理経・スバルが取り組む「HILS+VR(仮想現実)」技術は自動車開発に飛躍的なスピードをもたらす!

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HILS+VR空間を実現する機材の説明を受ける飯田さん
HILS+VR空間を実現する機材の説明を受ける飯田さん全 17 枚

OEMやサプライヤーにおいて3Dシミュレーションを使ったモデル開発が浸透して久しい。

近年のシミュレーション技術は、流体・構造・電子回路・化学反応など物理現象の多くを計算で再現してくれる。実験や解析、試作のコストを下げるだけでなく、試作では再現できない条件、デザインのトライアルさえも可能になる。

限界とも言われていた内燃機関の熱効率の改善、高度な運転支援制御、静粛性と運動性能を両立させたタイヤなど、3D技術とシミュレーションが、数多くのブレークスルーをもたらしている。

しかし、シミュレーションがいくら発達しても、最終的な実車テスト、フィールドテストは決してなくすことはできない。とくにレベル2以上の自動運転技術の開発には、機械学習のため、あらゆる道路、走行条件での膨大なデータが必要だ。そのため、多くの自動運転技術に携わる企業は「何十万キロの走行実験」といった指標を使うわけだ。

結局、高度な自動運転開発では、実験や設備に莫大な投資が可能な巨大IT企業や大手メーカーが有利となってしまうのだが、独自のアプローチでこの分野の先行技術開発に挑む企業がある。アイサイトをいち早く市場投入し、ADASブームの先陣を切ったスバルだ。

話し手:スバル 第一技術本部 自動運転PGM 担当 小山哉
    理経 新規事業推進室 XRソリューショングループ 田村貴紀
聞き手:飯田裕子

シミュレータによるECU開発

―最初に、スバルが自動運転開発に導入しているという新しいシステムについて教えていただけますか? どんなシステムなのでしょうか。

小山:HILS(Hardware in the Loop Simulation)というシミュレーション技術にVR、いわゆる仮想現実の技術を取り入れたものです。HILS自体は、従来からあるもので、簡単にいうと、実車の代わりに車両の動きをコンピュータ上で再現するシミュレータを使って、ECUの開発と動作テストを行うしくみです。従来であれば、開発したECUプログラムを「弁当箱(=コントロールユニット)」にロードして実車に組み込んでテストするわけですが、ECUの先に実車ではなく、シミュレータ、つまりコンピュータですが、それをつなぎます。

「HILS+VR(仮想現実)」技術の概要図「HILS+VR(仮想現実)」技術の概要図
―なるほど。つまり、実際の車がなくてもECUの開発をできるようにするため、車の動きを再現するシミュレータを使うということですね。

小山:はい。ここまでが、HILSと呼ばれるシステムの説明です。次に、これを自動運転用ECU開発のために、理経の「認識シミュレータ」を新たに追加しようと考えました。認識シミュレータは、車両シミュレータからの車両モデルと道路モデルから、現実と同じようなVR画像を生成するものです。ここで生成された画像を各種制御ECUを含む自動運転コントローラのカメラ入力とします。

生成する画像は、カメラの設置位置ごとにリアルタイムで生成します。つまり、実車のカメラが撮影する映像の代わりに、認識シミュレータが現実と同等な映像を作り、映像信号を自動運転コントローラの知能ユニットに送ります。知能ユニットというのは、いわゆるAIと呼ばれる部分で、DNN(深層ニューラルネットワーク)プロセッサを搭載した画像認識ユニットです。

レベル2以上の自動運転を想定しているので、実際の開発環境には、高精度の地図データとロケータユニットも搭載しています。

自動運転開発に必要だった技術

―そもそも、スバルさんが自動運転の開発にHILS+VR技術を組み合わせた開発システムを作った理由はなんだったんでしょう?

