“お出かけ”による”地域創生” 地方の交通課題を持続可能な「相乗り」で…シェアショーファー 代表取締役 桃坂利彦氏[インタビュー]

“お出かけ”による”地域創生” 地方の交通課題を持続可能な「相乗り」で…シェアショーファー 代表取締役 桃坂利彦氏[インタビュー]
“お出かけ”による”地域創生” 地方の交通課題を持続可能な「相乗り」で…シェアショーファー 代表取締役 桃坂利彦氏[インタビュー]全 1 枚

UberやNotteco、Crewなど外資、日本企業問わず、地方の二次交通の課題解決に取組んでいるベンチャー企業は日本に複数存在する。しかしながら、一般人が一般人を乗せる「ライドシェア」で事業として成り立っている企業は存在していない。かつてUberとの協業を打ち出し、業界で大きな論争を生んだ兵庫県養父市は、地元のタクシー会社3社が中心とって立ち上げたNPO 法人養父市マイカー運送ネットワークで、自家用有償旅客運送事業を行うなど、日本型のライドシェアへの模索は現在も続いている。

このように課題が多い日本の「ライドシェア」に、2017年から愛知県春日井市にある高蔵寺ニュータウンで住民のために乗り合い事業を始めたベンチャー企業が登場した。代表取締役の桃坂氏はモビリティ業界出身ではなくゼネコン出身という異例の経歴を持っている。

Uberなどの取組みで難しさが浮き彫りになっている日本において、なぜライドシェア事業への参入を決めたのか。持続するためのビジネスモデルについてどのように考えているのか。日本、特に地方における二次交通にベンチャー企業が取組む意義は何か。株式会社シェアショーファーの桃坂代表取締役に話を聞いた。

桃坂氏は、 1月30日開催セミナー【MaaS2020】陸・海・空~ネットワーキングセミナー~に登壇する。

高齢者の方に日常の「お出掛け」を提供

---:シェアショーファーとはどのような会社ですか?

桃坂氏: 私がシェアショーファーという会社を始めたいと考えたのは、高齢者に対する移動サービスが日本には必要だと感じたのがきっかけです。個人的な話で恐縮ですが、私の両親は現在福岡の田舎に住んでいます。両親ともにまだ元気な時は自動車を運転できたので移動に関して問題はなかったのですが、高齢になり免許を返礼することになりました。

近くに一軒だけスーパーがあったので、そこへの移動であれば地域の公共交通機関を活用すれば行けるので良かったのですが、そのスーパーが閉店してしまいました。そこから買い物や医療機関への移動が日常生活で大きな課題となりました。

免許返納しても、日常生活では様々な場所に移動しなければなりません。今はタクシーを使っていますが、月にするとかなりの出費になります。私の両親と同じ問題を抱えた方は日本には大勢います。この問題の解決につながるサービスが現状ほとんどないか、あっても使い勝手が良くありません。

では私が何とかしなければ、と考えたのが起業のきっかけです。

---:シェアショーファーの社名の由来は?

桃坂氏: 「ショーファー」とはお抱え運転手の事で、お抱え運転手を同一地域に居住する複数の高齢者(会員)により「シェア」、共有することで、自家用車による移動がしやすくなるという提供サービスを社名にしています。 複数の高齢者(会員)で運転手を共有するため、その利便性を図るために「相乗り制」「移動範囲の限定」そして「IT活用型配車システム」を採用しています。これにより、会員である高齢者はいつでも自由に好きなだけ移動することが可能となり、ドア・ツー・ドアによる移動手段が可能になります。

---:桃坂さんは元々モビリティ業界に興味を持たれていたのですか?

桃坂氏: 私は元々ゼネコン業界の人間でした。ただ、交通工学は土木関係にも深く関係しています。道路、橋、トンネルなどインフラ設備の施工を手掛けていました。その関係で交通に関するコンサルティングのようなことも業務でやっていたということもあり、交通分野に興味はありました。

MaaSはモビリティから始まりますが、大きなところで言うと、スマートシティ構想に繋がります。その中では車での移動もまちづくりの重要な要素です。ゼネコンから始まり、都市工学にもつながるこの分野に興味を持っていました。

規制の壁が立ちはだかる

---:今のビジネスモデルについて教えてください。

桃坂氏: 弊社はタクシーとバスの中間のサービスを提供しています。具体的には、車両とドライバーを別々に手配しマッチングするビジネスです。このモデルに行き着く前ですが、最初は旅行業で始めようと思っていました。

HISさんや他の旅行代理店さんが行っている貸切バスツアーをイメージされるとわかりやすいと思います。例えば、東京から観光バスに乗って、千葉の漁港の魚を食べるバスツアーがありますよね。そのバスツアーをぎゅっと地方の生活圏内に絞って1カ月内の旅行ツアーとして地元住民に提供できないかというアイデアでした。

このアイデアは愛知県とも話をしてOKだと言われました。私はこの制度のお墨付きを持って事業展開をできればと考えていたため、経済産業省のグレーゾーン解消制度を活用し、観光庁からも「違法行為ではない」というお墨付きをもらったのですが、その直後に国土交通省から、認められないという連絡が来ました。

---:国交省からはストップがかかったのですか?

