チラシ、名刺、パンフレットなどの印刷・広告のシェアリングプラットフォームとして浸透した「ラクスル」。デジタル化が進んでいない伝統的な産業にインターネットを持ち込んで、産業構造を変えようと挑んでいる。次なる産業は物流だ。なぜ人流ではなく、物流なのか。
ラクスル ハコベル事業本部 一般貨物事業統括部長の鈴木裕之氏に聞いた。
鈴木氏は、 2月18日開催セミナー「MaaS×物流」の最前線に登壇し、テクノロジーを中心とした物流の問題解決への取組みと展望について講演する。
物流を誇れる業界にしたい
ハコベルは2015年から軽貨物を対象にサービスを開始。2018年に一般貨物へと事業を広げました。順調に取扱量を伸ばしています。
---:軽貨物から始めて、家電、家具、港湾など他業種の荷主、運送会社、小売などの顧客を見つけるのは難しかったのではないですか?
鈴木氏:ハコベルのメンバーは、メーカー物流部、3PL(サードパーティ・ロジスティクス)、運送会社などの出身者で、物流業界に対して強い課題感を持った人が集まっています。
ただ単にデジタル化したいだけではなく、"物流を誇れる業界"にしたいという気概を持って働いています。
イノベーションが起こりにくかった業界
鈴木氏:物流業界はDX(デジタルトランスフォメーション)から遠い業界でした。会社の中での物流部門ではIT投資の優先順位は決して高くなく、改革をしようというマインドにならなかったわけです。
また多くの運送会社の売上は約5~50億円程度で、営業利益はその内の数%程度です。ITへ投資する体力がなかったり、自社内の業務を狭い範囲でIT化する程度で、関係先となる荷主や倉庫などと、システムを統合したり標準化するまで至っていません。
物流部門を第三者企業に委託する業務形態3PLの会社は、ハコベルと同じようなシステム投資をし始めていますが、自社内の資源を統合するERPシステムが中心で、荷主、運び手、受け手の全体を最適化するシステム開発まで至っていないのが、実情ではないでしょうか。
"分散"しているものに強いシェアリングエコノミー
ハコベルのようなサードパーティーの強みは、荷主でも運送会社でもないため、自社のリソースを、IT化した新しいシステム・世界観の中で「やりたい!」と手を挙げる企業に集中させ、物流業界のDXを代わりに進めることができるわけです。
さらにシェアリングエコノミーは、まとまった状態のものではなく、物流のように、点で散らばって分散しているようなものに合っています。
物流はエンジニアが着目していない分野
---:なぜ人流ではなく、物流に着目したのですか?
人流のモビリティにおいては、MaaSへの投資が進み、タクシー配車アプリ、カーシェアなどのプレーヤーが凌ぎを削り、レッドオーシャンのような状況です。
一方、物流分野はまだまだエンジニアの注目度が高くないですが、ホワイトスペースの大きな市場です。プレーヤーは相対的に少なく、社会的貢献度も高いと考えました。
今後はさらに優秀なエンジニアを集めて、高度化させていきたいと考えています。
IT化の先へ
---: 今後チャレンジしたいことは?
鈴木氏:ハコベルが占めるシェアはまだ業界の約1%未満です。しかし、取引量が増えることで、様々なデータが蓄積し始めていて、今後は様々なことに取組むことができそうです。
物流業界はまだ業務をIT化させようとする段階にあって、生成されるデータを数理分析し、新たな仕組みを作るまで至っていません。
既存の取引を機械学習させて、適正価格を表現するなどの受発注のプライシング、帰り荷のマッチング、需要サイドの行動を変える最適化、アナログ的に行われている輸送モード(宅配、路線、軽貨物、チャーター)の最適化など、様々なことにチャレンジしていきたいと思っています。
鈴木氏が登壇する 2月18日開催セミナー「MaaS×物流」の最前線はこちら。