小山:以前、レヴォーグのレーンキープアシスト機能の開発をシミュレーションでやっていた経験があるのですが、そのときは正直、地獄をみました(笑)。シミュレーションを使っても、車線維持だけでこんなに苦労するなら、自動運転となると時間もコストもどれくらいかかるかわからないくらいです。

SUBARU 第一技術本部 自動運転PGM 担当 小山哉さんスバル 第一技術本部 自動運転PGM 担当 小山哉さん
スバルの自動運転のプロトタイプ台車には、4台のレーダー、8台のカメラ、そしてGPSアンテナなど、センサー類が各段に増えます。従来のHILSは、スイッチ、熱センサー、圧力センサーといったセンサー入力は処理できますが、複数のカメラからの入力は実際に撮影する必要があります。ここをシミュレータで仮想化してやらないと、テストコースや実際の道路で膨大なデータを収集しなければなりません。

現実と同じような映像をVR上に生成して自動運転コントローラに読ませる仕組みが必要でした。

詳細な道路データであらゆる走行条件をVR空間に再現する

―なにかかなり特別なシステムのようですが、HILSにVRを組み合わせることは他のメーカーも行っているものですか?

田村:認識シミュレータのためにVRを利用する動きは最近の事だと思います。

理経は、技術商社として60年以上に渡りシステム提案及び開発を行っており、数年前からEpicGames社のUnrealEngine4というゲームエンジンを用い、“フォトリアル“をキーワードに、光の再現に拘って防災、安全教育向けVRの開発を始めました。

そのリアルなVRが、社内外に対してすぐれた技術リサーチのアンテナを張っていたスバルの自動運転開発チームの要求に合い、HILSとVRを組み合わせる自動運転の開発環境の構築、とくに車両開発向けのカメラ認識シミュレータの開発に参画しています。

理経 新規事業推進室 XRソリューショングループ 田村貴紀さん理経 新規事業推進室 XRソリューショングループ 田村貴紀さん
―認識シミュレータとはどのようなものなのでしょうか。

田村:実世界をシミュレータのVR空間にリアルに再現する事で、今回の自動運転開発システムやレーンキープ(LKAS)や追従クルーズ(ACC)を含むADASの開発に必要な認識画像データの作成を行っております。

―認識シミュレータを作る上で大変だった部分はございますか?

田村:単に綺麗なCGを作成するのでは不充分で、既にお客様の中で利用されている他のシミュレーションソフトとの連携が大変でした。
当初理経には認識シミュレータいわゆる車両開発向けVRの経験はなく、まず理解したのは、路面モデル、車両モデル、ドライバモデルの3つがシミュレーションには必要になることでした。

最初に出た課題は路面モデルの精度の統一で、VR空間で作成した路面とシミュレーションソフト上にある路面が合致しない事でした。VRで作成した路面を走行すると、車が道に埋まったり空中に浮いたりと、使い物にならなかったのです。

モータージャーナリストの飯田裕子さん(左)SUBARUの小山哉さん(中央)、理経の田村貴紀さん(右)モータージャーナリストの飯田裕子さん(左)スバルの小山哉さん(中央)、理経の田村貴紀さん(右)
―そこで同席頂いたバーチャルメカニクスとAtlatecの2社が登場になるわけですね。

田村:Atlatecですが、VR空間で一番重要な路面モデルを提供しています。車両にステレオカメラを主とした専用の機器を搭載して、お客様が望むルートを実際に撮影し、それを元にシミュレーション用の路面モデルを作成されております。その路面モデルは、高精度の位置情報だけでなく、路面の勾配、カント、ガードレール、路肩や標識など周辺の情報も座標データとして持っており、それに合わせてVR空間を作成することが可能となります。

お客様の多様化するシミュレーション環境にに合った路面モデルを低コストかつ短期間で提供いただいています。


バーチャルメカニクスはCarSimというシミュレーションソフトを扱っております。
CarSimは10年以上前から自動車開発のシミュレーションソフトとして国内に留まらず海外OEMも含めて利用しているソフトになります。車両モデル、路面モデル、ドライバモデルと3つのモデルから車両運動をシミュレーションできるソフトになっております。弊社としましても、CarSimと連携する技術を確立した事で、既にCarSimを利用しているお客様に自信を持って提案できる事が非常に嬉しく持っております。

―VR空間を使う事で考えられるメリットはどのようなものでしょうか?

