【川崎大輔の流通大陸】アセアンからの外国人自動車整備エンジニア その8

右奥(横山専務)
右奥(横山専務)全 5 枚

日本の会社では「社内に外国人労働者を受け入れるべきか否か」という議論がなされている。しかし、そこには大きな問題が隠れている。つまり「門戸を開けば外国人はきてくれる」という前提での議論だということだ。今一度考えてみてほしい。優秀な外国人労働者は本当に日本で働きたいと望んでいるのだろうか?

考える前にまずは行動、初めての外国人採用!

株式会社横山モータース(横山隆仁社長、岐阜県各務原市)では、フィリピンから2名の技能実習生を受け入れた。現地面接では「夢を持っているか、更に人柄を見て選別を行いました。この人と一緒に働きたいかというところを重視しました」(横山専務)、更に「フィリピン人たちは、誰よりも早く出社してきます。そして掃除をしています。素直ですし、仕事も一生懸命です」と語る。

横山専務は、「外国人を受け入れることにしたのには、私たちの夢もありました。将来の海外進出です。自動車ビジネスを通じて雇用を現地に創り上げる。社会へ貢献ができると感じます。日本では自動車整備は不人気な仕事です。しかし、海外では自動車整備エンジニアを希望する、そんな人がけっこういます。外国人を雇用することで日本の社内に海外の文化を入れておきたと思いましたし、海外と繋がりを持っておきたいと思っています」と語る。

「外国人の活用を検討されている企業様に対してアドバイスするとすれば、まず判断する前に外国人の雇用をした方が良いです。雇用が不安であれば、あれこれ考える前にまず確認するための行動をした方が良いと思います。例えば外国人を受け入れている会社を視察してみるとか、自ら海外視察ツアーに行く
などされると良いです」(横山専務)。更に「小さなことでも良いのでまず動く。これが大事。動いた後に判断すれば良いと思っています。そうでなければずっと外国人は雇用できないでしょう」と指摘する。

既に取り合いになっている外国人整備人材

株式会社大壕オートサービス(出島敬一社長、福岡市中央区)では、10年前から外国人整備人材を採用している。当時日本人が雇用できなかったため、補充要員として中国人エンジニアを採用したのがきっかけだ。現在はベトナム人の技能実習生を含め5名の外国人整備人材が働く。過去の外国人活用の経験も活用しながら、ベトナム人技能実習生の業務の教育や生活サポートに積極的に関わり受け入れ体制を整えていった。社内での教育は、現場では専任がついて補助的なことをやらせている。業務後のチェックは日本人が行い、技能実習生が間違っていた場合はその日本人担当者の責任というスタンスで行っている。日本のテキストをベトナム語に変換して教えており、自動車整備3級のテキストなどもベトナム語のものを使い教育をしている。

外国人を雇用する時、彼らを気遣い、日本人も彼らも平等に1人の人間として接していくことは当たり前だ。「ベトナム人は、遠い日本に1人で来ていて寂しがったりすることもあります。たまに他社で働くベトナム人同士の交流も行うようにしています。また社員旅行、忘年会、福岡ソフトバンクホークスの野球観戦など、社員のみんなと一緒イベントに参加したり、食事に行ったりする機会を作っています。日本人だから、ベトナム人だからという区別はありません」(出島社長)。更に「なるべく日本人の社員と触れ合う機会を作ってあげる方が、社内の業務もコミュニケーションも円滑になり社内が活性化します」と指摘する。出島社長は「自動車整備でもベトナムが人気で、他国との取り合いになっています。今後も良い人材がベトナムから採用できるか心配です」と、既にベトナム人の将来の獲得競争が起こっている。

加熱する人材獲得競争

今後、日本の地方では外国人を活用せずに生き残るのは難しい状況になっている。人口が減っているのがいけないのではなく、生産性人口が急激に減っているということが重大な課題となっている。日本で働いてくれるベトナム人がいるうちに、我々は真剣に彼らとの共存を考える必要がある。彼らをしっかりと仲間として受け入れ、迎え入れる覚悟が必要な時期にきていることを伝えたい。

日本の自動車業界で外国人を活用、雇用を拡大していくには、外国人に対する理解、そして企業側の受け入れ体制構築が重要となる。独自に行った自動車業界経営者へのアンケートでも「自動車整備の外国人技能実習生について検討しています」「自社の課題として自動車整備人材の採用は課題であり、その解決の一助が海外からの人材の受け入れにあるのではと可能性を感じている」「外国人を受け入れたいが、マネジメントやコミュニケーションがきちんとできるか不安というのが外国人雇用における大きな壁となっている」などの声が出ている。

確かに初めて外国人を雇用する経営者は不安だろう。しかし、考えてみてほしい。外国人が働いたことがない会社に入るという、外国人材の方がもっと不安ではないだろうか。

今後はベトナム含め外国人材の採用が難しくなっていくことは間違いない。日本に来ているベトナム人にも変化が見られる。少し前では都市出身のベトナム人の技能実習生もいたが、最近ではベトナムの地方にまで採用に行く必要がある。

安くて都合の良い外国人労働者として活用をしているのであれば、将来痛い目を見ることになる。優秀な外国人を雇用するには「選ぶ」ではなく「口説く」という姿勢が必要なのだ。

<川崎大輔 プロフィール>大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年より自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、アセアンプラスコンサルティング にてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。2017年よりアセアンからの自動車整備エンジニアを日本企業に紹介する、アセアンカービジネスキャリアを新たに立ち上げた。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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