MaaS受容性調査(2):東京23区で駅徒歩10分圏内に住んでいる人の割合は…

MaaS受容性調査(2):東京23区で駅徒歩10分圏内に住んでいる人の割合は…
MaaS受容性調査(2):東京23区で駅徒歩10分圏内に住んでいる人の割合は…全 10 枚

MaaS受容性調査(1)では、“MaaS”の認知度について紹介しました。
MaaS受容性調査(1):“MaaS”の認知度

MaaS受容性調査(2)では、世界的に見ても高い水準で公共交通機関が発達し、人々の生活を支えている東京23区。23区在住者の電車利用の実情とペインポイント、求められているサービスについて考えます。

前回の記事では、今、注目を集める「MaaS」の概要と、その言葉が一般にはまだ浸透していないという現状をお伝えしました。今回は、MaaSにおいて重視される「公共交通機関の利用」という点について、23区在住者の移動手段の実情や、海外の定額制移動手段予約・決裁サービスの事例などと合わせてご紹介したいと思います。

手法:インターネットアンケート(アンケートパネルに配信)
回答者条件:東京23区に住む15-79歳男女
サンプル数:1998s
サンプル構成:23区在住者の性年代構成比と同じになるように回収

23区居住者の3分の2が駅徒歩10分圏内に住んでいる

株式会社イードが実施した、東京23区在住者を対象にした「MaaS受容性調査」で、最寄りの電車の駅までの徒歩時間を聞いたところ、以下のような結果となりました。

自宅から最寄り駅(電車)までの徒歩時間

実に3分の2の人が、最寄りの駅まで歩いて「10分以内」の場所に住んでいるという結果となりました。また「15分以内」もあわせると9割にのぼり、23区居住者の大半が「駅からの徒歩圏に住んでいる」と言えそうです。

また電車の利用頻度を聞いたところ、「週6日以上」利用している人が3割、「週4~5日」利用している人が2割強。合わせて半数以上の人が「週4日以上」電車を利用していることが分かりました。

電車利用頻度

通勤・通学時の主な交通手段を聞いたところ以下の結果となり、3分の2の人が電車を利用して通勤・通学していることが分かりました。

通勤/通学時の主な交通手段

このように、23区居住者にとって「電車」は生活に欠かすことのできない、身近で重要な足となっています。

東京23区独自の事情

次に、MaaSとの関連からこの状況を見てみたいと思います。

話が変わりますが、MaaSという世界的な潮流において、重要な事例と見られているのが、フィンランドの首都ヘルシンキで始まった「Whim」というサービスです(サービスの提供会社はMaaS Globalという民間企業です)。これは、公共交通機関やタクシー、自転車シェア、レンタカーなどの複数の移動手段を1つのスマホアプリで予約・決裁できるサービスであり、定額の月額料金を払えば、公共交通機関は無制限で使え、タクシーを含むその他の移動手段も(回数制限はありつつ)安価で使えるという、画期的なサービスです(料金体系は3パターンあり、定額制ではないパターンも選択できます)。なおこのサービスが生まれた背景には、「公共交通機関の利用率を上げ、自家用車の利用率を下げることで環境問題に対応する」という課題意識があります。

この「Whim」の成果をまとめたレポート「WHIMPACT」には、Whimが達成した成果の1つとして、公共交通機関の利用が増えたことが挙げられています。

図

「Whim」の成果をまとめたレポート「WHIMPACT」

Whimを使っていない人の公共交通機関の利用率が48%であるのに対し、Whimを使っている人の利用率は63%であったとする内容です。

※そもそも公共交通機関をよく利用する人がWhimを使う傾向にあると考えられるので、“Whimのおかげで利用率が上がった”と厳密には言えないという問題点や、比較するデータが揃っていないという問題点もあるようですが、「公共交通機関利用が多いグループ」の利用率として63%と提示されていることにご注目ください。

しかし、ここで改めて前述の23区における交通手段(通勤・通学の手段)と見比べると、23区在住者の66%は電車を使っており、Whimが成果として挙げている「公共の交通手段の利用率」は、23区では既に達成されていることに気づきます。

さらに話はそれますが、MaaS(狭義のMaaS)の定義は、「複数の交通手段をまたぎ、シームレスに検索/予約/決裁できること」でした。「Whim」はまさにこの理念を実現したサービスです。しかし翻って日本の状況を振り返ると、例えば「ナビタイム」「Yahoo!乗換案内」に代表されるような人気の経路検索サービスを使えば、すでに“複数の交通手段をまたいだシームレスな検索”が可能です。また、老若男女を問わず多くの人が所有しているSuicaやPASMOなどの交通系ICカードは、以前から“複数の交通手段をまたいだシームレスな決済”が可能でした。

このように、少なくとも東京23区に代表されるような日本の都市圏では、(狭義の)MaaSが達成しようとしていることの一部は、すでに達成できているという見方もあるでしょう。こういった“すでにある資産”を改めて見直し、それをどう活かしていくか考えることも、地域の実情に合わせた“MaaS”の実現において重要であり、より現実的なサービスを作り出していく上で必須の作業であると言えるでしょう。