桃坂氏: はい。国交省からはグレーゾーン解消制度で承認された直後に、観光の目的地として駅、銀行等は目的地としては適さないと言われました。理由としては、観光業としてのツアーにも関わらず、実態としては観光目的地への移動ではなく、生活目的で使われてしまうということでした。

行き先として駅や病院や銀行は観光ではないということです。私は医療関係では医療ツーリズムとして観光業が認められているじゃないかと話はしたのですが、意見が覆ることはありませんでした。そういったこともあり、旅行業法でライドシェアを行うことは諦めました。

タクシーとバスの中間の機能を持つモビリティサービス

桃坂氏: 次に、HISさんがやられていたジャスタビさん(現在は、株式会社タビナカの子会社)のように、車(レンタカー)とドライバーを別々に調達するという枠組みを考えました。この方法についても、経産省のグレーゾーン解消制度を使い、国交大臣の印鑑をもらって、OKをもらいました。交渉に2年間かかりましたが、法的な課題をクリアすることができ、今のビジネスモデルに落ち着きました。

---:御社のサービスの特徴は?

桃坂氏: 地方の高齢者・買い物弱者と言われる人たちは、自家用車で移動できない人たちということになります。NPOなどが行っているボランティア団体の移動サービスを除けば、そういった人たちの移動手段は現状ではタクシーしかありません。自家用有償旅客運送制度も正直使い辛い。

そうなると、自家用車が無ければ、次はタクシーしかないという二択だと、二次交通の選択肢としては幅がありすぎるのではないかと思っています。そこで弊社ではタクシーとバスのちょうど中間にあたるサービスを提供しようと考えました。道路運送法そのものを変えるのは難しいのですが、その規制の枠組の中であってもできるものはないかと考えたのが今の事業モデルです。

---:国交省からはこの事業モデルについては特に指摘はなかったのでしょうか?

桃坂氏: 国交省とは、この事業モデルについて話した時に、モデルとしては、ジャスタビと法的な位置づけは一緒なので、わざわざグレーゾーン解消制度を使わなくてもいいじゃないかと言われました。たしかに、グレーゾーン解消制度を使っても使わなくてもこの件の最終照会先は国交省になりますので、使わないという選択肢もありましたが、旅行業の時の、良いと言われても翌日には駄目と言われた苦い思い出がありましたので、正式にしっかりと書面で確認したほうが良いと判断して申請しました。

社会実験から社会実装に向けて

---:規制に関してはかなり慎重に進められたと言うことですね。

桃坂氏: はい。弊社のような新しいビジネスは技術的に膨らませることは可能ですが、法制度をそこに合わせていくことが最も大変です。特に弊社のような小さな会社だと個社で頑張って規制を変えるということは不可能に近いです。モビリティ業界はベンチャーにはさらに厳しいと実感しています。実証実験のような、「社会実験」はできたとしても、「社会実装」は難しい。それを少しでも変えていきたいと高蔵寺ニュータウンでの取組みを行っています。

---:高蔵寺ニュータウンでの取組みについて詳しく教えてください。

桃坂氏: 弊社がサービスを提供している高蔵寺ニュータウンは愛知県春日井市にあるニュータウンです。東京の多摩ニュータウン、大阪の千里ニュータウンと並ぶ3大ニュータウンのひとつがこの高蔵寺ニュータウンなのです。

高蔵寺ニュータウンは名古屋市から直線距離で言うと20km弱。時間にして30分程度の距離にあるベッドタウンとして成長してきました。ニュータウンの人口は4万2000人ですが、高齢者率は30%越えており、日本平均よりも高齢化が進んでいる地域と言えます。地域的にはニュータウンの真ん中に、商業エリア・施設があり、その中心から半径2kmくらいが商業圏として設定されています。ニュータウンには大きな総合病院が2つあり、JRの高蔵寺駅も病院の近くにあります。

弊社はそれらの場所を利用できるエリアをサービス利用圏内に設定し、その中を自由に動いてもらえるモビリティとしてご利用いただいています。弊社はあくまでもドア・ツー・ドアが重要だと考えています。弊社のサービスはタクシーとバスの中間とお話しましたが、ドア・ツー・ドアで移動するタクシーの良さと、相乗りができるバスの良さを合わせたものを提供したいと思っています。

---:バスやタクシーのような既存の交通機関との関係は?

桃坂氏: 弊社はバスとタクシーの中間のようなサービスとして利用してもらうことを目的にしています。利用者の移動目的にあわせて、必要な移動サービスは異なると思います。弊社はバス、タクシーとの協力関係を築けると考えております。必要な目的、距離に応じてタクシー、バスも使いながら、必要な時に弊社のサービスも使ってもらえるという関係が良いと思っています。

---:予約・マッチングはどのように行っていますか?

