタイヤのおいしいところを残しておく走りをしていたんですけど、それが活きるような展開にはならなかったですね。捨て身の攻撃をしてくるドライバーも結構いたりして(笑)。でも、おもしろかったですよ。すごく楽しかったです」

引退戦を走り終えてみての実感は、「思い残すことはないですし、お世話になってありがとうございました、という気持ちでした。チームみんなでスッキリとこのレースを終えられてよかった、というところです」と大祐。「スタート前の方が、多少しんみりしましたね。こういう景色を見るのも最後だな、と思ったりして」。スタート前のダミーグリッド上ではご家族(奥様とお子さんたち)はもちろん、ライバル選手たちも大祐のところに多く訪れていた。そのなかには同じレースを走る兄・一貴の姿も。

それにしても30歳での引退はいささか早い印象もある。引退戦で“ポール獲得”の煌めきを見せているだけに、なおさらそうも感じるが、偉大すぎる父と兄をもつなか、同じ世界で自身もトップカテゴリーで活躍をしてきたとはいえ、ふたりには及ばない、という境遇にあった大祐には、彼にしか感じ得ない独特な想いがあったようだ。

「まず、レースやクルマが嫌いになったわけではないので、そこは強調しておきたいです。父と兄がいる“重圧”みたいなものは、実は若い頃は難しく考えてなかったんですよ。でも、キャリアを重ねるにつれて『そういうことか』と思うようになりました。あらためて(ふたりの)凄さを知ることになった、という感じですね」

「そして、自分がレースを続けなくてもいいかな、と。家族ですからね。別にそこで(同じ場所で)僕がもう少し頑張ったりすることもないのかな、そんなふうに思いました」

これはあくまで筆者が取材者として外からサーキットでの活動を見てきた範囲での話だが、悟さん(現ナカジマレーシング監督)、一貴、大祐の“中嶋ファミリー”の距離感は実に絶妙であった。

ベタベタしたものではなく、かといってツッケンドンなわけでもない。まさしく適度な距離感。お互いを応援し合うというよりも、それぞれがそれぞれを信じ、それぞれの姿を横目に見つつ、それぞれの道を堂々と歩む、という感じに思えた。これまでは3者の道が、たまたま同じ場所で交わっていたが、そのなかで大祐が別の世界に自分の新たな進路を見つけ、そちらに踏み出すことになったようだ。

兄の一貴はレース後、大祐の引退についてこう語っている。「本人がやりたいことがあってする引退なので、前向きなことですし、いいと思います。最後に(チャンスがありそうだったのに)勝たないところがアイツらしいな、と思いますけど(笑)」。愛のある冗談で送り出せるあたりが素晴らしい兄弟関係に思える。また、大祐の引退戦で優勝したのが中嶋悟さんのチーム(ドライバーはN. カーティケヤン)だったというのも、実に“らしい”エールではなかったか。

日本初開催のSUPER GT × DTM 特別交流戦という華々しい舞台のなかで、突然かつひそやかに進んだ、ひとりのトップドライバーの退場ストーリー。涙ではなく笑顔が主役、そんな引退劇を終え、中嶋大祐は新たな道へと旅立っていった。レーサー時代の彼のファンには、別の道でも彼の未来が笑顔に満ちたものになることを祈っていてほしい。

《遠藤俊幸》

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