電車利用におけるペインポイント

ここまで、東京23区在住者の電車の利用率の高さを見てきました。しかし、そんな23区在住者も、電車移動において何も問題を抱えていないわけではありません。調査を通じて、電車利用における2つの課題(ペインポイント)が浮かび上がってきました。

1. 移動時の快適性

電車での移動に関する不満を聞いたところ、最も多いのが「混雑している」、続いて「座れない」と、“移動時の快適性”に関する項目が上位2位を占めました。一方、「待ち時間が長い」「本数が少ない」といった“交通手段としての利便性”について不満を持つ人はほとんどいませんでした。

電車での移動に関する不満点

つまり利便性の高さから、「快適性」には目をつぶって利用している人が多いことがうかがえます。通勤/通学となれば毎日のことであり、かつ長時間利用する人も多いので、致命的な問題とはいえないものの、軽視することのできない重要なペインポイントであると言えるでしょう。

2. 駅から10分以上歩くこと

先に、23区在住者の3分の2は駅徒歩10分圏内に住んでいて、15分以内も合わせると9割に上ることを紹介しました。では、ほとんどの人が「駅から近くて便利」と思っているのでしょうか。調査結果を見ると、そうではないようです。

まず、通勤/通学の交通手段を、最寄駅までの徒歩時間ごとに見たのが以下の表です。

通勤/通学時の主な交通手段

駅までの徒歩時間が10分以上、15分以上となるにつれ、通勤/通学手段で「電車」を選ぶ人が減っています。

また、「電車移動の不満」で、「自宅から駅まで遠い」と回答した人の割合は以下のようでした。

「自宅から駅まで遠い」と答えた割合

10分以上、15分以上となるにつれ、「駅から遠い」と感じる人が増えています。

さらに、自宅から最寄り駅までの徒歩時間を世帯年収ごとに見てみました。

自宅から最寄り駅(電車)までの徒歩時間

世帯年収が高い(=住宅選びにおける自由度が高い)ほど、「駅徒歩10分以内」の場所に住む人が多くなります。

※600万円~で少し下がるのは、“ファミリー物件を選ぶ人が増えるから”という可能性が考えられます。

これらをあわせて考えると、「駅まで10分以上歩くこと」は23区在住者のペインポイントとなっている可能性が高いと言えます。

必要とされている移動手段/移動サービスとは

ここまで、23区在住者の電車利用におけるペインポイントとして「移動時、快適でないこと」、「駅まで10分以上歩くこと」の2点があることを見てきました。このペインポイントは、裏を返せば、それを解決してくれるサービスのニーズがあると言えるでしょう。

そう考えると、「移動時、快適でない」という点においては、多少利便性やコスト面で電車に劣ったとしても「電車より快適に移動できる」移動サービスにニーズがあると言えそうです(同じ電車ではありますが、首都圏で「座れる有料通勤電車」が人気なのは、こういった背景があると考えられます)。例えば、「座ってPC作業ができる」「快適に眠れる」「身体を休められる」等の付加価値があれば、バスやライドシェア等、電車以外の交通手段も通勤時の移動手段として注目される可能性があります。

また、「駅まで10分以上歩くことが遠いと感じる」という点においては、“駅までの快適な移動手段(ファースト/ラストワンマイルモビリティ)に対するニーズがある”と言い換えられそうです。

今回の調査では、自宅から駅までの徒歩時間が長くるほど自転車の利用頻度も高くなる(週6日以上使う人が増える)という結果が出ました。この結果から、今、駅から遠い場所に住んでいる人のうち一定数は、駅まで自転車を使って移動していると推測することもできそうです。

自転車の利用頻度

しかし自転車は、「悪天候のときの利用が制限される」という不満を持つ人が多いなど、「快適」とは言い切れないモビリティでもあります。

自転車での移動に関する不満(上位5項目)

「駅までの移動手段(ファースト/ラストワンマイルモビリティ)」として、自転車より快適なサービスが出現すれば、普及する可能性は高いでしょう。超小型EVなどがその候補として挙げられそうです。かつ、それが本当に快適な移動手段であるなら、今は敬遠されがちな「駅から遠い住宅」の価値が上がる可能性もありそうです。

まとめ

今回は、東京23区における電車の利用率の高さ、日本独自の事情を考慮したMaaSを目指すべきこと、電車利用におけるペインポイントとそこから求められるサービスを見てきました。次回は「東京23区における車の保有」についてご紹介したいと思います。

MaaSレポート販売のお知らせ

株式会社イードでは、生活者の視点から「必要とされているMaaSとは何か」を探るため、アンケート調査を企画・実施しました。初回となる今回の調査では、都市型MaaSをテーマに、東京23区在住者を対象としました。この調査結果をまとめたレポートを販売いたします。また、今後、地方型MaaS、観光型MaaSをテーマにした調査も行う予定です。

このレポートにご興味のある方は、以下のボタンから、弊社のWebサイト(iid.co.jp)で価格などの詳細をご確認の上、お問い合わせください。

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本調査についての他記事はこちら
MaaS受容性調査(1):“MaaS”の認知度
MaaS受容性調査(3):東京23区で自家用車は必要ない?

《三浦志保》

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