桃坂氏: 高齢者の方がターゲットユーザーですので、電話で配車を行っています。システムは、コガソフトウェア株式会社さんの「孝行デマンドバス」のシステムを使用しています。このシステム上で乗客の相乗りをつないでいます。デマンドバス自体は日本では頭打ちの状況ですが、そのデマンドバスの配車システム自体は発展できる余地はまだまだあることもあり、コガソフトウェアさんと協力して開発しています。

---:利用者の費用はどれくらいでしょうか?

桃坂氏: 高蔵寺ニュータウンでのモデルは、利用者の方々が車と運転手を別々に手配しています。弊社が提供しているのは運転手、つまり運行管理です。

車を弊社が提供することはできませんが、現在利用者の方々が利用している車の利用費として、車のリース会社に月1000円払っています。その上で、弊社への運行管理費は1日使ってもらうと700円かかります。利用者からみれば月に1回の利用だと1700円という計算です。現在は平日のみの運行ですが、午前8時から午後5時の間は乗り放題です。

この制度を維持するためには利益をあげないといけませんが、高蔵寺ニュータウンの中での取組みでは現状、収支のバランスは取ることができます。今は1台だけですが、これを5~8台に増やし、利用者も増えると1つの地域の中でビジネスモデルが完結できます。

シェアショーファーが目指す未来

---:御社が目指すモビリティとはどういったものでしょうか?

桃坂氏: モビリティ業界の皆が思っていることですが、このような相乗りやファースト/ラストワンマイルの移動はやがては自動運転車が担うことになります。弊社がやっていることは将来の自動運転車の使い方の1つであると考えています。

自動運転の時代とは、誰もがドア・ツー・ドアの移動が可能になる時代です。弊社としてはまだ先にある自動運転の時代の前に、地域に合わせた移動の需要を、複数の利用者を複数の車台でマッチングすることを行いたい。高蔵寺ニュータウンでの取組みは、その前にこのサービスを1地域の高齢者に対して提供して実証を行っています。

モビリティという観点で考えると、交通事業は目的地がないと成立しないビジネスですが、将来は移動だけで成り立たなくなる時代になります。今は目的地がないと成立しませんが、移動自体に付加価値が生じることになります。そのような未来像があるため、今、トヨタのE-Paletteはじめ、様々なメーカーさんがこの移動の分野に参入していると言えます。

---:MaaSの中で移動の価値が変わるということですね。

桃坂氏: はい。最終的には観光MaaSがひとつのイメージだと思います。移動と観光をつなげるということです。どういうことかと言うと、遊園地に遊んでいる時を思い出してほしいのですが、遊園地にいる間は観覧車からジェットコースターの間を移動している間も、ただの移動ではなく、その移動自体が観光としての価値を遊園地は提供しています。移動がそれだけで存在するのではなく、空間、時間、目的地と一体となり繋がっていく。そして、最終的には移動が消えていきます。その未来に近づけるための第一歩が移動の変革で、今まさにそれが起こり始めています。

---:最後に御社の今後のビジネス展開を教えてください。

桃坂氏: ニュータウンでは高蔵寺ニュータウンだけでなく、春日井市周りの市も名古屋からのベッドタウンが複数ありますので順次広げていきたいと考えています。そして市と市をつなぐ移動も実現することで、弊社のサービスが飛び飛び存在するのではなく、市を越えて、観光バス的につないでいくことをしたいと思っています。

ターゲット顧客も、今は高齢者ですが、やがて観光客や若手世代にも広げていきます。弊社サービスの利便性が理解してもらえれば、主婦が所有する2台目の車はいらなくなります。地方では今でも家庭に2台車があるところが多いです。1台目は仕事用、2台目は生活用となりますが、弊社のサービスは生活で使う2台目の車に置き換わることができます。

重要なのは社会実験をすることではなく、社会実装ができるかどうかです。弊社のようなベンチャー企業が今の日本の法制度で、ライドシェアをビジネスとしても維持するためには、弊社のやり方しかないと思います。もちろんお金を取らなければ何でもできますが、それではただの社会実験で終わってしまいます。

色んな人に弊社のサービスを認知してもらうには時間がかかります。今後は社会実装として提供エリアを広げていきたいと考えています。このモデル自体は拡大が可能です。協力いただけるメーカーさんなどがいらっしゃれば、リース車を用意していただくことで、それから先の運行管理、サービスは弊社が提供できます。弊社は様々な地元のニーズに根付いた移動サービスが提供できるという柔軟性・強みがありますので、弊社の取組みに関心を持っていただける会社がいらっしゃれば是非一緒に取組んでいきたいと考えています。

桃坂氏が登壇する 1月30日開催セミナー【MaaS2020】陸・海・空~ネットワーキングセミナー~はこちら。

《安永修章》

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