田村:車両と路面の詳細モデルがあれば、VR空間は、撮影時・測定時の再現だけでなく、時間、天候なども任意に設定できます。夜間で雨だと路面はどう見えるか、西日があたるとどうなるか。凍結路面と新雪状態ではどう変わるのか。といったシミュレーションがVR上で可能です。

―現在取り組まれている課題があれば教えてください。

田村:今はVR空間がセンサーでもリアルに見えるような取り組みを進めています。

まずカメラについては、実車両に搭載されるカメラと同じ画角、解像度、レンズゆがみ、色補正が必要になります。そのため、我々は実際にお客様が利用されている実カメラの特性を測定し、その特性をVR空間に落とし込む取り組みを行っております。一例ですが、広角レンズを使っている場合、レンズの外側が伸びるため、その伸びに合わせたレンズモデルを提供しなければなりません。

もう一つはLidarで、VR空間上で周辺車両やガードレール等のオブジェクトとの距離の出力を行う取り組みを行っております。ただ、点と点であれば簡単に出力できるのですが、面と面の中で一番近い点同士の距離を出力する事は難しく試行錯誤しております。

1日かかっていた走行パターンが30分でチェックできる

―自動運転の開発環境を作るだけでたくさんの会社や技術が関係しているのですね。HILS+VRを組み合わせたこのシステムで、実際の開発はどう変わりましたか?

小山:開発のスピード感が圧倒的に違います。実車でテストする場合、テストコースへの移動を含めると1日に5か6パターンくらいしか走行データはとれませんが、シミュレーションなら30分もあれば、同じデータが取れます。対歩行者のための機能などは、そもそも実験環境が限られるので、シミュレータなしでは開発もできません。

VR上にクルマを走らせシミュレーションを繰り返すVR上にクルマを走らせシミュレーションを繰り返す
シミュレータによる開発は、これからも増えると思っています。それは、走行に関するシミュレーションだけでなく、既存開発のスリム化と品質を維持し続けるために車内空間でのドライバーの操作、メーターパネルの表示といったHMIにかかわる開発にも有効だからです。

―時間と労力がかかる自動運転の走行データの収集と走行テストの一部を、シミュレーションでまかなう手段を得たわけですが、この技術で目指す自動運転のレベルはいくつになるのでしょうか。

小山:スバルでは、「2030年に死亡交通事故ゼロ」を目標に掲げて安全技術の開発を続けています。自動運転はそのためのひとつの手法という位置づけなので、自動運転の特定レベルを目指すという考え方はしていません。

が、指標として2020年中盤にレベル2+アルファを実現すべく開発を進めています。

―そろそろまとめとなりますが、自動運転技術についての今後についての取り組みはどのような物になるのでしょうか。

小山:スバルの考える自動運転は、あくまでドライバーがあっての技術です。手放しの運転ができても、実際の道路で数十秒で手動運転要求のワーニングが出ては意味がないですし、スバルが安全と判断できるもの以外は世に出ることはありません。このシミュレータを用いた開発により「安全」「安心」「高品質」な自動運転車の開発を行い、スバルの「安心と愉しさ」を自動運転でも大切にしていきたいと考えています。

田村:ドライビングシミュレータや車両デザインでのVR事例は多くありますが、車両開発にVRを活用する取り組みはまだ始まったばかりです。理経としてはHILS+VRの取り組みを第一線で進められている小山様のチーム、技術ご協力されている両毛システムズの皆様が必要とする機能を創っていきたいと考えます。本日同席頂いたバーチャルメカニクス様、Atlatec様と協力しスバル様、そして国内に留まらず自動運転技術の向上の一助になれればと考えております。

HILS+VR空間技術の開発とそれを応用した自動運転開発を行う開発チームのメンバーHILS+VR空間技術の開発とそれを応用した自動運転開発を行う開発チームのメンバー
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《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

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